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テレビゲームで読書能力が向上 スイス研究者が開発

Kind spielt ein Videogame
Hans-bernhard Huber/laif

テレビゲームは、どの家庭にとっても悩みの種だ。「ゲームばかりしてないで本でも読みなさい!」と子供と口論になったことがない親がいるだろうか。だが、そのビデオゲーム自体を問題解決の糸口にできるかもしれない。スイスの新しい研究で嬉しい事実が明らかになった。

ジュネーブ大学が伊トレント大学と共同で行った研究では、アクションゲームをすることで子供の読解力や注意力が大きく向上しうることが分かった。この成果は今年1月、行動科学に関する学術誌『Nature Human Behaviour外部リンク』に掲載された。

これまでの研究からも、学習障害の1つである読字障害を持つ学童は、市販のアクションゲームがプラスに働くことが分かっていた。特に読む速さの向上や注意力散漫の軽減に効果があるという。これをベースに、ジュネーブの研究チームは教育用ビデオゲーム「Skies of Manawak外部リンク(仮訳:マナワックの空)」を開発。読書に必要な集中力や記憶力、知覚力といった認知能力を遊びながら身に付けられる内容にした。

videogioco di azione educativo sky of manawak
credits: Studiobliquo

ジュネーブ大学の心理・教育学部の研究員アンジェラ・パスクワロット氏は、「このビデオゲームは『学校の授業や宿題に加えてやらされる課題』と感じることなく、読書に必要な基本能力を全て訓練できるようになっている」と説明する。

ゲームの内容は、さまざまな要素を考慮した上で、プレイヤーのパフォーマンスに応じて調整される。読書は言語的なスキルだけでなく、個人の行動を制御する「より高次の認知機能が必要なためだ。

注意力が向上

本調査はイタリアの学校で6週間にわたり実施された。生徒150人(8~12歳)を2つのグループに分け、1つ目のグループは「Skies of Manawak」で、2つ目のグループは「Scratch(スクラッチ)外部リンク」で遊んでもらった。スクラッチはプログラミングの原理を遊びながら学べる創造的なプログラミング言語で、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが開発した。

合計12時間のトレーニング終了後、アクションゲームで遊んだ1つ目のグループは、2つ目のグループと比べて注意力が最大で7倍も向上していた。また読解力についても、1つ目のグループは速度と正確さの両面が明らかに改善されていた。

研究期間が終了した後も、子供達の能力の観察を続けた。その結果、「Skies of Manawak」で遊んだ1つ目のグループは半年後も高い能力をキープし、それが学校の成績向上につながっていた。「トレーニング終了から18カ月経った時点でも、ビデオゲームをした参加者は、2番目のグループよりも国語(イタリア語)の成績が明らかに良かった」とパスクワロット氏は言う。

videogioco di azione educativo sky of manawak
credits: Studiobliquo

なぜアクションゲームが読書に使う認知能力を刺激するのだろうか?この種のビデオゲームでは、瞬時に決断を下しながら、長時間にわたり集中力を保つ必要がある。次々と画面に現れる予測不可能な状況に対処すべく、注意力を効率良く分配する力も求められる。

このように常に変化する活動は、認知機能を継続的に刺激し、自動的・機械的に行動することを防ぐという。そのため「読書のように、複雑な注意力が求められる高度な学習能力には、年齢を問わずプラスの影響を与える」とパスクワロット氏は説明する。現在、大人向けのゲームも研究中だという。

現在、「Skies of Manawak」はパソコン用のイタリア語版しかない。スイスの学校でも試験運用できるよう、次はドイツ語、英語、フランス語にも対応する予定だ。また自宅用にタブレット版のソフト開発も進められている。

やはりゲームはほどほどに

だが、それでは子供達が画面と顔を突き合わせている時間が今以上に長くはならないだろうか?読書時間がもっと短くなるのでは?チューリヒ大学の児童青年精神科・精神療法クリニックの発達ニューロイメージング部長、シルビア・ブレム氏は、「決められた時間内で遊ぶのなら、こうしたビデオゲームは実際に役に立ち、子どもの読書意欲を高める」と言う。

また、本を読む力がついた子供は、読書がもっと楽しくなるかもしれない。読字障害などの学習障害がある場合はなおさらだ。

アクションゲームが学習障害を持つ子どもたちに与える影響について有望な結果を示す研究はあるが、「非常に数が少なく、対象になったグループも小さい」と同氏は言う。そのため、アクションゲームが子どもに与える実際の影響を検証するには、得られた結果をより多人数で、かつ言語を増やした状態で再確認することが急務だとした。

もう1つの問題は、依存症だ。ゲームの楽しみを保ちつつ、ゲーム中毒を回避するにはどうしたらよいのか。南スイス応用科学芸術大学で研究するインタラクションデザインの専門家、セレーナ・カンジャーノ氏は、「現代は至る所に『中毒性が高くなる仕組み』が隠されている。そのため依存性を完全に避けて通るのは難しい」が、「限られた時間内でしか楽しめないビデオゲームを設計することはできる」とした。

(独語からの翻訳・シュミット一恵)

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