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アルプスのヒーロー

訓練で雪の中にうずもれた「雪崩の被災者」の発見に成功した若いジャーマン・シェパードのバラン

(swissinfo.ch)

雪の中に作った洞穴の中は全く静かだ。しかし犬の吠える声がだんだん大きくなってきた。

くぐもった吠え声に続いて、前足で調子良く雪を引っかく音が聞こえる。そして救助犬が雪洞の覆いを壊し、訓練士に発見したことを報告した。

恩返し

 ごほうびのソーセージの匂いにたまらなくなったラブラドールは、雪洞の中に飛び込んですぐ、中の2人にすり寄った。これはスイス・アルプス・レスキュー・サービスの救助チームのボランティア会員になるために、犬と飼い主である訓練士 が行わなくてはならない訓練の1つだ。

 スイスアルプスのリゾート地ホッホ・イブリック ( Hoch-Ybrig ) での訓練日に、犬を連れた5人の男性が激しい雪の中で練習をしていた。5歳のプードル・ピンチャ―のインニャは救助犬として大活躍なのだが、それでも飼い主のマルセル・メイヤー氏が定期的にテストをしなければならない。

 マイヤー氏は21年前に救助チームの一員になった。理由の1つは、「レガ航空救助隊 ( Rega ) 」が早産で生まれた彼の赤ちゃんを病院まで搬送し、命を救ってくれたことに対する恩返しをするためだ。
「救助ヘリコプターがなかったら子どもは助からなかったでしょう。また、私は長い間ずっと登山ガイドをしていて、15歳のときから犬と一緒に働いてきたので、この2つを結びつけました」
 とマイヤー氏は語った。

臭覚力

 山での救助活動には135組の犬とボランティアが携わっており、マイヤー氏は救助の技術と訓練を監督する。スイスのトレーニングシステムでは、犬と飼い主はある程度のレベルに達しなければ救助の資格を得ることができない。

 第1レベルでは、イヌは雪の中に隠れている飼い主1人を発見すること、第2レベルでは人間2人を発見することが要求される。最終レベルにパスすると冬季の24時間呼び出しサービスに従事する資格が与えられる。重要なのは、連絡を受けてから捜索隊に5分以内に出動できる態勢にあることだ。

 救助犬チームはまず航空救助隊のレガとともに雪崩の被災地に駆け付ける。犬は、パウダー状の新雪の中に埋もれた人間の臭いを最高5メートル下まで感知できるほど鋭い臭覚を持っている。そのため被災者がレーダーで感知できるようなものを身に付けていない場合、救助犬を使うのが発見の最速手段となる。

 生存者の救出はスピードが命だ。雪崩が起きてから15分以内に発見されれば雪の中に埋もれている被災者の生存率は90%ある。しかし30分を過ぎてしまうと30%にまで下がる。
「遭難者の発見に犬は非常に重要です。もし雪崩にあってもシャベルとレシーバーを持っていれば助かるチャンスがあります。しかし持っていなければ救助犬が必要です。救助犬だけが頼りなのです」
 とメイヤー氏は語った。

 3年間の訓練の後、救助犬は平均5年間活動する。ラブラドールは長ければ12年間も救助を務めることがある。救助犬としてはセント・バーナードが有名だが、同じ大きさのジャーマン・シェパードの人気ははるかに高い。またラブラドールやボーダー・コリーも救助に使われている。

勧誘の必要性

 緊急事態に対処するために、スイスのほとんどの地域に十分な数の救助犬チームが置かれているが、ヴァレー/ヴァリス州は新会員の不足を憂慮している。同州の高地では新会員が減少している。また同州のフランス語圏でも、今年職業上の理由から7組の救助犬と訓練士が辞めていった。

 ヴァレー/ヴァリス州フランス語圏の雪崩救助犬チームコーディネーターのピエール・ティタ氏は、州の大きさに問題がある、つまり呼び出しに備えて待機しているボランティアが各地域に均等に存在していないため、必要時に迅速な救助活動ができないと指摘する。

