The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

「連邦政府は気候政策強化を」米の条約脱退表明でスイスNGO

2025年11月15日、ジュネーブで行われた気候変動抗議活動。
2025年11月15日、ジュネーブで行われた気候変動への取り組みを求めるデモ行進 Keystone / Salvatore Di Nolfi

米政府が気候関連の主要な条約や国際機関から相次ぎ脱退し、世界の取り組みに影を落としている。スイスの専門家デリア・ベルナー氏は、米国の動きは気候正義にとって「痛手」だと警告。スイス連邦政府についても、気候分野の対外資金協力を延期したことを「無責任」と批判している。

米国の気候・エネルギー政策の全容はドナルド・トランプ大統領の下で急転換を続け、一方的な進路変更の影響が国外でも大きく広がっている。例えば、トランプ政権は1月27日、パリ協定からの2回目の正式離脱を果たした。また、それに先立つ1月7日には、66の国際機関や条約から脱退すると発表。国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)と気候変動に関する政府間パネル(IPCC)もその対象とした。国内でも、気候関連の幅広い規制を撤廃する動きを続けている。

さらに、トランプ氏が最近実施した対外援助の凍結により、米国外の気候変動対策への支出が著しく減少する恐れも生じている。専門家らは2025年、世界の気候ファイナンス(気候変動対策への投融資や資金協力)の1割近くがリスクにさらされかねないと警告外部リンクした。

スイスの非政府組織(NGO)「南同盟(Alliance Sud)」の国際気候政策・気候ファイナンス専門家、デリア・ベルナー氏 Alliance Sud
スイスの非政府組織(NGO)「南同盟(Alliance Sud)」の国際気候政策・気候ファイナンス専門家、デリア・ベルナー氏 Alliance Sud

スイスの非政府組織(NGO)「南同盟(Alliance Sud)」の国際気候政策・気候ファイナンス専門家デリア・ベルナー氏に、米国の直近の動きで生じる影響や、発展途上国への資金供給などでスイスが行動を強めるべき理由を聞いた。

スイスインフォ:米国の離脱は、スイスの気候政策にどのような影響を及ぼす可能性があるでしょうか。

デリア・ベルナー:世界の気候行動の成功は明らかにスイスの利益になります。この国が気候変動から大きな影響を受けていることは、アルプス山脈を見れば一目瞭然でしょう。だからこそ、気候政策の一部の領域において、スイスが行動する必要性が増しているのです。重要な役を演じる国が退き、世界の取り組みが脅かされる状況において、スイスは気候行動の推進に手を尽くすべきです。そのために、国内で自らに見合った排出削減を履行し、国外では発展途上国向けの気候ファイナンスや気候外交を実践する必要があります。スイスが対外的にできることは、まだまだ多い。例えば、二国間会合など外交的接触の場では、閣僚らが常に気候変動を最優先議題に据えるべきです。

米国が去るのに伴い、スイスのように豊かな国が気候ファイナンスでの役割を強めなければならない、と主張していますね。世界では、発展途上国の気候変動対策への資金供給を(2035年までに)年間3000億ドルにするとの目標が掲げられました。スイスはこれを支持しましたが、実際の行動を2027年まで延期することを昨年12月に決めています。これを「無責任」と呼ぶ理由を説明してください。

スイスは新たな資金供給目標の合意に加わりました。移行の取り組みに資金を供給する重要性についても、大筋で同意しています。また、(アゼルバイジャンの首都)バクーでの気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29、2024年)で採択された決定文書は、この目標を達成できるよう先進国が牽引役を担わなければならないと明示しています。スイスが気候ファイナンスを大胆に増額し、2035年までに従来比3倍の年間約30億フラン(約6000億円)とすることも、明らかに織り込まれているわけです。ところが、連邦内閣は議論に1年かけた末に増額を公約することすらせず、2027年まで話を棚上げしようとしている。このことは公正の観点からも、目下の交渉に対しても重要な意味を持ちます。すぐにでも引き上げの姿勢を示せるのに、そうしていないのですから。

おすすめの記事
トランプ政権はガソリン車を支援し、電気自動車の普及を目的とした税額控除を終了させた。

おすすめの記事

排出削減

トランプ政権の気候政策揺り戻し、世界に及ぼす5つの影響

このコンテンツが公開されたのは、 米国は第2次ドナルド・トランプ政権発足後、気候変動をめぐる世界の協力体制からまたもや撤退した。パリ協定を再び離脱したほか、気候関連の主な国連機関から脱退すると発表。国内の環境政策も廃止している。一連の動きはスイスなどの国々にどう影響し、どのような意味を持つのだろうか。

