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氷河崩壊で被害の村、洪水の危険 スイス南部

村の全景
土砂崩れから1日経った村の様子 Keystone / Jean-Christophe Bott

スイス南部ヴァレー(ヴァリス)州で崩壊した氷河と土砂により麓のブラッテン村の大部分が埋まり2日が経った。スイス当局は、レッチェンタール(レッチェン谷)に堆積した大量のがれきによってせき止められた水が、あふれ出す可能性があると警告している。

28日午後、ビルヒ氷河の一部と同時に約300万立方mの岩石がブラッテン村に崩れ落ちた。ヴァレー州当局によると、谷底に堆積した氷と岩石の総量は1000万立方mに上るとみられる。

土砂崩れが起こったクライネ・ネストホルンの現場も依然不安定な状態にあり、さらなる落石や土石流の発生が懸念されている。

カリン・ケラー・ズッター連邦大統領は30日午後に被災地を視察する予定。

レッチェンタールからの洪水の恐れがあるとして、ガンペル・シュテークの地域指令センターは29日夜、住民に対し、迅速な避難に備えるよう呼びかけた。影響を受ける可能性のある住民には、谷底やガンペル・シュテーク周辺以外に宿泊場所を確保するよう求めた。連絡が取れない可能性のある親族やペットなどの動物についても考慮するよう呼びかけた。

これまでに、レッチェンタールからは365人が避難している。

「谷を離れる選択肢はない」

ブラッテン村の家屋は瓦礫の下50〜200メートルに埋まり、教会さえ見えない。かろうじて、いくつかの屋根が村の端にわずかに顔を出しているだけだ。

土砂に埋まった村
土砂に埋まった村 Keystone / Jean-Christophe Bott

「地図からひとつの村が消えた」とヴァレー州の政治家クリストフ・ダルベレイ氏は語る。「家も、思い出も、教会も、墓地も」、ブラッテンの住民たちはすべてを失い、農家は耕す土地すらないと話す。

ブラッテン村の復興・再建については、現時点では不明だ。

しかし、ダルベレイ氏は「レッチェンタールはこれからも人が住み続ける。谷を離れるという選択肢はない」と強調した。

土砂が迫る村
土砂が迫るブラッテン村 Keystone / Jean-Christophe Bott

なぜ氷河が崩れた?

地質学者のハンス・ルドルフ・コイゼン氏は独語圏スイス公共放送(SRF)に、土砂崩れの理由について「簡単に言うと、クライナー・ネストホルンからの大規模な地滑りによって氷河が崩壊した。地滑りによる岩石が氷河を圧迫し、バランスを崩した」と語る。同氏によれば、同種事態はスイスではこれまで起こっていない。

コイゼン氏は、気候変動と今回の土砂崩れを直接結びつけることには慎重な姿勢を示す一方で「近年アルプスでは、ピッツ・チェンガロなど山頂の大規模な崩壊が繰り返されているのは注目に値する」と指摘した。

「1000年に一度の出来事」

スイス保険協会は、今回の土砂災害の損害額は数億フランに上ると見積もる。

「ブラッテンが再建されるかどうかは、住民自身にしか答えられない問題だ」と、ヴァレー州選出の政治家ベアト・リエダー氏は30日付の独語圏スイスの高級紙NZZに語った。

リエダー氏は、アルプス地域における自然災害への防護対策のため、連邦政府からの追加財政支援を求めた。「850億フランの国家予算の中で、山間部の住民のための財政支援を出せないのなら、いったい何に使うというのか」

リエダー氏は「ここで私たちが経験したのは1000年に一度の出来事であり、だからこそ誰もその対処法をまだ分かっていない。比較対象がまったくない」と述べた。

村
土砂崩れに襲われたブラッテン村 SRF

「住民には状況を冷静かつ的確に説明し、不安を取り除く必要がある」とリエダー氏は述べ、今最も重要なのは、この渓谷をこれ以上の被害からどう守るかという問題だとした。そして「今後数日間が危機対応チームにとって決定的な期間になる」とも語った。

スイス全体として、より多くの防護構造物が必要であり、それだけでは不十分な場合には包括的な監視システムの整備が不可欠だと、リエダー氏は述べた。

ブラッテンについては、「連邦予算の中には削減可能な支出項目が多数ある。そうした資金を活用すれば、ブラッテンの復興に多くを充てることができる」と語った。ただし、まず最優先で取り組むべきは「人々が再び戻って来られるようにすること」だと付け加えた。

避難する車
ヘリコプターで吊り上げられ、「避難」する車両 Keystone / Jean-Christophe Bott

備えは万全に

レッチェンタールは警戒が続く。がれきの上に形成された湖の水位は引き続き上昇しているが、現時点で決壊は起こっていない。

ヴァレー州の地質学者ラファエル・マヨラズ氏は仏語圏スイス公共ラジオ(RTS)のインタビューで「現在の状況は比較的好ましい」と述べ、「はっきり言えば、水が2.5kmにわたる堆積物の中を通り抜け始めている。時間が経つにつれ、壊滅的なシナリオのリスクは減少している。ただし、そのリスクを完全に忘れてはいけない」と説明した。

当局は引き続き警戒を続けており、土砂災害の下流に位置するローヌ渓谷周辺の自治体でも対策が進められている。

「避難の可能性に備えた体制は、数週間続くだろう」とマヨラズ氏は語る。「ロンザ川が堆積物の中に比較的安定した水路を形成するまで、この状況は続くだろう。また、水の『ポケット』が新たに形成されるリスクもある。我々が決してしてはならないのは、警戒を緩めることだ。それこそが、危険が去ったか確証が持てない今、最悪の対応になるだろう」と強調した。

地滑り前後のブラッテン村:2024年11月3日と2025年5月29日

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英語からの翻訳:宇田薫

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