シャフハウゼンの丘の上には、1098年には既に「ウノート(Unot)」と呼ばれる防衛施設があった。古いドイツ語で「緊急事態無し(ohne Not)」という意味だ
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
武器を保管した装甲室。9本の支柱で支えられたドームは、4個の丸い吹き抜けから採光する。今はコンサートや演劇の舞台として使われている
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
尖塔につながるらせんスロープ
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
カローラ・リューティさんはごく普通の公務員として番人の務めを果たす
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
ムノートの番人の住居は塔のてっぺんにあり、シャフハウゼンの街中を見渡すことができる
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
銃眼からの眺め
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
電動の鐘突き器の導入を何度も提案されたが、リューティさんは昔ながらのやり方にこだわりがある
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
特に夏は多くの観光客がやってくる。とりわけ古い城壁は日本人に人気だ
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
ムノート組合は夏の間、尖塔の上でムノート舞踏会やダンスレッスン、野外映画館などを企画する
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
壁の厚みは4メートルにもなる
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
ムノートの堀には100年以上前からシカが飼育されている。それぞれ現職の市長らの名前が付けられている
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
城砦が実際に防護機能を発揮したのは1799年、オーストリアから撤退するフランス軍が通った時の1回限りだ
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
シャフハウゼン市の所有するブドウ畑。毎年5千~7千リットルの白ワイン「ムノートラー(Munötler)」が生産される
Ester Unterfinger/swissinfo.ch
ドイツとの国境に接するスイスの街、シャフハウゼン。16世紀から街を守るムノートの歴史で初めて、女性が番人役に就いた。
このコンテンツが公開されたのは、
カローラ・リューティさんは2年前からムノートの番人を務める。「20年前からこの仕事をやってみたいと思っていましたが、当時はその夢を実現しようとは思いませんでした。女性が番人を務めるなんてとんでもないと思っていましたから」。現在、塔内の住居に住む50歳代のカローラさんはこう振り返る。「ムノートの番人」の求人を目にしたのは3年前。番人役は夫婦で務めるのが好ましいとされていると夫に相談した。「世紀に一度の決意で応募書類を書きましたよ。この仕事を絶対にやりたかったから」。そして80人の応募者の中から晴れて番人に選ばれた。
シャフハウゼン市民の誇り
16世紀に要塞として建てられたムノートは、今はシャフハウゼンのランドマークになっている。街の丘の上にそびえる城砦は、改築した時点で既に軍事的には時代遅れの遺物とみなされたが、外敵による攻撃や火事から街を守る見張り役としては十分機能した。「ムノートの番人」は家族とともに塔内の住居で生活し、街を360度見渡して危険が迫れば文字通り警鐘を鳴らす役割を務めた。毎晩9時には鐘を15分間鳴らし続けることも義務付けられていた。鐘を鳴らし終わると城門が閉まり、街中の酒場も店じまいして人々は家に帰らなければならなかった。そして街を沈黙が覆うのだ。
就寝の儀式
今でもカローラさんは毎晩9時に鐘を鳴らすが、15分ではなく5分間だ。シャフハウゼン市民にとっては大切な儀式として受け入れられている。親は子供たちに「『ムノートの鐘』が鳴ったら寝る時間」と言い聞かせる。だが1年365日無休で鐘を鳴らさなければならないリューティ夫妻は、旅行や映画の予定は早めに計画しなくてはならない。
義務と喜び
もちろん「ムノートの番人」の職務はもっと幅広い。施設の管理・保全、敷地内に生息するシカの飼育、多数の観光客のガイドやムノート組合が主催する文化イベントの準備などだ。「私の実働時間は週に2日、夫は1日。それに鐘を鳴らす仕事が1%くらいかしら」とカローラさんは笑う。そして、昔から歴史が好きで、当時の人々の暮らしぶりに関心があったと身振り手振りを付けて説明した。
「私たちの生活はとても孤独です。こういった生活が好きな人でないと向かないでしょうね」。かつて、ムノートの番人は町中で目撃されるのを疎まれ、塔の中で義務をこなしているのが良しとされた。しかし時は流れ、今ではそんなことはなくなった。カローラさんは町の人にも快く受け入れられ、シャフハウゼン市民も女性番人の存在を喜んでいるだろう、と語った。
続きを読む
おすすめの記事
スイスの城、ビジネスとして経営するには
このコンテンツが公開されたのは、
城の騎士や竜に出会うには、iPadの中で?それとも本物の城に出かけていくのがいいのか?今、スイスの城は観光客集めに奮闘する。いろいろな競争相手がいるからだ。ある州では、城での歴史体験イベントを呼び物にしようとしている。しかし、城の経営には財政難という矢が襲ってくる。かわしきれるだろうか?
