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スイステニス界にこの人あり

(Keystone)

いつも野球帽を目深にかぶって、コート上のロジャー・フェデラーやスタニスラス・ワウリンカを見守る痩身 ( そうしん ) の男性を、テニスファンなら一度はテレビで見かけたことがあるだろう。ピエール・パガニーニ氏はフェデラーを14歳のときから知る、スイス初のプロのテニス・コンディショントレーナーだ。

パガニーニ氏はこれまで数多くのプロテニス選手を育ててきたほか、スイステニス協会のヘッドコーチとして後継者育成にも携わってきた。多忙を極める上、ほとんどインタビューを受けないというパガニーニ氏の話を聞く機会を得た。

swissinfo : コンディショントレーナーの役目は具体的にどのようなものですか。

パガニーニ : 耐久力、筋力、敏捷 ( びんしょう ) さといった選手の肉体的なコンディションを、長期的な視野で年間を通して整えることです。一流選手の場合は、だいたい年初に年間プランを立てます。出場したい大会やそれまでにコンディションのどんな点を促進したいかを話し合い、大会プランと休息期間、そしてコンディショントレーニングの期間を決めます。

swissinfo : コンディショントレーナーはメンタルトレーニングともかかわりがありますか。

パガニーニ : スポーツ選手のトレーニングには精神面の育成も含まれます。選手との会話は「心の交流」なのです。特にテニス選手とは飛行機もホテルも同じで一緒にいる時間が長いので、社会的な接触はとりわけ多くなります。まだ若い選手の場合は、テニスコートの外でもかなり集中的に面倒を見なければなりません。20代半ばのプロ選手ともなればまた別ですが、メンタルな観点は日常の中にもたくさんあります。

スポーツをやっているのは人間ですから、選手としてだけではなく人間としても相手をよく知ることが大切です。そうすると、選手の反応の仕方や考え方をもっとよく感じ取ることができるようになります。

swissinfo : コンディショントレーナーとして欠かせない要素は何ですか。

パガニーニ : 理論と実践経験のミックスだと思います。理論は大切な基礎ですが、あくまでも理論に過ぎません。人間はもっと複雑です。また、年間計画を立てるときには構造的な考え方が欠かせません。同時に、実践でのフィーリングも大切です。スポーツでは本人にしか分からないことが多く、前もって計算できない状況もたくさんありますから。あとは柔軟性です。たとえば、青少年にはトレーニングを自分でやって見せるのが一番。でも、図にして説明したがいい人もいれば話をして説明したた方がいい人もいます。

swissinfo : 以前は陸上やサッカーをやっていたそうですが、どうしてテニスの世界に入ることになったのですか。

パガニーニ : わたしは陸上専攻でスポーツ教師の資格を取りましたが、目指していたのは初めからコンディショントレーナーでした。陸上はそれに役立ちそうだったので選び、もともとはサッカーのコンディショントレーナーになりたいと思っていました。以前から、テレビで見る一流のスポーツ選手は、競技場に入ってプレーをするその背後でいったいどんなトレーニングをやっているのだろうということにとても大きな関心を持っていました。あと、わたし自身、体を動かすことが好きだということも大きな要因でしょうね。

テニスの世界に入ったきっかけは、まだ学生の頃、たまたま知人がテニスのジュニアクラブのコンディショントレーナーをやってみないかと声をかけてくれたことです。そして、すぐにこのスポーツに魅せられてしまいました。プロのコンディショントレーナーは自分なりの考えや哲学を持っており、トレーニング方法も自分で開発します。コンディショントレーナーとしての自分とテニスの関係にとてつもない魅力を感じています。

テニスはただ力があったり速かったりするだけでは足りません。それらの能力をテニスに組み込まなければならないのです。コート上では、選手は創造的でなければなりません。テニスボールを操る技術が強調されるため、コンディションは目に見えません。わたしは、この人の目に見えないコンディションが最も素晴らしいコンディションだと思うのです。

swissinfo : コンディショントレーナーとしてのこれまでの成功の秘訣を教えてください。ほかのトレーナーとどこが異なるのでしょうか。

パガニーニ : それはほかの人に答えてもらった方がいいですね ( 笑 ) 。おそらく、とても早い時期にコンディショントレーナーとして集中的にテニスと取り組んだことでしょう。わたしはテニスというスポーツとコンディション要素の関連を探し続け、テニスの流れとコンディションに関わる精密な要素を直接結びつけたトレーニングをこれまでに100以上考案しました。