 これは、スイスの雪崩災害の約半分が起きているといわれる同州にとって大問題だ。
「雪崩が起きた時の呼び出し救助システムの問題は、迅速に対応しなければならないことです。私たちは即座に出動できる救助チームと活動をします。連絡を受けてから3分から5分以内に出動しなければなりません。従って当番で待機中の週は、職場に犬を連れて行くか、またはいつも車の中に犬を置いておかなければなりません」

警報発信

 これ以上救助犬と訓練士が減ってしまったら、同地域での救助活動の質に影響するとティタ氏は言う。今年1年間の救助活動のために10組の新会員を増やすべく募集活動が始まった。
「今季はこれで大丈夫でしょう。これまで通りの活動が保証できると思います。しかし来年の新会員獲得に向けて小さなキャンペーンをはりました」

 候補者は度重なる訓練を受け、試験にパスしなければならないという事実は仕方のないことだティタ氏は言う。また、会員には職場のフレキシビリティ、優れたスキーヤーであること、アルプス地域に住んでいること、良い健康状態を保っていること、そしてもちろん犬を飼っていることが要求される。

 「これらすべてが意味することは、情熱がなければできないということです」
ティタ氏はそう言った後、救助活動は犬の飼い主が大きな満足感を得ることができ、犬を役立てることのできるユニークな方法だと説明した。

 ホッホ・イブリックでの定期訓練の日、新会員が犬を連れて訓練に来ていた。農家のマルティン・ヒューヴィラー氏は、救助を待つテストで雪洞に隠れている間、救助活動が自分にできるかどうか分からないと認めた。ヒューヴィラー氏のラブラドールの子犬ペドロは体を温めようと雪の中で丸まって黒い玉のようになっている。
「スキーをする友達や家族がいるので、いつか自分が彼らの助けになる日があるかもしれません。救助活動を行うにはそういう気持ちが絶対に必要だと思います」

swissinfo、ジェシカ・ダシー ホッホ・イブリックにて 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

救助犬

雪崩の被災者の救助にいつから犬が使われだしたのかは分からない。スイス・アルプス・レスキュー・サービスによると、有名なセント・バーナード犬のバリーが最初の救助犬であるかどうか定かではないという。バリーは、1800年代にサン・ベルナール峠を見守るために飼われていたと考えられており、約40人を救出した。19世紀にバリーの名はヨーロッパ中に広がり、救助犬の代表になった。

1937年に学生18人のグループがベルナー・オーバーラントで雪崩に襲われた。救助隊が17人を発見したが、1人だけ行方不明になった。捜索を打ち切る間際に、モリッツリと呼ばれている地元の雑種犬がある地点に救助隊の注意を向けた。雪に覆われた地面を棒で突ついたところ18人目が発見され、蘇生に成功した。
その話を聞いた犬の専門家フェルディナント・シュムッツ氏が、軍隊での犬の訓練を提案した。第2次世界大戦中、軍は雪崩の被災者の捜索ために犬の訓練を行った。1945年にスイス・アルプス・クラブが救助犬の特別訓練を引き継いだ。

1951年にスイス連邦政府は、スイス・アルプス・クラブが犬の訓練を行うことと、同クラブによる1年間の訓練コースの運営を決定した。

1950年代に初めて救助犬が飛行機から被災地にパラシュートで降下された。その後はアルプスまでヘリコプターで捜索に運ばれるようになった。

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スイス・アルプス・レスキュー・サービス ( Swiss Alpine Rescue Service )

アルプスで被災した人々の救助を行い、ボランティアによって成り立っている。

1世紀以上の救助の歴史があり、活動開始初期はメンバーのみの救助に限られていたが、その後すべての被災者を救助する組織に拡大した。

救助活動は、支援者と活動が行われる州からの寄付に頼っている。

ヴァレー/ヴァリス州は、1990年代に独自の救助サービスを組織することを決定し、警察以外の全緊急救助隊を統合した。それによって1つの電話番号で連絡がとれるようになった。

スイス・アルプス・レスキュー・サービスには、女性訓練士5人を含む135組の救助チームが存在する。昨年は35人が訓練中で、16人の新会員が加わった。ヴァレー/ヴァリス州の中でも高地に位置するフランス語圏には、25組の救助犬チームが別個に存在する。

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