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中東紛争、スイス家計への影響は?

紛争が始まって以来、航空燃料価格はおよそ2倍に高騰し、航空運賃の上昇を招いている。
中東での紛争が始まって以来、航空燃料価格はおよそ2倍に高騰し、航空運賃の上昇を招いている。 Keystone / Silva Schnurrenberger

イラン戦争は世界的なエネルギー危機を引き起こし、欧州からアジアに至るまで、産業に広範な影響を与えている。比較的小さな打撃で済んでいるスイスでも、家計負担は避けられない。

工場の操業停止やエネルギー配給制に直面するアジアと比べると、紛争がスイス経済に与える影響は間接的かつ緩やかだ。それでも、エネルギー価格の高騰や航空運賃の値上げなど、家計の圧迫要素はじわり増殖している。スイスはエネルギーの約3分の2を輸入に頼り、世界的な価格変動や供給途絶、インフレ圧力に揺さぶられやすい。

家計支出の中で最も増加した項目は

連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)の経済予測主任、アレクサンダー・ラトケ氏によると、最も大きな影響を受けているのは燃料、ヒーティングオイル(暖房油)、航空旅行だ。「これらの分野はエネルギー市場や国際物流と密接に関係しているため、地政学的な緊張に迅速に反応する」

スイスでは燃料供給は途絶えていないものの、価格は大幅に上昇した。ディーゼル燃料は4月下旬時点で1ℓあたり平均2.14フラン(約430円)と、2カ月で16%上昇した。無鉛ガソリンは約10%上昇し、1ℓ1.87フランに達した。

スイスの建物の約35%で使用される暖房油は100ℓあたり約100フランから一時150フランに跳ね上がったが、4月下旬には135フランに落ち着いている。

住宅の6棟に1棟で使用される暖房用ガスも値上がりしている。スイスが指標とするオランダTTF価格は、開戦以来30%近く上昇した。

夏休み期間中の航空燃料は十分?

スイスでも航空燃料への関心が高まっている。燃料価格は紛争開始からほぼ倍増し、航空運賃の高騰を招いている。国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は4月中旬、ヨーロッパのジェット燃料備蓄は「あと6週間分程度」しかない可能性があると警告した。

スイス当局は、状況は制御できているとしている。連邦経済省国家援護局(BWL/OFAE)は、スイスの空港における燃料(ケロシン)は2026年5月末まで確保され、緊急備蓄もあると述べている。現在の航空燃料備蓄量は71日分と、政府の目標値90日分を下回る。

スイス援護局は4月29日、ガソリン、ディーゼル、暖房油、航空燃料の供給は2026年5月末まで確保される見込みだと発表した。しかし、欧州への供給量は5月に減少する見通しだ。

深刻な供給不足が生じた場合、スイス政府は民間企業が管理する義務的備蓄を利用できる。ガソリン、ディーゼル、暖房油の国家備蓄は4カ月半、ケロシンは通常3カ月分と定められている。

備蓄の放出に加え、当局は国民に対し、エネルギー節約、効率的な運転、公共交通機関の利用、速度制限の引き下げなどを呼びかけ、燃料消費の抑制を図る可能性がある。

暖房費が上がる?

当局によると、燃料価格の上昇が必ずしも暖房費の即時上昇につながるわけではない。ガス供給会社ガズナットのジル・ヴェルダン社長は「供給業者によって状況は異なり、2026年の供給量を確保している業者もあれば、そうでない業者もある」と話す。一部の供給業者は、戦争前に今年の燃料契約を結んでいた。

一方、流通大手ミグロ傘下のミグロール社は、暖房油価格の上昇分を価格に転嫁する方針を示した。マーケティング部のダイアナ・アイゼンベルク部長は「暖房油は世界市場で取引されており、価格は非常に変動しやすい」と語った。

元LNGブローカーのジャン・クリスチャン・ハインツ氏は、価格調整は請求サイクルを通じて徐々に反映されるため、その影響が完全に現れるのは3~6カ月後になると予想している。

同氏はドイツ語圏のスイス通信社Keystone-SDAに「石油・ガス価格の更新は、請求と同じペースで行われるわけではない。すべては供給業者との合意内容と、彼らが提供するエネルギー構成によって決まる」と説明した。

スイスが軽傷なのはなぜ?

