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高市首相、柚子、負の感情、相撲… スイスのメディアが報じた日本のニュース

議場で起立する高市早苗議員
21日、高市早苗氏が初の女性首相に選出された EPA/FRANCK ROBICHON

スイスの主要報道機関が10月15日~21日に伝えた日本関連のニュースから、①初の女性首相が誕生②スイスのシェフを魅了する柚子③日本人に学ぶマイナス感情の処理方法④伝統スポーツの危機 誰も力士になりたくない、の4件を要約して紹介します。

スイスのスーパーやバーで柚子製品を見かけることが増えたなと思っていたら、高級レストランのシェフも注目しているようです。探せば苗木も売っていると聞いたことがありますが、超資産家でも自家栽培を諦めたとのこと。抹茶といい柚子といい、日本の新たな金脈になりそうです。

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日本初の女性首相が誕生

衆参両院で21日、高市早苗自民党総裁が日本初の女性首相に選出されました。スイスメディアでは総裁就任時から大きく注目されている高市氏ですが、改めて保守的な政策や積極財政、英マーガレット・サッチャー元首相の崇拝者であることなどが報じられています。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は、「かつてなく高市早苗氏の貫徹力が求められている」と報じました。日本維新の会との連立をもってしても衆参ともに過半数に届かず、高市氏が掲げる政策の実現には他の政党の協力が欠かせません。高市氏は初の女性首相の座に就くまでに多くの貫徹力を必要としましたが、今後はさらに重要になると指摘しました。

ドイツ語圏の大手紙NZZは、維新との連立の脆さを指摘しています。維新は対中政策の強化や軍事費増強など高市氏の主張の一部を警戒しており、閣外協力という形を選びました。記事によると連立協定はわずか10ページほどの簡素なものである一方、ドイツのCDU/CSUとSPD間は140ページに及びます。「したがって、高市氏の権力は連立相手に猶予的に与えられているにすぎない」

ウェブメディアbluewin.chイタリア語版は首班指名選挙に先立ち、共同通信の報道を引用し、高市氏が就任直後に国家安全保障に関する重要文書の見直しを命じる準備をしていると伝えました。狙いは「ますます不安定になる地政学的状況の中で、防衛費をさらに増やすこと」。見直しは「激しい内部論争を引き起こす可能性があるが、国家安全保障を戦略的優先事項として重視する政府の政策を反映している」と報じました。(出典:SRF外部リンク/ドイツ語、bluewin.ch外部リンク/イタリア語)

スイスのシェフを魅了する柚子

日本の伝統的柑橘類、柚子が世界中で人気を高めています。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーでは、柚子が「スイスでも一流シェフや美食家たちのお気に入りになりつつある」と報じています。同じ記事のフランス語版は24heures外部リンクに掲載されました。

記事によると、スイスのLLCエーデルワイスの機内食や、バーゼルのスターシェフ、チューリヒの高級料理店も柚子を愛用しています。肉・魚料理、パスタやデザート、醤油、アルコール、バター、マヨネーズなど使い方も多様です。東部ザンクト・ガレン州の飲料メーカー、アーバンレモネードは最近、柚子風味のノンアルコールビールを発売しました。

日本から欧州各国に柚子を卸しているスイスの食品会社DKSHによると、この数年、仕入れ価格は右肩上がりに。原因は世界(特に米国)での需要上昇と不作による供給減です。アーバンレモネードの仕入れ価格は1㎏あたり31フラン(約5900円)ですが、高級デパートのグローブスでは昨年のクリスマス前に1㎏最大120フラン(約2万2900円)で売られたと言います。

柚子は気候的にはスイスでも栽培可能ですが、採算をとるのは簡単ではないようです。元著名銀行家のニールス・ロダン氏は2021年に柚子農家へ転身しメディアの注目を集めたものの、24年初には農場経営を断念してしまいました。日本の専門家に指示を仰いで農園を作ったものの、100㎏の柚子を収穫できるのは樹齢20年前後の成木だけ。「労力と収穫量が釣り合わなかった 」(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

日本人に学ぶマイナス感情の処理方法

ストレスをため込むと健康によくない。が、日本人は違う――ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、ネガティブな感情が健康に与える影響が日本人とアメリカとの間で異なることを示した論文を紹介しました。

論文外部リンクの執筆者はミシガン大学の北山忍教授(社会心理学)。記事は、日本人被験者の間ではネガティブな感情がストレスサイクルの引き金にならない、と説明します。「感情をどう分類するかで、それによる生物学的反応は大きく異なる。つまり、体は心に従う」

記事は、欧米の文化では「悲しみを振り払うという行動がみられる」が、日本では「不快な心の状態は『人生における自然で不可欠な一部』と考えられている、と論文の結論を解説します。日本で苦い体験がストレスにならないわけではないものの、「根本的にオープンで飾らないアプローチをとれば、最終的にはポジティブな結果につながる」とまとめました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

伝統スポーツの危機 誰も力士になりたくない

日本相撲協会が15~19日、ロンドンで大相撲公演を開催しました。来年6月にはパリでも開催予定。日本在住のフリージャーナリスト、フェリックス・リル氏の解説記事は、相撲が国際進出を目指す裏には、若い力士が集まらないという切実な課題があると伝えています。

取り組みの前後の伝統的儀式、土俵の女人禁制、賭博やいじめなどのスキャンダル――若者の相撲離れを招くのは、こうした閉鎖性だけではありません。「相撲は日本の高度経済成長の犠牲者でもある」。強い力士には無料の寝場所と食事が与えられるため、貧困が蔓延していた時代は相撲部屋には社会保障的役割があったといいます。

しかし時代は変わり、上智大学の中野晃一教授によると「相撲力士というライフスタイルを送りたい若者が今は十分にいない」。少子化や移民の減少で若い才能が不足しているといいます。子どもたちが憧れるのは野球の大谷翔平選手を筆頭に、バレー、ボクシング、サッカー選手。力士は含まれていません。

ただ観戦対象としての人気はまだ健在。サッカー人気が出る前に子ども時代を過ごした世代が好んで鑑賞するほか、海外からの観光客も増加。ロンドン公演のチケット価格も数百ユーロに上がることも。記事は「主催者(日本相撲協会)は若い才能の長期的育成よりも、手っ取り早い金儲けに興味があることを示している」としめくくりました。(出典:gmx.ch外部リンク/ドイツ語)

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校閲:大野瑠衣子

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