雇用市場に対する二つの違った意見 9月25日の国民投票
25日に行われる国民投票の議題は一つ。EU(欧州連合)拡大に伴う人の行き来の自由化について。スイスは、99年の国民投票でEUとの第1二国間協定を批准し、2002年からEUからの人の行き来が段階的に開放されている。
協定全体は批准されたものの、EUの拡大の際には人の行き来の自由化についてのみ、再度国民に問うことができるというオプションが付いており、今回のレファレンダムとなった。
以前からのEUに加盟していた諸国、15カ国とは人の行き来は今後も自由であるが、今年からEUが拡大し、東欧諸国10カ国加わり「状況は変わった。新たに国民に是非を問うべきである」とスイス民主党(SD/DS)をはじめとする反対グループがレファレンダムを成立させた。
拡大したEUからの人々も受け入れた場合、スイスはどうなるのか。二つのまったく相反するスイスの将来像が想定され、賛成者と反対者はそれぞれ相手側の意見がスイスにとってより不利であるといった指摘をしあいながら、すでに活発な討論が交わされている。
雇用市場が問題
本年6月5日、シェンゲン・ダブリン協定が国民投票で可決した。人の行き来の自由化に反対するグループは以来、今回の国民投票に向け活発な反対キャンペーンを行っている。反対派を代表するスイス民主党員ベルンハルト・ヘス氏は「今でもスイス国内に住む人の2割は外国人。外国人の数を制限するべきだと言う意見だ」という理由のほか「社会的圧力が高まる。すなわち安い給料でもスイスで働きたいと思う外国人が流入し、全体的に給料ダンピングが起こる」と懸念する。
一方、これまでEUへの開放には慎重な態度の国民党の中にも、今回は賛成する意見がいくつか出ている。同党員で企業家のハンス・インアイヒェン氏は賛成の立場から、9月1日付けの日刊紙、ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングのインタビューに応え「スイス人の給料が下がるのは(今回の国民投票の結果とは関係なく)グローバル化に伴う避けられない傾向だ。長期的にみれば東欧諸国の賃金は、相対的に上昇していくはず」と反論している。
社会民主党の元党首のクリスティアン・ブルンナー氏は、人の行き来が自由になれば「労働法の遵守が広まり、雇用者も今までのように安い賃金では雇えなくなる」とみる。
東欧諸国からの労働力を歓迎する声もある。特に最低賃金で労働者を雇っている農家。スイス農業協会の代表会議では62対5で人の行き来の自由化を支持している。以前はイタリアやスペインからの労働力に農家は頼っていたが、現在は東欧諸国に需要が移行している。「農家は労働力が不足しているし、外国人労働者はお金を必要としている。両方に良い話だ」と語るのは農業協会副会長で急進党員(FDP/PRD)のヨーン・ドゥプラ氏。
政府の対応策
政府は、EU諸国はスイスの重要な経済パートナーであり、スイスの企業にとっては、EU市場への自由な参入は不可欠であると訴え、人の行き来の自由化を支持している。
労働賃金のダンピング問題については、雇用状況に対する監視を強化するため150人の監査員を投入する。パートタイマーの労働条件を良くすることや、違法企業に対する処罰をこれまで以上に厳しくするなどの対策を提示している。
シェンゲン・ダブリン協定が国民投票で可決されたのに引き続き、EUとの関係をより開放されたものにしようとする方向にスイスはあるのか。それとも、反対派の盛り返しがあるのか。今回の国民投票の結果は、今後のスイスのEUに対する姿勢の「分岐点」となりそうだ。なお、8月に行われた調査によると、賛成は49%、反対は36%、まだ決めていないと答えた人は15%だった。次回の調査発表は9月14日に予定されている。
swissinfo、 佐藤夕美(さとうゆうみ)
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