緑の野原やワイン畑が広がるスイス北部アールガウ州の田園地帯。丘の上には、13世紀にハプスブルク家が建造したバロック様式のヴィルデック城が建っている。あまり知られていないが、この王朝の発祥の地はここアールガウ州だ。
城は後にエフィンガー家の手にわたり、一族は11代にわたってこの城に住んだ。エフィンガー家はものを大切にする一族。例えば磁器のコレクションは完全な形で残っている。城主の奥方たちが、食事の後に自らの手で洗うと言って譲らなかったからだ。
城と領地は最後の相続人によって1912年に国に寄贈され、2013年にアールガウ州に譲渡された。現在、他の三つの城と修道院、ローマ軍野営跡が一緒になって「アールガウ博物館」を形成している。
歴史体験
「来場者数は昨年8%増えた。スイス国内外を問わず、博物館としては異例の伸びだ。新しくもなくピカソを所蔵しているわけでもないのだから」と、ヨルン・ヴァーゲンバッハ館長は城内の事務所で話す。昨年の来場者は24万5千人。5年前は8万2千人だった。
この伸びは、トマス・パウリ前館長の力によるところが大きい。パウリ氏は遺跡を一つにまとめただけでなく、「歴史をその場で体験する」というスローガンを掲げた。
「パウリ氏のやり方は、五感の全てに訴えて場所と物語を感じてもらうというものだった。音楽を聴き、中世やローマ時代、バロック時代の衣装を着た人物にまず出会い、その人に(自分の)城の中を案内してもらい、その人生について語ってもらうといった調子だ」とヴァーゲンバッハ館長は話す。
今年のテーマは「感染にご注意」で、医学と衛生の2千年の歩みを振り返る。ヴィルデック城は19世紀の神経病に焦点を当てている。姉妹城であるハルヴィル城では、風呂・トイレなど、城の衛生についての催しが開催されている。
常に挑戦し続ける
ヴァーゲンバッハ館長によると、城を経営する上で最も大変なのは、常に興味深いテーマを提示し続けることだ。そうしないと客は繰り返し来てくれない。
また、さまざまな人の要求に応えなければならない。中には静かで落ち着ける場所を求める人もいる。その一方で、時代に乗り遅れないようにしなければならない。「日曜日に何をしようかとなったとき、子どもと親は、iPadで騎士や竜の出てくるゲームをすることもできるし、レンツブルク城に騎士と竜に会いに行くこともできる。iPadのゲームに勝とうと思ったら、レンツブルク城は相当魅力的なものを提供する必要がある」
もちろん、ディズニーランド的な「作りもの」の世界ではなく、本物らしさを失わないように心がけているとも付け加える。
城の維持管理にはお金がかかる。博物館になっている場合は特にそうだ。「これはビジネスでもある。お金をもうけるのではなく、税金を使っているからこそ何が目的なのかをよく吟味しなければならない」
城は催し物などのために貸し出されることもあるし、カフェやギフトショップも入っている。文化事業やチューリヒ空港で働いた経験を持つドイツ国籍のヴァーゲンバッハ館長は、17年間の広報・商業関連のノウハウを城の経営に活かしている。
観光業の中で城の独自性をアピール
スイス政府観光局によると、観光客がスイスに来るのは、第一に素晴らしい自然があるからだという。
ところが、レマン湖畔のシヨン城は、(城なのに)2013年に35万人近くの観光客を集めている。その74%が外国からで、特にアジアからの観光客が増えた。
観光の観点からは、雄大なアルプスや魅力ある都市が城にとってのライバルだというのは、アールガウ博物館の依頼で「ゴットリーブ・ドゥットヴァイラー研究所」が作成した報告書によって分かった。報告書は、例えば「ロワール地方の城とフランス」といった、城と国が一体化したイメージはスイスの城にはないと結論づけている。スイスの場合、有名な城を除けば、訪れるのは大半が地元の人々だ。
この状況を変えたいヴァーゲンバッハ館長は、スイスの城に特別な「品質を保証するブランド」を導入することを検討している。報告書作成を依頼したのもそのためだ。まだプロジェクトは初期の段階だが、関心を示している将来のパートナーが全国に20ほどあるという。
例えば巡回展覧会の共同開催などにより、複数の城で資金を出し合うこともできるだろう。「城の独自性を全国的にアピールしていかなければならない」とヴァーゲンバッハ館長は話す。
資金確保と将来
前出の報告書によると、多くの城がさまざまな催しを提供してきている。しかし、資金不足で困っている城もあれば、リニューアルが必要な城もある。
