夫婦への税改正、公共放送受信料引き下げ、現金の将来、気候基金…スイスであす国民投票
8日のスイス国民投票では①夫婦への税の不平等を是正②公共放送受信料の引き下げ③現金の供給保証④国の気候基金を創設——の4件の提案の賛否が問われる。
投票は8日正午に締め切られ、同日中に開票結果が発表される。
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「結婚罰」終焉なるか
最も注目されるのは、法律婚夫婦への個人課税導入をめぐる税制法改正だ。スイス公共放送協会(SRG SSR、スイスインフォの親会社)の委託で世論調査機関gfs.bernが2月中旬に実施した直近の世論調査では、賛成が52%、反対が44%、未定が4%だった。賛成は1月の前回調査から12ポイント減少した。
現行の制度では、法律婚の共働き夫婦は所得や資産を合算して累進課税される。そのため、特に所得が多く収入が同程度の夫婦では事実婚カップルよりも税負担が重くなる場合が多い。このため収入の合算を廃止し個人単位で課税する方法へ切り替え、税制上の不平等を是正する。法案はすでに連邦議会で可決されている。
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可決されれば、法律婚夫婦は累進課税による不利益を受けなくなり、いわゆる「結婚罰」は解消される。賛成派は、女性の就労やキャリア形成を後押しし、職業年金(BVG/LPP)の基盤強化にもつながると主張している。
しかし、保守政党連合が法律施行に反対するレファレンダム(国民表決)を提起し、国民投票に持ち込んだ 。スイスの10の州も「州のレファレンダム」と呼ばれる制度を利用し、政府案に反対を表明している。
反対派は、伝統的な家族モデルへの攻撃だと批判する。また恩恵を受けるのは収入が同程度の共働き夫婦に限られ、片働きの夫婦や夫婦間の所得格差が大きい世帯では税負担が増えると主張している。反対を表明した10州は、確定申告にかかる事務作業量とコストの大幅な増加を懸念する。
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公共放送受信料めぐり割れる意見
投票前に最も議論を呼んだのは、スイス公共放送協会(SRG SSR、以下協会)の受信料を1世帯当たり年間335フラン(約6万7千円)から200フランに引き下げることを求めるイニシアチブ(国民発議)だ。スイスインフォは協会の事業部門の1つ。2月中旬の世論調査では54%が引き下げに反対、44%が賛成、2%が未定だった。
>動画解説「イニシアチブとは?」
イニシアチブは保守右派の国民党(SVP/UDC)、スイス商工業連盟、中道右派の急進民主党(FDP/PLR)青年部などでつくる発起人委員会が立ち上げた。賛成派は、生活費が上昇する中、一般世帯の受信料引き下げは家計の負担軽減につながると強調する。また、特に若年層の公共放送視聴者は減り続けているとし、協会の主要サービスを賄うには8億5000万フランの予算があれば十分だと主張している。
反対派(スイス連邦政府、連邦議会、国民党を除くすべての与党)は、受信料の大幅な引き下げは「スイスの公共放送の多様性と質」が脅かされるとし、信頼できる独立した情報がスイスの民主主義と国の一体性には不可欠だと訴えている。協会は4つの公用語を持つスイス全土をカバーする唯一のメディア組織であり、資金提供者(所有者)の利害に左右されない唯一の企業でもある。
公共放送の受信料をめぐる国民投票は過去10年間で2度目。受信料制度の完全廃止を求めた2018年の「ノー・ビラグ」イニシアチブは反対71.6%で否決された。政府は2024年、2027年から段階的に受信料を300フランに引き下げ、中小企業を徴収対象から完全に免除する法令改正案をすでに提示している。そのため、今回のイニシアチブが否決されても、受信料は1世帯当たり年間335フランから300フランに引き下げられる。
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現金の未来を問う
市民団体が提起した通称「現金イニシアチブ」(正式名称は「硬貨と紙幣を伴う独立・自由なスイスの通貨に賛成を(現金こそ自由)」)は、現金とその利用可能性を連邦憲法に明記するという内容だ。
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)の報告書外部リンクによると、スイス国内で使われる紙幣・硬貨の量は減っているが、調査対象者の68%は「今後も現金を使い続けたい」と回答している。最新の世論調査でも同様の傾向が見られ、61%が賛成、36%が反対、3%が未定だった。
イニシアチブを提起した市民団体「自由運動スイス(FBS/MLS)外部リンク」は、新型コロナ禍で「ワクチン接種義務の禁止」などを国民投票に持ち込んでいる(結果は否決)。政府・議会は、連邦憲法に明記するという点には原則として賛成している。しかし、イニシアチブの文言は不十分だとして対案をまとめた。
現金イニシアチブをめぐる投票では、現金とその利用可能性のほか、スイスフランが国の通貨であり、SNBが現金の供給を保証しなければならない点も憲法に明記される。
ただ、賛成票を投じる有権者は二次的に、具体的にどう明記するか、イニシアチブ原案と、政府案の2つの案から1つを選択しなければならない。イニシアチブ案は「硬貨と紙幣」が「十分な」量で供給されることを求めるのに対し、政府の対案には、「硬貨と紙幣」の代わりに「現金」という用語が使われている。また、対案には「十分な」量の現金供給について言及していない。
最新の世論調査によると、対案は有権者の70%の支持を得ている。
主要政党の間では、右派の国民党のみが支持している。しかし、対案は議会両院に加え、州、そして国内の主要な経済団体や労働組合からも支持されている。
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国の気候基金創設は否決の公算大
再生可能エネルギーの拡大支援や生物多様性の事業促進を目的とした国の基金創設案「気候基金イニシアチブ」は、否決の公算が大きい。最新の世論調査では65%が反対、31%が賛成、未定が4%だった。
左派政党の社会民主党(SP/PS)と緑の党(GPS/Les Verts)が立ち上げたこのイニシアチブは、国内総生産(GDP)の0.5%から1%(約40億〜80億フラン=8000億~1兆6000億円)に相当する額を毎年、連邦予算から気候変動対策(基金)に拠出することを求めている。議会と政府の過半数は、気候基金は公共支出の無制限な増加につながると主張し、イニシアチブへの反対を表明している。
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注目の住民投票
8日は各州、自治体で住民投票も行われる。アールガウ州では、速度違反自動取締装置の設置に州政府の承認を義務付ける提案の是非が問われる。中道右派の急進民主党青年部が立ち上げた。
ゾロトゥルン州では家族手当の引き上げについての住民投票が行われる。チューリヒ市では、17年間市長を務めたコリーネ・マウハ氏の退任に伴い、新市長が選出される。
編集:Samuel Jaberg/gw、英語からの翻訳:大野瑠衣子、校正:宇田薫
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