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気候変動が冬季五輪の未来に落とす暗い影

ミラノ・コルティナ五輪
IOCの持続可能性向上戦略の一つは、既存施設を活用した広域開催だ。ミラノ・コルティナ大会はその初の主要な試みで、ミラノ、コルティナ、リヴィーニョの3拠点で分散開催された Keystone

今、ミラノ・コルティナ冬季五輪で熱戦が繰り広げられているが、その裏では地球温暖化が冬の祭典の将来を脅かしている。2028年大会の開催が有力視されるスイスは環境配慮型の大会を提案するが、新たなモデルとなれるのだろうか。

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2026年冬季五輪は大雪のなか、イタリア北部のコルティナ・ダンペッツォで開幕した。しかしその後気温が上昇し、雪はゆっくりと溶け始めている。コルティナでは、前回五輪を開催した1956年以降、2月の平均気温が3.6度上昇した。今大会中も平年を上回る気温になると予想されている。

研究者らは、冬季五輪を安定して開催できる場所の数が減りつつあると警告している。2024年の研究外部リンクでは、現在93の山岳地帯で五輪レベルのウィンタースポーツ大会が開催可能だが、全世界における今後の温室効果ガス排出量次第では、2080年代までにはその数が約30カ所に減る可能性があることがわかった。国際オリンピック委員会(IOC)は既存の施設で大会に必要な施設の80%以上をまかなえる開催地を優先しているため、候補地はさらに限られる。

スイスに本部を置くIOCは現在、少数の適した開催地を選抜し、持ち回りで大会を開催する案や、競技時期をシーズンの早め外部リンクに移すことを検討している。通常、冬季五輪後にパラリンピックが続くが、3月はあまりに暖かすぎる。

五輪のようなメガイベントは、主に建設や人の移動で膨大な量の二酸化炭素(CO₂)を排出する。スイスの最新調査外部リンクによると、2012年から2024年の五輪におけるCO₂換算排出量は159万~450万トンに上った。

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傾向として、冬季五輪は参加選手が少なく会場の規模も小さいため、運営上の負担が軽く、そのため夏季五輪に比べるとCO₂排出量が少ない。およそ100万~150万トンと見積もられている。しかし経済規模に対する排出量の比率で見ると、小規模な冬季大会でも不釣り合いに多くのCO₂を排出している。

IOCが五輪のCO₂削減に向けて抜本的な改革を検討するなか、スイスは2038年の自国開催に向けて、より持続可能な大会モデルを提案している。

IOC「可能な限り持続可能な大会を」

IOCで持続可能性部門を率いるジュリー・ダファス氏はスイスインフォに、「すべての五輪を可能な限り持続可能な形で開催し、開催地域の社会的、環境的、経済的ニーズに応えながらカーボンフットプリントを削減することが私たちの目標だ」と語る。

同氏は、IOCが持続可能性と気候変動を「非常に重視」している具体例として、2020年以降の開催都市の規則強化やカーボンアカウンティング(炭素会計)の義務化、あるいはパリ協定に沿った対策を求める開催都市契約外部リンクを挙げた。また、IOCは既存施設や仮設施設の優先利用、気候条件の安定している開催地の選定、建設の削減、再生可能エネルギーの導入、広域開催モデルの推進にも取り組んでいるという。

しかしスイスの研究者らは、IOCは招致段階で排出量の試算を義務付けておらず、大会後の第三者による検証も求めていないため、「ガバナンスに依然として空白」が残っていると指摘する。ローザンヌ大学の研究員であるダヴィド・ゴギシヴィリ氏は、「冬季五輪では過去の報告に一貫性がないため、基準の設定や信頼できる目標の策定が特に難しい」と話す。

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SWI swissinfo.ch

ゴギシヴィリ氏と同僚のマルティン・ミュラー氏は共同研究外部リンクを通じて明確な排出量削減方法を提案し、五輪における排出量をパリ協定に沿って2030年までに48%、2050年までに84%削減するロードマップを示した。メガイベントの開催に反対的な立場をとり、長距離の飛行機移動を減らすために開催地域の地元観客を優先するよう求めている。

ゴギシヴィリ氏はスイスインフォに「そうしたメガイベントは、その規模や参加選手の数などの点において、人類が直面する気候危機の現実を無視しているにもかかわらず、IOCやほかの大規模イベントの主催者はこの事実をなかなか認めようとしない」と指摘した。

ミラノ・コルティナ大会は新時代の幕開け?

IOCが持続可能性を向上させるために選んだ戦略のひとつは、開催地域の範囲を広げ、既存施設をより多く活用することだ。ミラノ・コルティナ大会はその最初の本格的な試みで、開催地をミラノ、コルティナ、リヴィーニョの3拠点に分散した。また新設の恒久施設は2カ所にとどまる。2030年のフランス・アルプス大会、2034年のアメリカ・ユタ大会も同様にいくつかの地域で分散開催される。

イタリアは2024年パリ大会の機材を再利用し、インフラの85%は既存施設または仮設だとしている。会場の電力は再生可能エネルギーでまかなわれ、余った食料は寄付される。

もっとも、こうした取り組みにも批判はある。持続可能性を掲げる一方で、ミラノ・コルティナ大会では宿泊施設が新たに複数建設され、コルティナでは新しいボブスレーコースを建設するために数百本の木が伐採された。

