クマ、EV、東京裁判… スイスのメディアが報じた日本のニュース
スイスの主要報道機関が10月29日~11月4日に伝えた日本関連のニュースから、①深刻化するクマ被害②日本モビリティーショーにみる「マルチパス戦略」③東京裁判の遺産、の3件を要約して紹介します。
以前からスイスメディアを騒がせてきた日本のクマ被害ですが、ついに小3の娘にも「なんで日本でクマが暴れているの?」と訊かれるまでに。ベルンではクマが街の象徴となるほど身近な存在ですが、それだけに野生のクマがヒトを攻撃するというのは衝撃的なようです。
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深刻化するクマ被害 スイスメディアの焦点は
東北地方を中心にクマが人を襲う事件が後を絶たず、ついに自衛隊が派遣される事態に。被害が出るごとに報じてきたスイスメディアですが、この節目に東西の大手2紙が大きめに取りあげています。
フランス語圏のル・タンは、「日本はクマに宣戦布告」と題し、米ニューヨーク・タイムズや英ガーディアンなど世界中のメディアが注目していることを強調。世界各紙が地球温暖化や人口減少、狩猟習慣の後退などを指摘しているとまとめました。日本政府が警察官によるライフル駆除の解禁を検討していることも伝え、「高市早苗新首相にとっては試金石となる」と位置付けています。
ドイツ語圏のNZZはクマの出没に怯えるX(旧ツイッター)の投稿や被害状況を詳しく伝えています。また、それらが日本社会に与える影響の1つとして、クマを題材にした映画「ヒグマ!!」が11月の公開を延期したことを挙げました。「観客が落ち着いた雰囲気の中で映画を楽しめるまで」という延期理由を引用して、事態の深刻さを強調しています。
もう1つの影響として、警察官によるライフル銃使用の検討について、「銃規制が厳しい日本では異例の措置だ」と説明。日本の社会規範を揺るがしていることに着目しました。(出典:ル・タン外部リンク/フランス語、NZZ外部リンク/ドイツ語)
日本モビリティーショーにみる「マルチパス戦略」
東京ビッグサイトで開催中のジャパンモビリティーショー外部リンク。NZZのマルティン・ケリング記者は会場を訪れ、経営者らの声を聞きながら日本自動車メーカーの電気自動車(EV)戦略を解説しました。
記事は、日本がEV一辺倒ではなく、ハイブリッド車、ガソリン車、燃料電池車を含む「マルチパス戦略」を追求していると伝えています。特にトヨタは、ショーで多くのEVコンセプトカーを披露しつつも、EVへの明確なコミットメントを避ける姿勢が目立つと指摘。こうした戦略は単なるEV技術への遅れではなく、「技術的開放性」という日本自動車業界のこだわりであると分析しました。
トヨタの佐藤恒治社長は、ショーの会場で「かっこいい車に乗りたいという思いは、多くの人が持っていると思う」と述べ、駆動方式に関わらず魅力的な車作りを目指す姿勢を強調しました。記事はこの言葉を「他の自動車メーカーが電動化計画で評価される世界において、トヨタのアプローチは驚くべきものだ」と紹介しつつ、その精神は日本の自動車業界全体に通じていると伝えました。
日本のマルチパス戦略の背景には、国内市場特有の課題も存在するとNZZは指摘します。ダイムラー・トラックの子会社である三菱ふそうトラック・バスのカール・デッペンCEOは、日本の長距離EVトラック市場について「電力網の安定性は、すでに乗用車にとっても課題となっている」と述べ、充電インフラの不足や電力網の安定性に関する「打破できない限界がある」と指摘。このため、日本では長距離輸送において水素燃料車の方が適しているとの見方が示されており、技術の多様性が求められる理由となっています。
しかし、日本のEV化の遅れは、海外メーカーにとって市場参入の機会となっていることも記事は指摘します。メルセデス・ベンツ日本のゲルティンガー剛 CEOは、「もしこれらのセグメントが今後数年間の日本で大きく発展すれば、我々は市場シェアを獲得できるかもしれない」と述べ、EV市場の成長が輸入車のシェア拡大につながる可能性を示唆しています。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
東京裁判の遺産
フランス語圏のスイス公共放送(RTS)は「ニュルンベルク裁判とその遺産」と題するポッドキャストシリーズ(全5回)のなかで、1946~48年に日本の戦争犯罪を裁いた極東国際軍事裁判(東京裁判)を取り上げました。ニュルンベルク裁判に関する著作のあるギヨーム・ムラリ氏と、現代日本を専門とする歴史学者マイケル・ルッケン氏(ともにフランス人)が出演しています。
ムラリ氏は、東京裁判が「ニュルンベルク裁判よりも偏っており、実施上の問題が多かった」と指摘します。「東京裁判は『勝者の裁き』という印象を与え、被告が十分に弁護する余地がなかった可能性がある」
またムラリ氏は、公正な裁判の原則や弁護の権利といった自由主義的司法の原則が、ニュルンベルクよりも東京で守られなかった可能性があると指摘。これは「白人でない敗者(日本人)」に対する扱いが「西洋文明に属する敗者(ドイツ人)」とは異なっていたためではないかと解説しています。
ルッケン氏は東京裁判が日本社会に与えた影響について分析しました。裁判を主導したアメリカは、日本の弁護士を関与させ、メディアに審理内容を報道させることで、裁判に「教育的な役割」を持たせようとしました。しかし天皇が裁判の対象から外れたことなどから「勝者による裁き」という疑念が早々と日本社会に芽生え、アメリカの目的は達成できなかったとルッケン氏は考察しています。
ルッケン氏は、裁判で死刑判決を受けた被告らを追悼する銅像が東京駅前に置かれていることは、「裁判の遺産が依然として複雑であることを物語っている」と結論付けました。(出典:RTS外部リンク/フランス語)
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話題になったスイスのニュース
スイスでは現在、ガザ地区からの7人の子どもたちが各地の病院で治療を受けています。11月にさらに13人の子どもとその家族を受け入れる予定ですが、チューリヒ州政府は負傷した子どもたちの受け入れには参加しないと表明しました。「関係者の中にパレスチナ武装組織ハマスや他の団体とのつながりを持つ人物が含まれている可能性を排除できない」ことが理由です。
このニュースを伝える日本語記事に対し、XなどSNSでは、チューリヒ州の決定に賛意を示す投稿が目立ちました。
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次回の「スイスメディアが報じた日本のニュース」は11月12日(水)に掲載予定です。
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校閲:大野瑠衣子
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