スイス上空の米軍機飛行を禁じるべきか 中東紛争が突きつける中立問題
中東紛争の勃発を受け、スイス連邦内閣(政府)は難しい決断を迫られている。アメリカ・イランの紛争が長引けば、スイスは米軍機の上空通過や武器の対米輸出を規制せざるを得ず、軍需産業や対米外交にとって諸刃の剣となる。
アメリカによるイラン攻撃は、スイスの対米外交に難題を突きつけている。両国は関税をめぐる貿易協定を交渉中で、2国間関係は前よりも改善しつつあった。このタイミングで、イランとの戦争が長期化、あるいはエスカレートした場合、連邦内閣はアメリカに対して中立法を発動する義務を負うことになるだろう。
「中立法」はスイスの慣習法であり、成文はない。国際法上は1907年のハーグ条約で初めて中立国の権利と義務が明文で盛り込まれた。義務には戦争不参加や自衛があり、権利としては自国領土の不可侵が挙げられる。詳しくはこちら外部リンクの記事へ。
イグナツィオ・カシス外相は「例えば、スイス領空への米軍機の進入を禁じることになる」と話す。連邦外務省によると、中立法を適用するかどうかの決定要因は紛争の期間と激しさだ。「現時点では、中東における緊張の高まりが中立法の適用条件を満たしているかどうかはまだ判断できない」(カシス氏)。外相・外務省ともに、いつその基準を満たすのかは明言していない。
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スイスの中立はどこへ向かうのか?
コソボ戦争とイラク戦争の先例
スイスが中立法を米国に対して発動した最近の事例は、1999年のコソボ紛争と2003年のイラク侵攻だ。いずれもスイス上空を飛行する米軍機の飛行を禁止した。またアメリカへの軍事装備の輸出も制限された。
スイスの軍事産業の極めて重要な顧客
スイスはアメリカよりもドイツへの軍事装備品の輸出量が多い。昨年の1~9月期の対米輸出は約7400万フラン(約150億円)だった。
デュアルユース(軍民両用)製品の購入において、アメリカは他の多くの欧州・西側諸国と同様に特権的な立場にあり、特定のスイス製品の購入にあたり経済省経済管轄局(SECO)の個別検査を免除される。連邦内閣は物品管理法外部リンクに基づき、追加検査を免除する輸出相手国を定期的に見直している。
武器輸出問題はスイス連邦議会も動揺させている。スイスの武器産業にとって、アメリカはドイツに次ぐ第2位の輸出相手国だ。デュアルユース(軍民両用)品の輸出においても大きな割合を占める。
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スイスが武器輸出規制を緩和 中立性との関係は?
当局は「自制」促す
イランとの戦争が長期化すれば、連邦内閣はアメリカへの武器輸出を見直さざるを得なくなる。紛争の先行きが不透明である今、当局は早くも保留中の対米輸出申請を処理すべきか、また処理が許されるのかという問いに直面している。
規制監督機関であるスイス経済管轄局(SECO)は、既に対策に乗り出しているとみられる。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)の取材に対し、SECOは「スイス当局は中立性の確保に関連する部分で既に自制を示している」と回答した。ただ「自制」の対象となる具体的な分野は明らかにしなかった。
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方向性の決定
スイス平和財団の理事長を務めるバーゼル大学のローラン・ゲッチェル教授(政治学)は、ドナルド・トランプ米大統領が表明したように戦争がさらに4週間続く場合、連邦内閣は中立法を発動せざるを得なくなるとみる。「連邦内閣がどう対応するにせよ、結果が伴う」。連邦内閣が中立法を発動しなければ、スイスの中立が後退していると示唆することになる。一方、発動すれば批判を受けることは避けられないが、「同時に、スイスがこれまでの態度を変えないという意思を表明することになる」(ゲッチェル氏)。
開戦からわずか数日しか経っていない今、連邦内閣は明確な立場表明を避け、行動に余裕を持たせようとしている。中立法の適用は、スイスの軍需産業だけでなく、スイス・アメリカ関係にも大きな影響を及ぼすからだ。
独語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子
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