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民間防衛、身代金、日本旅行…スイスのメディアが報じた日本のニュース

演説する神谷幣平氏
参院選で大躍進を遂げた参政党の神谷幣平代表はスイス公共放送SRFとのインタビューで、「スイスから国防について多くを学んだ」と語った Kyodo News via AP

スイスの主要報道機関が9月10日~16日に伝えた日本関連のニュースから、①スイスの影響を受けた参政党・神谷代表②スイスはアメリカに日本流の身代金を払うのか③スイス人が日本に行く理由、の3件を要約して紹介します。

スイス政府が冷戦下に全国民に配布した指南書「スイス民間防衛」。今ではスイスより日本に読者が多いことはスイスインフォでも報じていますが、「時の人」参政党の神谷幣平代表もこれを愛読していることがスイス公共放送で明らかに。参政党の躍進はスイスメディアもやや批判的なトーンで報じていただけに、驚きです。

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スイスの影響を受けた参政党・神谷代表

参院選での大躍進以来、スイスメディアでも参政党への注目が高まっています。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は神谷幣平代表に単独インタビューし、「スイスから国防について多くのことを学んだ」との言葉を引き出しました。

神谷氏が議員会館の事務所でSRFに見せたのは、スイス政府が1969年に国民に配布したハンドブック「スイス民間防衛」。冷戦下の核攻撃に備えるための指南書で、神谷氏はこれを自身の安全保障政策の手本にしているとし、「国防の面でスイスから多くのことを学んだ」。「翻訳書を読んで初めて、外国の思想に対する内的なレジスタンスをどう育むかや、経済的な抵抗力を培うことの大切さを認識した」と語りました。

しかし思い通りにはいきません。世界的に核の脅威が高まるなかで日本の核武装を呼びかけても、唯一の被爆国では物議を醸すばかり。外国人排斥的な発言と受け取られるが、神谷氏は外国人そのものが憎いわけではなく、「一番懸念しているのは、日本の文化や習慣が消滅してしまうことだ」と語りました。 

政治学者の羽場久美子氏はSRFで、参政党は「イタリアの兄弟(FdI)」やスウェーデン民主党、スイス国民党(SVP/UDC)といった欧州の右派政党に似ていると指摘します。スイス国民党はかつて、怯えた表情の白い羊が黒い羊を追い出す絵のポスターを作り、移民が生活水準や社会福祉制度を危険にさらすというイメージを強調しました。羽場氏は参政党も同じ手法をとっていると見ています。

記事は、参政党の手法は複雑な問題に対し単純で非現実的、時に危険な解決方法を提示するものだという批判があると指摘します。神谷氏はこうした批判について、「どう表現するかにもよるが、国民の不満の原因は過去の政治が常に『それはできない』と言い続け、解決策を探しもしなかったことにある、というのが我々の解釈だ」と語りました。(出典:SRF外部リンク/ドイツ語)

スイスはアメリカに日本流の身代金を払うのか

米ドナルド・トランプ政権に39%の高関税を課されたスイス。関税率だけ見れば、15%にとどまった日本や欧州連合(EU)と比べ敗北感が漂いますが、ドイツ語圏大手紙NZZは日欧に追随することに警鐘を鳴らしています。

「アメリカが仕掛けた関税紛争は、身代金要求による恐喝という、試行錯誤を重ねたマフィアの原則に基づいている」。記事は、EUが米国製品への産業関税の撤廃や農産物の特権的市場アクセス、米企業への投資、防衛装備品の購入を約束させられたと説明。日本も巨額の投資を約束しましたが、「しかし日本の投資コミットメントのモデルは新たな次元に到達した」とします。

なぜなら投資先はアメリカが決め、日本が拒否すれば再び関税引き上げの危機に直面することになります。投資収益の半分はアメリカの懐に入り、一定額を超えるとアメリカの取り分は9割に増えます。「つまりこれは正真正銘の身代金支払いに他ならない」        

EUの投資資金についても、トランプ氏は当初アメリカが自由に使えると主張していましたが、EUはこれを否定。一方日米合意については、「確かに『日本が支払い、アメリカが命令する』という原則に基づいているように見える」

記事によると、米ルトニック商務長官はスイスのギー・パルムラン経済相との会談に先立つ5日、ブルームバーグとのインタビューでスイスにも日本と同様の身代金を要求する意向をちらつかせました。4億5000万人の消費者を抱えるEUと異なりスイスの人口は900万人しかおらず、アメリカで儲けたスイス企業がアメリカでの購入を増やすと約束するだけでは不十分だ、と語りました。

ただし日本と異なり、スイスでは外国との条約・協定は国民投票の対象となるが、とても国民の理解を得られそうにない、と記事は続けます。「アメリカがスイス製品に対する輸入関税を10~20倍ではなく、5倍に引き上げることを防ぐためだけに、巨額の身代金を支払う。それを説明するのは不可能に近い」(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

スイス人が日本に行く理由

スイスでは空前の日本ブーム。今週は、スイス人が日本に旅行する理由を探る特集記事が2本ありました。

大衆紙20min.の記事はまず、日本ツアーの盛況ぶりをスイス旅行会社に聞きました。DERTOURスイスのアジア担当者によると、日本への旅行者は毎年2桁成長を遂げています。TUIスイスも日本に寄稿するクルーズやアイランドホッピングの人気が高まっていると言い、系列ホテルを日本に開業する予定。スイス・インターナショナルエアラインズは来年3~5月末の桜の時期に、直行便を毎日運航する計画です。

チューリヒ大学のダヴィッデ・キアヴァッチはスイス人が日本に魅了される理由の一つとして、日本の「非西洋文化の歴史と近代性の融合」を挙げています。「治安は非常に高く、交通機関を含む公共インフラの質も非常に高いため、スイス国内の旅行は快適で、比較的ストレスフリーです」

もう1本は、NZZのラファエラ・ロートゥ記者自らの体験に基づいた考察です。「今日、日本で休暇を過ごす人は、『私は流行に敏感、しかも世界レベルで』と言う。東京が好きな人は『私はセンスがある、しかも正しくミニマリスト的に』と言う」。周りの人々から話を聞いた筆者は自分も日本に行かなければと感じたものの、「今思うと、みんなウソをついていた」と振り返ります。

「私は日本を、時間に正確な電車とおいしい食べ物がある、一種のヨガのリトリートだと想像していた」。こう話す筆者は、日本で自分の理解できないことに向き合ったり、時間を引き延ばしたりしたいと考えていました。そして実際、日本は「明快な線引きと距離感への憧れを満たしてくれるのは間違いない」と続けます。

しかし観光客にとっては「どこにも自分の居場所がないと感じる」場所。例として、ある受付の女性が純粋な親切心なのか筆者をからかっているのか分からないほど高い声で応対したことなどを挙げます。「このように、日本は後ろ側を見ることのできない背景のままなのだ」(出典:20min.外部リンクNZZ外部リンク/ドイツ語)

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今年の「都道府県地価調査」では全国平均の地価が4年連続で上昇し、背景として外国人投資家による大都市圏やリゾート地の購入が指摘されました。スイスでも外国人、特に移民・外国人労働者が地価を押し上げているという言説は広まっていますが、これは本当なのでしょうか?スイスインフォはスイス不動産コンサルのヴュースト・パートナーによる全国調査をもとに、外国人の需要が地価に与える影響を探りました。

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校閲:上原亜紀子

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