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バーゼル動物園、グドール研究所を支援

バーゼル動物園から事業支援の小切手を受け取るジェーン・グードル氏 Keystone

動物行動学の先駆者、ジェーン・グドール氏がバーゼル動物園を訪問。絶滅の危機にひんした霊長類のさらなる保護を呼びかけた。

2月20日、ウガンダでのチンパンジープロジェクトを支援するため、同動物園はグドール氏に1万フラン ( 約99万5700円 ) の小切手を贈った。22日、グドール氏はバーゼルで行われた持続可能なライフスタイルフォーラム「NATUR」が主催する会議に出席した。


 73歳のイギリス人動物行動学者のグドール氏は、年間300日間を忙しく飛び回り、チンパンジーや自然環境全般の窮状を明らかにしている。しかし、彼女の精力的な取り組みにもかかわらず、グドール氏は悲観的だ。

野生動物をめぐる厳しい状況

 「現在の状況は悲惨です」
 とグドール氏は語る。
「理由のひとつは、野生動物の肉の取引です。チンパンジーを含め、食用にする野生動物の商業的な狩猟が行われています。また、森林伐採も挙げられます。木材会社が入り込み、野生動物の生息地が減っているのです。1960年には約100万頭いたチンパンジーの数は減少し、今ではせいぜい20万頭です」

 とはいえ、慎重だが楽観的な見通しとなる根拠もいくつか挙げている。野生動物の生息地を保護するアフリカ諸国が増えてきているとグドール氏は指摘する。
「ガボンは新たに13の森林国立公園を指定しました」
 また、国際的関心が影響を及ぼし始めたという。

 「森林破壊を回避するために二酸化炭素 ( CO2) 排出権の取引を活用できるなら、つまり、森を伐らせないようにお金を払うのです。そうすれば、中国人がコンゴ盆地の木を残らず伐採してしまうことを食い止めることができます」

 そして、グドール氏は呼びかける。
「わたしたち次第なのです。今すぐ正しい行動を取れば、遅すぎることはありません」

人間の傲慢さ

 チンパンジーの調査と保護は過去50年で大きな進展を見せた。1960年以前は自然の生息環境におけるチンパンジーの習性に関してはほとんど何も知られていなかった。

 1960年7月、グドール氏はチンパンジーの中で暮らすため、タンザニアのゴンベの森へ向け出発した。そこで彼女はチンパンジーが道具を作り、使用することを発見した。それまでは人間だけが道具を使用すると考えられていたため、このグドール氏の発見は画期的だった。

 「人間は傲慢( ごうまん )で、ほかの動物と区別して自分たちが特別だと考えていました。もちろん、間違いです」
 と、グドール氏は言う。

 すべての類人猿 ( ゴリラ、チンパンジー、ボノボ、ヒト、オランウータン ) は約1100万年から1600万年前に生きていた共通の祖先から枝分かれしている。みな血がつながっているのだ。

 チンパンジーとボノボの共通の祖先と人間は、わずか500万年から800万年前に別々の道を進んだ。別の言い方をすれば、あなたとチンパンジーには25万人 ( 匹 ) の共通の祖先がいることになる。

動物園の役割

 2月20日、バーゼル動物園の副園長、ローランド・ブロッドマン氏は、グドール研究所が行っているプロジェクトを支援するため、1万フラン ( 約99万5700円 ) の小切手をグドール氏に贈った。このプロジェクトでは、ウガンダの森に2つのチンパンジーの群れを結ぶ「通路」の建設を計画している。

 類人猿は絶滅の危機に直面していて、動物園には重要な役割があると、動物園のキュレーター、ヤコブ・フバー氏は言う。
「動物園は類まれな生き物と、じかに接触できる機会を提供しています。心理的な強い結びつきが生まれ、人間とサルがいかに近いかということを考えさせます。人間は、自分たちが知っているものを大切にします。そして、自分たちが大切にしているものを守ります」

 動物園は、バナナと一緒に笑いを誘うサーカスの出し物というサルのイメージの一掃に励み、そのかわり、動物園の担う教育的な任務に力を入れてきたと、フバー氏は語る。

 バーゼル動物園では、この教育的な任務を遂行するために、ゴリラ、チンパンジー、ボノボの3種の類人猿が入る最新の檻 ( おり ) を計画をしている。この3種には異なるニーズがあるが、多様性と刺激がどのグループにも重要だと、プロジェクトリーダーのハイディ・ローデル氏は言う。

 「世界中を旅行していると、類人猿やほかの知的動物に何かをさせようとする動物園がどんどん増えていることが分かります。なぜって、動物園はとても退屈しているのです!」
 と、グドール氏は言う。
「現在言われているように、環境の向上を目の当たりにするというのは、心が躍ります」

1977年、野生チンパンジーのフィールド調査をサポートするため、野生動物の研究・教育・保護を目的として設立された。

今日、研究所では、あらゆる生き物のための環境改善のために、十分な情報を得た上での誠意のある行動を起こせるよう、個人の意識向上を目指している。

研究所は、チンパンジーとその生息地の保護において中心的な存在だ。また、アフリカにおける地域社会中心の革新的な保護、開発プログラムや、約100カ国で環境教育プログラム「根と新芽 ( Roots & Shoots ) 」を設けたことでも広く知られている。

中村友紀 ( なかむら ゆき ) 訳

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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