コルティナの滑走競技センターは、IOCの意向に反して再建された。IOCは近隣のスイスやオーストリアにある既存の会場をボブスレー、リュージュ、スケルトンの会場として使用する方針を支持していた
コルティナの滑走競技センターは、IOCの意向に反して再建された。IOCは近隣のスイスやオーストリアにある既存の会場をボブスレー、リュージュ、スケルトンの会場として使用する方針を支持していた AFP

240万立方メートルに及ぶ人工雪の製造にも大量の水と新たな貯水池、高額な技術が欠かせない。

大会を機に、イタリア北部では道路の改修を含む大規模なインフラ事業も行われた。その費用は計画の15億ユーロ(約2700億円)から57億ユーロ(約1兆円)にまで膨れ上がり、国際アルプス保護委員会(CIPRA)は「持続可能性と公的財源に負担をかけないという約束にもかかわらず、多くのプロジェクトが環境影響評価なしに進められた」と指摘外部リンクする。

環境団体の試算外部リンクによると、ミラノ・コルティナ大会のCO₂排出量は約93万トンで、そのうち最も多いのは観客の移動による41万トンだ。2018年の平昌大会(164万トン)に比べれば少ないものの、欧州中規模都市(人口約20万人)の年間排出量に匹敵する。

環境活動家らは石油・ガス大手のエニ、自動車メーカーのステランティス、ITAエアウェイズとのスポンサー契約も批判し、これにより130万トンの追加排出を招くと主張している。グリーンピースは聖火がミラノに到着した際に抗議活動を行い、エニとの関係を断つよう求めた。エニは気候変動の緊急性を認識しており、エネルギー転換に投資していると述べている。

IOCのカースティ・コベントリー会長は、化石燃料スポンサーの禁止を求める2万1000人分の署名が入った嘆願書を受け取ったあと、気候変動対策について「もっと上を目指さなければならない」と述べた。

ミラノ・コルティナ大会組織委員会は、大会期間中のゲレンデを白く保つため、240万立方メートルの人工雪を用意する計画だ
ミラノ・コルティナ大会組織委員会は、大会期間中のゲレンデを白く保つため、240万立方メートルの人工雪を用意する計画だ Keystone

スイス大会はどれだけ「クリーン」になれるか

スイスはこの動きに注目している。IOCは、2038年の冬季オリンピック・パラリンピックの開催候補地として、スイスと「優先的に対話」を進めている。

スイス2038外部リンク」プロジェクトは、施設の新規建設はせず、公共交通機関を最大限に活用した国内分散開催を提案している。10の州と14の自治体がこのプロジェクトを支持し、約120の競技を10カ所の会場で開催することが計画されている。開会式はスイス西部ローザンヌ、閉会式はスイスの首都ベルンで行う方針だ。連邦政府もこの計画を支持し、最大2億フラン(約400億円)の資金援助に関する意見聴取手続きを立ち上げた。約22億フランと見積もられる総予算の大部分は民間スポンサーと寄付者から調達する。

スイスが最後に五輪を開催したのは1948年だ。連邦議会は2038年招致について年内にも結論を出す予定で、反対派が十分な署名を集めれば国民投票が行われる可能性もある。2022年のサンモリッツ・ダボス招致や2026年のヴァリス(ヴァレー)州招致など、スイスの過去の五輪招致計画はいずれも住民投票で否決された。

現時点では、2038年招致に反対する組織的な運動は行われていない。過去のスイスの招致が大差で否決された主な理由はコストと財政リスクで、環境問題ではない。

スイス2038のフレデリック・ファーヴル代表は「あらゆる大規模国際イベントがそうであるように、たとえ新しい施設が建設されなくても、五輪が環境に影響を及ぼすことは承知している。そのためスイス2038では、測定と検証が可能な排出削減目標を明確に設定するつもりだ」と、スイスインフォに語った。この削減目標は、モビリティ、エネルギー、資材、仮設建設に重点を置く。

チケットに公共交通機関の利用を組み合わせることや、地元観客の優先など、CO₂削減に向けたさらなる対策も検討されている。

環境団体プロ・ナトゥーラやWWF(世界自然保護基金)も政府の意見聴取手続きに参加している。

しかし懐疑的な見方も根強い。CIPRA元代表のカスパー・シューラー氏は、五輪は必ずインフラに負担をかけると主張する。今年のミラノ・コルティナ大会でも「口先だけの約束がまったく守られず」、大会直前でもプロジェクトの57%が未完成で、費用は70億ユーロ(約1兆2700億円)に膨れ上がったと指摘し、こう問いかけた。「スイスではうまくいくと考える理由があるだろうか?」

ゴギシヴィリ氏は、スイス2038は持続可能性の要件を満たしているように見えるが、それでも責任の所在をはっきりさせることが不可欠だと警告する。「主張だけならいくらでもできるが、重要なのは科学的根拠と検証方法であり、持続可能性の約束をどう守らせるか、ということだ」

最大の難問は国際的な移動の問題かもしれない。2038年に大勢のファンが長距離フライトでスイスを訪れるなら、2024年パリ大会のカーボンフットプリントの53%を移動が占めた外部リンクように、気候目標が達成できなくなる恐れがある。

編集:Virginie Mangin/gw、英語からの翻訳:長谷川圭、校正:宇田薫

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