城の約半数は個人が所有しているが、歴史遺産を保存するため地方自治体が個人から買い上げる場合もある。例えば、東部のグラウビュンデン州にある有名なタラスプ城を観光・建築業界の地元の名士の団体が購入しようと、現在交渉を進めている。
またいくつかの城が協力する場合もある。トゥーン湖の周囲にある五つの城は協力してマーケティング面での向上を図っている。5カ所の城を「トゥーン湖地域の城』」として「ブランド化」したことは画期的な試みだと話すのは、夏のシーズンに向けてオープンした湖畔のオーバーホーフェン城のクリスティナ・ファンクハウザーさん。オーバーホーフェン城はよく写真に撮られるが、撮影されるだけではなく実際に訪問者が増えることを期待していると話す。
この五つの城をまとめてブランド化する作業には1年かかったと、プロジェクト・リーダーのアリアンヌ・クラインさんは言う。共通のウェブサイトとパンフレットが制作され、トゥーン湖のクルーズと2カ所の城への入場券をセットにした特別パッケージなども作った。そうしてこう付け加える。
「今の観光客には、博物館があるだけでは十分ではない。娯楽の選択肢が既にこれだけ豊富なのだから、あっと言わせるような何かを提供しなければならない。そうすれば何度も訪れてくれるし、結婚式や会社のイベントにも使ってくれるだろう」
アールガウ博物館
ウィルデック城 バロック様式の城と庭園
レンツブルク城 騎士と竜の城
ハルヴィル城 堀に囲まれたロマンチックな城
ケーニヒスフェルデン修道院 ハプスブルク家によって建設された
兵士たちの道 ローマ軍野営跡(ローマ帝国のテーマパーク)
その他の人気のスイスの城
シヨン城(レマン湖畔) スイスで最も多くの観光客が訪れる歴史建造物。サヴォワ伯の居城であり、通行税を徴収する関所でもあった。
カステルグランデ(ベリンツォーナ、ティチーノ州) アルプス地方における重要な中世の要塞建築。ユネスコ世界遺産。
トゥーン城(ベルナーオーバーラント地方) 12世紀にツェーリンゲン公によって建てられた城。
グリュイエール城 13世紀に建てられた居城。800年の歴史と、映画「エイリアン」のデザインを手がけてオスカーを受賞したH.R.ギーガーのミュージアムもある。
(出典 スイス政府観光局)
もっと読む スイスの城、ビジネスとして経営するには
おすすめの記事
スイスの史跡27万カ所 5州に集中
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦統計局が18日発表した統計によると、スイス国内に存在する城や教会、橋、彫像などの史跡は2016年で27万2千カ所。うち7万5084カ所が国の保護指定を受けている。史跡に関する公式調査は初めて。
もっと読む スイスの史跡27万カ所 5州に集中
おすすめの記事
投票参加は当たり前!スイス・シャフハウゼン州
このコンテンツが公開されたのは、
選挙や国民投票が終わるたびに、スイス全国から羨望の目で見られる州がある。それはスイス北東部にあるシャフハウゼン州だ。この小さな州は毎回約65%という高い投票率を誇っている。一方、他の州の投票率はここ数十年間45%前後と…
もっと読む 投票参加は当たり前!スイス・シャフハウゼン州
おすすめの記事
中世の面影を感じて〜ライン川にたたずむ美しい町、シャフハウゼンを散策
このコンテンツが公開されたのは、
チューリヒから電車に揺られて約40分。青く輝くライン川にかかる橋を渡った先に、シャフハウゼンという町がある。ドイツへの国境に近く、古来よりラインの交易で栄えた場所で、中世の面影を残す美しく魅力のある町だ。すぐそばにあるノイハウゼンには、スイスの人気観光スポットの一つでもあるラインの滝がある。初夏の陽射しが強くなった5月のある日、数年振りにシャフハウゼンを訪れた。
もっと読む 中世の面影を感じて〜ライン川にたたずむ美しい町、シャフハウゼンを散策
おすすめの記事
スイスのユネスコ世界遺産
このコンテンツが公開されたのは、
世界遺産のリストには現在世界140カ国、約900カ所が載せられている。ユネスコが、特に優れた文化や自然の価値を認めた場所だ。この条約は1972年に採択された。唯一無二の史跡や景勝を保存するため、全人類の努力を求めることが…
もっと読む スイスのユネスコ世界遺産
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。