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スイスを「浄化」、銀行のホロコースト損害賠償

今年の6月末までに2億ドルを残したすべての賠償金が犠牲者やその遺族に支払われた

(Keystone Archive)

スイスの銀行がホロコーストの犠牲者に資産の返金を合意してから10年が経た。交渉に携わった責任者の1人は、この損害賠償がスイスを覆っていた雲を取り去ってくれたと言う。

1998年、12億5000万ドル ( 約1357億円 ) の賠償金の支払いが取り決められた。スイスが第2次世界大戦中にナチスと共謀していたという疑惑と共に、この賠償問題は当時のスイスを大きく揺るがした。

休眠口座

 1990年代半ばに、スイスの銀行に預けられたままになっているホロコーストの犠牲者の休眠口座について、複数のユダヤ人組織が疑問を投げかけた。この時点で、その後に吹き荒れる嵐を予測できた者は誰もいなかった。

 アメリカ政府が議論に加わったことで、ユダヤ人からの圧力が徐々に強まった。2つの調査委員会 ( そのうちの1つはスイス政府に委任された ) は、ユダヤ人難民がスイス国境で追い返されたこと、スイス企業がナチスのための兵器製造で利益を得ていたこと、ユダヤ人から取り上げた金をスイスの国立銀行 ( スイス中銀/SNB ) が買っていたという事実を明らかにした。そして、何よりも決定的だったのは、スイスの銀行に対して損害賠償を求めた集団訴訟がアメリカで起きたことだった。

 「両者とも自分の利益を主張して1歩も譲らず、非常に対立的で攻撃的な雰囲気でした。スイスにとって忘れることのできない衝撃的な出来事でしたし、スイス国民全体の心理にも大きなショックを与えました」
 と、交渉の際にアメリカ政府を代表したスチュアート・アイゼンスタット氏は言う。スイスのビジネス界をボイコットするという主張と脅迫に直面し、スイス2大銀行の「UBS」と「クレディ・スイス ( Credit Suisse ) 」は、ホロコーストの犠牲者名義の長年連絡のない口座の内容を公開し、遺族に資産を返還することで決着をつけた。

距離を置くスイス政府

 この合意に至ったもう1つの鍵は、スイスの銀行2行が合併しUBSが誕生したことにあるかもしれない。合併にはアメリカの規制機関の承認が必要だった。
「当時、UBSは合併中でした。この合併がアメリカで認められるためにも、例の集団訴訟が起きているというのは都合の良いことではありませんでした。取引は全員の利益になるものでした」
 と、「スイス・ユダヤ人協会」の元会長ロルフ・ブロホ氏は言う。

 しかし、銀行側が最終合意に向け交渉を進める一方で、スイス政府とスイス中銀 はこの交渉自体から距離を置いていた。1997年、スイス政府とスイス中銀は3億フラン ( 約329億円 ) の人道基金を設けた。しかし1年たってもスイス政府が銀行の賠償問題にまったく関わろうとしなかったことを、アイゼンスタット氏は非常に不満に思った。スイス中銀は銀行が負担する賠償金のいくらかを肩代わりするべきだというのが、アイゼンスタット氏の考えだった。
「ドイツやオーストリアやフランスの賠償問題の際には、各国の政府が参加しました。スイスの場合は、政府も中銀も民間銀行に負担を押し付けました。適切で望ましい対応ではなかったと思います」

スイスが「清められた」

 しかし、アイゼンスタット氏は12億5000万ドル ( 約1357億円 ) という最終的な金額は「公正かつ公平」だったという。今年の6月末までに、2億ドル ( 約219億円 ) を残したすべての賠償金がホロコーストで犠牲になったユダヤ人、同性愛者、障害者、エホバの証人、ロマ族に対して支払われた。請求は何千件とあり、その有効性を見極めるための法的手続きも必要なため、賠償金支払いには時間がかかっている。

 ブロホ氏はこの損害賠償について、スイスの「金銭的な」戦後処理だが、「道徳的な」戦後処理ではないと言う。一方、アイゼンスタット氏は、賠償金の支払いがスイスに精神浄化作用をもたらし、スイスの銀行によるマネーローンダリングという過去の汚点をやっと解消できたと言う。

 「一つに、それまでのスイスは世界の世論から孤立していて、このことがどれだけ不利に働くかということを自覚していなかったことが問題でした。損害賠償には浄化作用があります。スイスが最終的に賠償金の支払いに合意したという事実は、前進しようとする前向きな姿勢を生み出しました」
 とアイゼンスタット氏は言う。

swissinfo、マシュー・アレン 中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

スイスの銀行による賠償金支払い

1995年、ユダヤ人グループがスイスの銀行に対しホロコーストの犠牲者名義の銀行口座の情報を開示することを要求した。しかし、スイスの銀行の守秘義務により困難を極めた。
1996年、アメリカで起きたスイスの銀行に対する一連の集団訴訟を受け、戦時中のスイスの行動を調査するために2つの委員会が組織された。
「賢人第3者委員会」は、ホロコーストの犠牲者のものと思われる休眠口座がスイスの銀行に何万件もあることを明らかにした。
スイス政府によって設けられた「スイス専門家第3者委員会」は、国立銀行がナチスから金を購入したことや、ユダヤ人難民がスイス国境で追い返されたことを示す証拠を発見した。
1997年、スイス政府、スイス国立銀行 ( スイス中銀/SNB ) 、民間企業は、ホロコーストの犠牲者のために3億フラン ( 約329億円 ) の基金を設立した。
1998年8月12日、UBSとクレディ・スイス ( Credit Suisse ) は、ホロコーストの犠牲者とその遺族による賠償請求を解決するため、12億5000万ドル ( 約1357億円 ) を支払うことに合意した。この基金はアメリカで管理されている。

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12億5000万ドルの行方

「賠償問題解決裁判所」 ( 賠償金支払いを裁定する機関 ) のサイトによると、今年の6月末までに、賠償金総額のうち10億5000万ドル ( 約1125億円 ) をやや上回る金額が44万8703人に支払われたという。
約4億9000万ドル ( 約537億円 ) が1万6601人の口座名義人とその遺族に支払われた。
ナチスに略奪されスイスの銀行に預けられた資産のうち約2億500万ドル ( 約223億円 ) が持ち主とその遺族に返済され、3億ドル ( 約329億円 ) 近くが強制労働の犠牲者とその遺族に支払われ、1160万ドル ( 約17億7000万円 ) がスイス国境で入国を拒否された難民に支払われた。残りの支払いは「保険」または「その他」と記載されている。
34万9885人の賠償金受取人のほとんどはユダヤ人。

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