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赤十字国際委員会、米国の批判に反論

グアンタナモ。赤十字国際委員会は当初から、アルカイダ関連容疑者に対する米国の対応が非人道的であると指摘していた Keystone

赤十字国際委員会(本部ジュネーブ)のヤコブ・ケーレンベルガー委員長は、米国の共和党上院議員による赤十字は中立性にかけるといった批判に対し、反論した。

赤十字国際委員会は毎年、米国からおよそ144億円を出資してもらっており、最大のパートナー。今回、ケーレンベルガー委員長が反論することで米国が寄付金をストップすることに至らないよう、17日に発表された赤十字国際委員会の声明には慎重な言葉遣いが見られた。

 ケーレンベルガー委員長は、米国の上院共和党政策委員会が15日に発表した国際赤十字の活動についての批判について「赤十字国際委員会に対する間違った非難であり、委員会を貶めるものである」と反論した。米国の報告書には、赤十字国際委員会が米兵をナチスと比較したと非難し、極秘情報をメディアにリークしたとも述べられている。

反論しながらも米国との良い関係を強調

 ケーレンベルガー委員長は反論の中で、本年2月にはブッシュ米大統領と会談。また、2月と5月にはライス国務長官とも会談したことなども挙げ、米国との関係は良好であることも強調した。国際赤十字にとって米国は最大の出資国で、その額は1億6700万フラン(約143億円)。米国の批判は不当と反論したが、相手の機嫌を損ねたくないというところだろう。

 米上院共和党政策委員会は、赤十字国際委員会の活動は米国にとって不利であるという意見で、米政府は納税者に対しての責任から、米軍が赤十字に協力すべきか検討すべきであるという。グアンタナモ米軍基地に収容されているアルカイダとの関連を疑われている人々に対する米軍兵の虐待について書かれた赤十字による機密報告が、メディアに漏洩したのは赤十字の責任であると断言した。

 ロイター通信によると現在、上院共和党議員の間ではグアンタナモ捕虜収容所における虐待の新しい告発書が出回っているという。

中立性についての疑問

 上院共和党政策委員会の報告書は、赤十字国際委員会はもはや中立ではないと結論付けている。

 戦争や紛争の犠牲者に対する赤十字の人道活動は「評価される」ものだが、近年の活動はアンリ・デュナンの創立主旨とはほどと遠いもの。戦争における人権を曲解し、テロリストにも米兵と同等の権利があるかのような扱いを主張しているという。よって、赤十字国際委員会は、徐々に利益団体の様相を強くしているというのだ。

 中立性と人道援助。これは国際赤十字のみならず永世中立国スイスにも米国から常に問われている問題である。

swissinfo 外電、 佐藤夕美(さとうゆうみ)意訳

赤十字国際委員会 1863年アンリ・デュナンにより中立の機関として創立。

戦争による犠牲者への人道的援助を主な活動とし、ジュネーブ条約などをもとに、戦争捕虜の人道についても監視。

赤十字国際委員会
04年予算 9億4000万フラン(約800億円)
出資国/米国 1億6700万フラン(17%)(約143億円)/スイス 9200万フラン(約8億円)
職員 1万2450人
参考文献 『武器を持たない戦士たち 国際赤十字』新評論 2003年 H.M.エンツェンスベルガー編/小山千早訳

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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