KOFのラトケ氏によると、スイスへの家計への影響が他の欧州諸国に比べて小さいのは、複数の理由がある。

「第1に、スイスの家計消費に占めるエネルギーの割合は、他の欧州諸国に比べて小さい。第2に、スイスの家計向け電気料金は通常、1年単位で事前に設定されているため、市場の変動が価格に反映されるのが遅れる」

また、エネルギー相場の多くがドル建てで決まるため、フラン高が国内価格への緩衝材として機能する。「現在のスイスフラン相場は、2022年の原油高騰時と比べ大幅に高くなっており、スイスの消費者への影響を緩和するのに役立っている」

2022年のロシアによるウクライナ侵攻直後に起きたエネルギー危機下では、フランは平均で1ドル=約0.96フランで推移し、等価(1ドル=1フラン)に下落する場面もあった。足元では1ドル=約0.79フランで取引されており、2022年比で2割ほどフラン高・ドル安水準にある。

インフレが進む?

スイスの3月のインフレ率は前年比0.3%と、2025年3月以来1年ぶりの高さに上昇した。戦争によって生じた燃料費の上昇を吸収した数字と言える。
石油製品は前年同月比5.3%高くなり、航空運賃やパッケージツアーも値上がりした。

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は、 2026年通年のインフレ率予想を0.2%から0.5%に引き上げた。国際基準から見ればなお低い水準だ。対照的に、ユーロ圏のインフレ率は4月に3%に上昇した。

ガソリン・ディーゼルの高騰を受け、電気自動車(EV)への関心が高まっている。一部報道外部リンクによると、3月中旬~4月中旬の一部プラットフォームにおけるEVの検索件数は前年比50%近く増え、1月~2月中旬の8%増から飛躍的に伸びた。
旅行にも影響を与えている。旅行会社によると、多くのスイス人が休暇の予約を延期したり、アジアやオセアニアに中東経由で旅行する代わりにヨーロッパ旅行を選択したりしている。

スイス経済にとって、より大きなリスクは?

スイスにとって最大の脅威は、ヨーロッパ全体で不確実性が長期化し経済成長が鈍化することだ。

スイス経済管轄局(SECO)は最近、2026年の成長率予想を1%と、12月時点の1.1%から下方修正した。

BAKは、原油価格が100ドル以上で推移すれば、スイスの国内総生産(GDP)は最大25億フラン、伸び率は0.3%押し下げられると試算する。家計支出は年間約1700フラン増加する可能性があるとみる。だがその影響は、例えばディーゼル車を所有しているか自転車を所有しているか、石油ボイラーを備えた大きな家に住んでいるか、電気暖房の小さなアパートに住んでいるかなどによって大きく異なりそうだ。

連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)の気候研究者であるシリル・ブルンナー氏 は、年間エネルギー費用の増加額はさらに大きく、50億フラン近くに達すると予測する。その最大の割合を占めるのは航空燃料(14億フラン)で、暖房用石油を上回る。2022年のウクライナ侵攻直後に消費者を直撃した化石燃料の追加コストに匹敵する。

スイスの消費者の懸念は?

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)のオンライン調査では、回答者の72%が経済的な影響を懸念していると答えた。最大の懸念はエネルギー価格と輸送費の高騰によるインフレと、社会的不平等の拡大だ。

ある読者はSRFのコメント欄に「残念ながらガソリン価格だけでなく、他の多くの商品やサービスの価格も上昇すると予想される。よくあるように生活必需品が0.10~0.20フラン値上がりし、月々の支出が300~400フラン減少しても、高所得者にとってはさほど大きな問題ではない。だが高齢者や低所得者、失業者など、最も弱い立場にある人々となると話は別だ」と投稿した。

一方、回答者の27%はそれほど心配していないと答えた。世界経済は戦争や危機に対して回復力があるとみている。

そうした読者の1人はSRFコメント欄でこう自信を語った。「2011年以降、数々の戦争(と新型コロナウイルス危機)があったが、これらはスイスに深く根付いた経済システムに真に影響を与えたことは一度もない。私たちはしばしば恐怖を感じたが、経済はその後必ず回復した」

編集:Virginie Mangin/gw、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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