もっと読む トランプ政権の気候政策揺り戻し、世界に及ぼす5つの影響

スイス政府が行動しない理由として、連邦予算の逼迫や、気候関連支出をめぐる政治的な躊躇がしばしば引き合いに出されます。財政をめぐる国内の議論は、本当に障害になるのでしょうか。

議論への影響はありますが、気候ファイナンスの拡大を避ける正当な理由にはなりません。まず、スイスの債務ブレーキ制度外部リンクは国内の規則ですし、債務水準はとても低い。また、汚染者負担原則に基づく賦課金や税を新たに導入し、大規模排出者から資金を確保することも可能です。それにより新たな収入が生まれるため、既存予算への影響は生じません。

米国のパリ協定離脱や気候変動枠組み条約脱退について、気候正義や世界の気候保護活動への「痛手」だと表現していますね。なぜでしょうか。

米国の累計排出量は世界最大です。世界でこれまで排出されてきた二酸化炭素(CO2)の出所として、最も大きな割合を占めています。気候正義にとっては、気候変動に大きな責任のある国々が率先して排出量を削減し、気候中立を達成して、範を示すことが非常に重要です。また、排出源となってきた国々は気候関連の条約・協定の下、発展途上国での気候変動抑制・適応策に資金を供給する責任と法的義務を負っています。貧しい国の人々はほとんど気候危機の原因になっていませんし、排出実績も非常に少ない。それなのに、危機の影響をいつも最初に受け、極端気象で最も大きな被害に見舞われます。そこが不正義の核心です。最大の排出国が何もしないという判断を下せば、気候正義にとって深刻な痛手になります。

米国の離反が他国の気候行動の縮小を助長する可能性はありますか?

もともと気候行動に消極的だった向きが、言い訳に使うかもしれません。化石燃料利権に足並みをそろえる国、企業、人をはじめ、化石燃料からの移行に抵抗する層は常に存在します。でも、地球と人類を守ることに尽力している人々からすれば、これは歩みを止める理由になりません。気候変動は世界の問題です。たとえ米国がいなくとも、すべきことはたくさんあります。すべての温室効果ガスが米国から出ているわけではなく、他国からの排出も多いのですから、いずれにせよ取り組みは続けなくてはなりません。

米国の後退に伴い、中国や欧州連合(EU)といった主要国・地域の影響力が増す可能性もあります。米国の不在が新たな協力体制や前向きな勢いを生む兆候はありますか?

米国が欠けた今、他国が歩み出て、より野心的な気候行動で合意することが一段と重要です。このことは、ブラジルのベレンで昨年開かれた第30回締約国会議(COP30)で多くの人の目に明らかになりました。議長国ブラジルはコロンビア、オランダと連携し、化石燃料からの移行のロードマップ(行程表)を定める動きを強く後押ししました。会期中の合意はできませんでしたが、コロンビアとオランダは「有志連合」として前進を図っています。年内に開催予定の第31回締約国会議(COP31)で再び議題とし、賛同する国を増やすため、協力的な国々とともに訴えを続けているのです。つまり、答えはイエス。動きはあります。COP31で全会一致の合意が達成できるかどうか、見ていく必要があります。

トルコでのCOP31について、米国の離脱を受けて雰囲気は変わるでしょうか。あなた自身は楽観的ですか? それとも、悲観的ですか?

まだなんとも言えません。米国をめぐる状況の推移は、とても速いからです。楽観できる面としては、先に挙げた「有志連合」があります。規模が拡大し、次のCOPで真の影響力を発揮できることを期待しています。

おすすめの記事
唐辛子

おすすめの記事

気候変動対策

気候資金、スイスの拠出額はフェア?「公平な分担」を巡る論争

このコンテンツが公開されたのは、 バクーで開催されたCOP29では、途上国への気候資金支援が最大の焦点となった。英シンクタンクがスイスは「フェアシェア(公平な分担)」以上の貢献をしていると評価する一方、国内の環境保護団体はまだ足りないと反論する。何を基準に「公平」を判断するべきなのか?

もっと読む 気候資金、スイスの拠出額はフェア?「公平な分担」を巡る論争

編集:Gabe Bullard/vm、英語からの翻訳:高取芳彦、校正:大野瑠衣子

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部