例えば、テニスを念頭に置いた上で瞬発力を長く維持させたり、スピードを高めたりする訓練を行うのです。1980年代のコンディショントレーニングといえば、森の中を走ったり腕立て伏せをしたりというごく簡単なものでしたが、わたしのトレーニング方法では何を鍛える訓練かということを具体的に選手に伝えることができるようになりました。それが良かったのではないでしょうか。

swissinfo : 的を絞ったコンディショントレーニングを行えば、スポーツ選手は負傷を回避することができますか。

パガニーニ : 回避することはできませんが、その確率を低下させることは可能です。そのためには長期的な計画を立てた上でのトレーニングが欠かせません。時に応じて適切なトレーニングを行うことが大切なのです。プロフェッショナルな組織が必要であり、ツアー中は時差ぼけや食事にも注意しなければなりませんし、体の衛生管理もとても大切です。また、試合が続くと選手は疲れてきますから、次の試合に備えて大切な関節や筋肉を保護するようにしなければなりません。加えて、クレー、ハード、芝生とコートのタイプによって体は異なる反応をし、異なる動きをし、負担のかかる箇所も異なってきます。そのための予防トレーニングは欠かせません。

swissinfo : どのようにしてそれぞれの選手に適するプログラムを作るのですか。

パガニーニ : ごく簡単に言うと、まずどの大会に重点を置くかという主要目標を定めます。そして長所と短所を探り、テニストレーナーも交えてテニスに関するトレーニング、それからコンディションに関する目標を相談します。そのために必要な時間を計算し、トレーニングの期間や回数を定め、体の調子や年齢、精神的な面を考慮してそれぞれの「メニュー」を作ります。

swissinfo : これまでで最大のチャレンジは何ですか。

パガニーニ : ( 長く考えて大きく息をついたあと ) これまでの年月を振り返ると、この職業に就いたことでしょうね。コンディショントレーナーになりたかったことは確かですが、当時、スイスにはまだプロのコンディショントレーナーはいませんでした。最初の頃はわたしの重要さを示さなければならなかったし、選手にとって体を鍛えるトレーニングが大切であることを分かってもらわなければなりませんでした。そのうちコンディショントレーナーがスイステニス協会の構造に組み込まれることになり、ヘッドコーチを任されるまでになりました。

とはいえ、大きなリスクを伴うこの職業を選んだことは大きなチャレンジでした。テニス選手が突然プレーできなくなることも考えられますからね。どのトレーニングも、それが最後の練習になるかもしれないのです。先を保証するものは何もありません。しかし同時に、その選手の5年後も考えなければなりません。いつどう変わるかわからないこの瞬間と、長期的な視野が混在しているのです。しかし、今では少し気持ちが落ち着いてきました。わたしの意見に耳を傾けてもらえるようになり、多くの友人を得てテニスファミリーの一員と認めてもらえましたから。

swissinfo : それはあなたの功績でもありますね。

パガニーニ : 選手のおかげでもあります。数多くのプロ選手をトレーニングしてきましたが、彼らから学ぶこともたくさんありました。フェデラーのトレーニングを始めたときはもうかなり経験を積んでいましたから、自信がついていました。彼は前代未聞の驚くべき例外ですが、その分トレーニングも非常に複雑です。これも1つのチャレンジですね。ワウリンカも同じです。彼のチームに出会った6、7年前は、誰もワウリンカがこれほどになるとは思っていませんでした。

swissinfo : ワウリンカはどうしてこれほど成長したのでしょう。

パガニーニ : 常に自分自身を信じてきたからだと思います。自分には10年前に行われた評価以上の価値があることを示したかったのです。フェデラーも期待が大きかったのに長い間なかなか実績を積めず、たいへんなプレッシャーがかかっていました。グランドスラムで初優勝したのは22歳になってからでしたからね。このプレッシャーに耐えている彼らには驚かされます。

swissinfo : フェデラーとワウリンカの似ているところは何ですか。

パガニーニ : 2人ともテニス選手です ( 笑 ) 。個人主義者ですが社会的にオープンで、特に友情や誠実さを大切にしています。スポーツ界もほかの世界と同様、この数年間で非常に利己的になってきました。わたしはときどきこの仕事を辞めたくなりますが、その唯一の理由がこのエゴイズムです。ツアー開催中に目にすることは、ときにまったく非人道的です。ただ勝つことやお金を儲けることだけを考えているのではなく、2人のように本当に大きな心を持っている一流選手がいることをとてもうれしく思います。

swissinfo、聞き手 小山千早 ( こやま ちはや )

ピエール・パガニーニ氏略歴

1957年11月27日、チューリヒ生まれ。

スポーツ教員の国家資格をビール市 ( Biel/Bienne ) で取得。専攻は陸上。

1985年から1996年までと2002年から2005年まで、フランス語圏エキュブラン ( Ecublens ) にある全国学校育成センター ( nationale Schul- und Förderungszentrum ) でスイステニス協会のコンディショントレーナー・ヘッドコーチを務める。1992年から1997年まで、将来有望な若手選手を育てるプロジェクトを率いた。

1985年から2002年までスイス人男子プロテニス選手、マルク・ロセのコンディショントレーナーを務める。

1987年から1993年までブルガリア出身の女子プロテニス選手のマニュエラ・マレーバ・フラニエール、1994年から2004年まで妹のマグダレナ・マレーバのコンディショントレーナーを務める。

1991年から1995年までと2003年から2008年まで、デビスカップ・スイスチームのコンディショントレーナーを務める。

2000年からロジャー・フェデラー、2003年からスタニスラス・ワウリンカのコンディショントレーナーを務める。

2004年から2006年ごろまで約3年間、セルビア出身のアナ・イワノビッチのコンディショントレーナーを務める。

現在はフェデラーとワウリンカのコンディショントレーニングにほぼ集中。

パガニーニ氏が開発したトレーニングメソッドは、スイステニス協会のセミナー等で学ぶことができる。


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