
「移民が住宅不足・価格高騰を招いている」は本当? スイス調査で見る

外国人労働者の増加が住宅危機を引き起こしている――住宅の価格上昇・供給不足が発生するなか、移住や駐在でスイスに住み働く外国人の増加が原因であるとの不満が上がる。実際、外国人はスイス人と同じような住宅を好むのか?
スイスの不動産市場では数年来、賃貸、一戸建て、分譲のいずれにおいても価格上昇が続いてきた。加えて住宅不足に陥る地域も広がっている。価格上昇の要因としてやり玉に挙がるのが移民だ。
過去25年間でスイスの人口は720万人から900万人余りまで増えた。これは主に労働移民を受け入れたためだ。スイスでは移民の流入数から流出数を差し引いた純移民数はこの10年特に多かった。2023年以降はウクライナからの難民の流入も加わった。
こうした状況を受け、スイスでは政治的な論争が起こっている。移民増による住宅危機の悪化を懸念する声は大きくなっており、昨年末に大筋で合意した欧州連合(EU)との新たな二国間協定に関する交渉にも影響が出ている。
近年の移民増は主にスイス国内に要因がある。専門人材が不足するスイスは国外人材に目を向けており、2024年には新規雇用に占める外国出身者の割合は3分の2に上った。特に近隣諸国の出身者が多く、純移民数で見た場合、ドイツ、フランス、イタリアの出身者がほぼ40%を占めている。
コンサルティング会社のヴュースト・パートナー(Wüest Partner)外部リンクは最近スイスの不動産市場に参加する移民(駐在員を含む)の行動と、それが賃貸市場と価格に実際に及ぼす影響を調査した。この調査は感情的になりがちな議論を客観視するのに有用だ。
都市、地方、ベッドタウン
同調査によると、移民は都市を好む。地方への移住も検討すると回答した外国人移民は全体の3分の1にすぎず、スイス人の40%に比べると低い。
外国人移民もスイス人も同じように大都市を好む。しかし外国人移民は、都市と地方の中間地域である都市近郊のベッドタウンや中小都市に移住することが多い。こうした地域は安価であるにもかかわらず交通の便がよいためだ。
海外からの純移民数を州別に見ると、全国平均を上回っているのはジュネーブ州、ヴァレー(ヴァリス)州、バーゼル・シュタット準州、シャフハウゼン州、ヌーシャテル州、チューリヒ州だった。
特に目立つのは大都市を抱えるジュネーブ州、バーゼル・シュタット準州、チューリヒ州で、住宅不足と高い家賃にもかかわらず外国人移民の多くが最初の居住地として選択している。一方スイス国内での移住に限ると、これらの州では転出者数が転入者数を上回り転出超過となっている。
報告書を作成したヴュースト・パートナーのチーフアナリスト、ロバート・ワイナート氏は、国際的な大企業があるジュネーブとチューリヒには高技能労働者が流入しているとし、「こうした人材は高い家賃を支払う能力がある」と話す。同氏によると、スイス国内での移住は国外からの移住とは対照的に、家族が増えたことがその理由であることが多い。広い住居を必要とする場合、安価な都市郊外に移住することが少なくないという。
スイス国内での移住に限ると、シャフハウゼン州とフリブール州が際立っている。両州はスイスの国内の他地域からの転入が転出を大きく上回っているのが特徴だ。シャフハウゼン州はフリブール州と異なり国外からの移住者も多い。
ワイナート氏は「両州では家賃と住宅価格共に比較的低く、税負担も小さい。特にフリブール州は全国的に見れば税金が安いとは言えないが、税金の高いヴォー州やベルン州の間に位置しており移住者に好まれる条件を備えている」と話す。
移民は利便性、スイス人はQOLを重視
同調査で回答者の90%以上が住宅を選ぶ際に最も重視するものとして挙げたのは、価格や家賃、広さ、快適さ、明るさだった。回答に国籍による違いはなかった。それらに次いで重視する要素には、スイス人と外国人で違いが色濃く出た。スイス人は環境にやさしい素材、エコ電力などといった持続可能性や、社会環境との近接性をより重視している。対照的に、外国人移民は職場との距離や自動車及び公共交通機関のアクセスの他、地域の学校を重視していた。
こうした違いは人口構成の差が背景にある。同調査によると、外国人移民は若いが就労年齢にあり子どもを持つ者が多いため、移住先を選ぶ際には生活上の実用性を重視する。スイス人世帯は平均年齢や生活水準が高く、住居の質や周辺環境がより重要だと考えている。子どものいる世帯でもこの傾向は明確だ。
狭い家に住む外国人
スイス人に比べると、外国人が求める1人当たりの居住空間は明らかに小さい。スイス人世帯の1人当たりの部屋数は平均1.9部屋、一方外国人世帯では1.4部屋だった。平均した居住面積はさらに小さくなる。
ワナート氏は、背景には所得の違いがあるとみる。外国人世帯は子どもの数が多く1人当たりの居住面積が小さくなる一方、スイス人は持ち家率が高く居住面積も大きくなりやすいという。
借り手か買い手か
2023年のスイス国籍者のみ世帯の44.1%が持ち家世帯だった。スイス・外国籍者混在の世帯では27.5%、外国籍者のみ世帯では12.3%にとどまる。
同調査によると、長年スイスに居住する移民であってもほとんどが賃貸住宅に住んでいる。
外国人は平均年齢が若かったり、長期滞在を目的としていなかったり、資金が不足していたりすることがその理由だ。特に相続財産が十分でないことはスイスで不動産を取得する際の大きな障害となる。
2013年から2023年にかけ、スイス人世帯における持ち家率は0.5ポイント低下した。外国人世帯の下落幅は1.8ポイントだった。
家賃と不動産価格への移民の影響は?
同調査からはまた、移民の多くが賃貸住宅に住み続ける一方で、数年後に所得が上がり持ち家や別荘を購入する者が増えていることがわかった。
移民の流入が賃貸住宅市場の需要を押し上げると、スイス人や外国人の一部は持ち家市場に流れるため、間接的に持ち家価格も上昇するという。
ヴュースト・パートナーの推計では、人口が1%増えると一戸建ての住宅価格は0.88%、分譲価格は1.37%、募集家賃は1%それぞれ高くなる。
つまり移民の流入がもたらす価格押し上げ効果は、賃貸市場も持ち家市場もほとんど同じだ。移民の多くが賃貸住宅を選ぶのに家賃押し上げ効果がそれほど大きくないのは、家賃が厳しく規制されているためだという。
ヴュースト・パートナーは報告書の総括として、住宅価格への影響は移民以外の要因の方が大きいと強調している。「住宅価格には住宅ローン金利や経済成長、インフレ率が大きく影響する。家賃については基準金利、インフレ率、空室率が重要だ」
編集:Balz Rigendinger、独語からの翻訳:安田稔、校正:ムートゥ朋子

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