
スイス国民の過半数が推定賃貸価格制度の廃止支持

推定賃貸価格制度廃止案が、28日の国民投票で57.7%の賛成を得て可決された。賛成派は不公平な税制の終焉を歓迎する。改革反対派は、環境配慮型住宅への改築が阻害されると批判する。
スイス特有の税制である「推定賃貸価格制度」が廃止されることになった。これは自分が購入し住む住宅に対し、「もし賃貸に出した場合に得られる家賃収入」が所得に加算され、課税される制度だ。
この改革では、税収減の補填措置として、各州が別荘に対して新しい不動産税を課すことができる選択肢を提供する。税の新設は憲法改正が必要になるため国民投票にかけられた。
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明確な賛成
制度廃止は57.7%の賛成を集め、大多数の州で可決された。投票率は約49.5%で、今年行われた他の国民投票と同様の水準だった。
賛否に明確な差が現れたのは、投票キャンペーン中に続いた緊迫感とは対照的だ。
投票の2週間前に発表された最新の世論調査では、賛成が51%と過半数をわずかに超える程度だった。
しかし、反対票が増加(8月調査と比べて賛成意見が7ポイント減少)していたことから、世論調査を実施したgfs.bern は傾向をこの時点で投票結果を見極めることは不可能であり、投票キャンペーン期間終盤の動員が決め手になると指摘していた。
長年批判の的に
導入が第一次世界大戦にさかのぼる推定賃貸価格制度は、数十年にわたり論争の的となってきた。
この「現物所得」に対する課税は、1999年、2004年、そして最後は2012年と廃止や軽減に向けた試みが出され、そのたびに失敗した。しかし、この問題は議会で常に議題として取り上げられ続けた。
7年にわたる議論を経て、2024年12月、連邦内閣と両院の支持を得た新法案が成立した。
28日に採択された、当局の言う「バランスの取れた」改革は、税制を簡素化し、負債の誘因を減らすことにつながる。
現在、住宅所有者は、ローン利息のほぼ全額が控除対象となっているため、ローン返済を急がない傾向にある。
スイスを二分するテーマ
投票結果は明らかな賛成だったが、スイスの有権者は制度について決して一致した見解を持っているわけではない。投票キャンペーン中、この問題は多くの分断を浮き彫りにした。
主な対立軸は、改革に強く反対した賃借人と、比較的賛成の多い所有者との間だった。前者は後者ほど動員されていなかったようだ。
その結果、都市部と地方部の差が特に顕著になった。都市部(主に賃借人で構成)の住民の大半は改革案を拒否したが、地方や郊外の住民は支持した。
提案された新制度の最大の受益者と見なされている所有者たちだが、恩恵は一律ではない。推定賃貸価格制度で税を納める代わりに、住宅ローンや家の改築費用が税控除の対象になるという利点もある。つまりメンテナンスの必要が少ない新築住宅の所有者、あるいは住宅ローンを完済した人々(主に高齢者)は、明らかに制度廃止の恩恵を受けるだろう。
一方、改修が必要な古い物件の所有者は、むしろ損失を被る側となる。別荘の所有者もおそらく同様だ。
レシュティの溝
この案件では、まさに「レシュティの溝(言語圏による差のこと)」現象が見られた。フランス語圏の州はすべて反対が60%以上だったが、ドイツ語圏の州はいずれも賛成が上回った。
(党の公式姿勢に反して)改革に反対した急進民主党(FDP/PLR)のパスカル・ブルリス上院議員は、この意見の相違は、ドイツ語圏の州が実施している推定賃貸価格に基づく過度な課税の結果だと考えている。
同議員は、仏語圏のスイス公共放送(RTS)の番組で、ドイツ語圏の州は「過度の課税」を行ったのに対し、フランス語圏の州は常に「倹約的」だったと分析した。
投票キャンペーン中、仏語圏および山岳地帯の州当局は「反対」の立場を表明していた。制度廃止は多額の税収減(年間合計18億フランと推定)につながり、その3分の2を州が負担し、残りの3分の1は連邦政府が負担することになると指摘していた。
ティチーノ州やグラウビュンデン州などのアルプスや観光地のある州は、主たる住居に関連する税収の損失が別荘の税収の損失に加わるため、不釣り合いな影響を受けると主張していた。にもかかわらず、これらの州の住民の大多数は制度変更に賛成票を投じた。ヴァレー(ヴァリス)州は、この改革に反対した唯一の山岳州だ。

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政党間の差
政治的には、典型的な左右の対立が見られた。社会民主党(SP/PS)、緑の党(GPS/Les Verts)、労働組合は、この改革案は高所得の不動産所有者に一方的に有利になると主張し、反対した。
緑の党のリーサ・マッツォーネ党首はRTSに対し、推定賃貸価格制度の廃止がエネルギー効率改修のインセンティブを減らし、気候保護に悪影響を及ぼすことを懸念していると述べた。
一方、制度変更への支持は、政治的な右派、すなわち中央党(Die Mitte/Le Centre)、急進民主党、国民党(SVP/UDC)と右派色が強まるほど高まっている。ただし、急進民主党と中央党のフランス語圏のメンバーの一部は例外だ。国民党の支持者が最も支持していた。
「架空」の所得に税金を払うのは不公平だという主張は、特に保守的な有権者に強く響いた。
税制の「ミニ革命」
「賃貸価値税は存在しない収入を課していた」と、中央党のピルミン・ビショフ上院議員はスイスの通信社keystone-ATS通信に対し指摘した。同党はこの税制が「欧州で唯一」であり「課税とは全く関係がない」とし、廃止を歓迎した。
地主協会(HEV)も、この「不公平な架空税」の廃止を歓迎した。HEVによると、「国民は、税制の公平性向上、個人の責任の強化、そして民間住宅へのさらなる支援を求める強いメッセージを送った」という。
国民党のマンフレート・ビューラー上院議員は、税制の「ミニ革命」だと述べた。
多額の投票キャンペーン資金
制度廃止支持派は、連邦監査院に対し投票キャンペーン予算として700万フラン強(約13億円)を申告した。
これは、政治資金に関する透明性規則導入以来、過去最高の額だ。この規則では、予算が5万フランを超える選挙活動と、1万5000フランを超える献金は申告しなければならない。
これまでの最高額は、2024年11月24日に投票にかけられた高速道路拡張支持派の投票キャンペーン資金520万フランだった。
編集:Samuel Jaberg、仏語からのDeepL翻訳:宇田薫
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