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国際交渉、オールジャパンの代表として

聞かせのコツは、「まず3点言いたい」と切り出すことだと後輩の外交官に伝授する藤崎大使。文章も短く「1行以内を原則に」という swissinfo.ch

ジュネーブには世界保健機関 ( WHO ) 、世界貿易機関 ( WTO ) など、20近い国際機関が集まり、毎日さまざまな国際会議が行われている。

このコンテンツは 2008/01/12 15:26

こうした会議に日本の交渉担当官を送り込んでいるのが在ジュネーブ国際機関日本政府代表部。10以上の省庁から派遣された計60人の代表部員を指揮するのが、藤崎一郎特命全権大使である。

藤崎大使は前線司令官であり、日本政府に交渉の進行についてのアドバイスをする参謀であり、さまざまな会議で自ら交渉にあたる交渉官である。また1人で出席する会議では、記録を取る書記官でもあるという。国際交渉の現場から生の声を聞いてみた。

swissinfo : ジュネーブだからという交渉の特徴がありますか?

藤崎 : ジュネーブの特徴は、WTO、WHO、世界知的所有権機関 ( WIPO ) 、国連人権理事会 ( UNHRC ) など分野の違う国際機関が集まっているので、さまざまな会議があることです。WHOで鳥インフルエンザの議論があり、WIPOでは知的所有権の話をし、と多岐にわたります。今日もWTOの交渉を抜け出て、国際赤十字委員会 ( ICRC ) の総裁に会ったりしました。

ジュネーブでの交渉のもう1つの特徴は、私や担当官が1人で多くの会議をカバーしなければならないことです。それは日本だけでなく他国もそうなので、大使たちと親しくなり、WTOなどはまるで同窓会のような感じです。

各国の代表部大使に限らず、各専門機関の総裁とは、なるべく一対一で会うようにしています。交渉は結局は人間関係ですから、人に多く会って親しくなっておくことはとても大切です。

さらに、各代表部員には、出身省庁の立場からではなく、オールジャパン ( つまり日本全体 ) の代表として常に物事を考えていこうと話しています。

swissinfo : 交渉で特に気をつけていらっしゃるることは?

藤崎 : 日本の長期的な国益を守るため日本の立場をきちんと説明し、どこまで日本の主張を通せるか検討しながら交渉しています。

同時に、日本が信頼に足る重要な国であることを印象づけることも心がけています。日本の主張が通りやすい形になるように、日本の担当省にも話しますし、プレゼンテーションにも気をつけています。

具体的には、WTO ではここはもっと強く主張したほうがいいとか、各担当官と案を練ります。そして最終的には、自分の発言はすべて自分で書くことにしています。主張を簡潔にし、時には英語で、時にはフランス語でと、インパクトを与えられるよう色々な工夫を行います。

swissinfo : 日本は国際舞台であまり発言しないという印象があるので、お話を聞いて驚いていますが。

藤崎 : それは、以前日本の外交の中心は、いわば戦後処理の2国間交渉だったからではないでしょうか。日米安全保障条約、日中平和条約を結んだりと、そういうことに外交のエネルギーの多くを注いできた。国連等のいわばマルチ ( な交渉 ) の比重は今ほど大きくはなかったのだと思います。

ところが今は、日本の代表はもっと発言し、発表しようとしています。日本が発言すると、みんなきちんと聞いています。またそれだけの内容も表現も努力して作り上げています。

swissinfo : 日本は国際交渉の舞台でどう評価されていると思われますか?

藤崎 : 日本のイメージは高いと思います。世界全体のために役立つ核軍縮、環境問題の京都議定書、アフリカの開発を援助する「アフリカ開発会議 ( TICAD ) 」などを日本で行ってきましたし、世界全体が平和で豊かになるように、イニシアチブを取ってきているからだと思います。

swissinfo : ところで、スイスは国際交渉の舞台で「橋渡し役」を演じることを外交政策の1つにしていますが、これについてどう思われますか?

藤崎 : アメリカ、欧州連合 ( EU ) といった国以外に、国際交渉の橋渡し役ができるのは、世界でもスイス、日本、中東和平で活躍したノルウェーなど限られた国しかなく、とても大切なことだと思います。

スイスには特に国際赤十字委員会があり、人権理事会もジュネーブで開催されており、スイスの果たしている役割は大きいといつも感じます。

また、非EU加盟国のスイスの発言はどのようなものかと我々は気をつけて聞いています。

swissinfo : 日本がスイスを注目しているのですか?

藤崎 : 例えば人権理事会では、先進国としては、アメリカは加盟していないので、日本、カナダ、いくつかのEUメンバー国、スイスなどです。よってわれわれは、スイスがどう投票するかということを関心を持って見ています。バランスのとれた投票をするのではないかと思うからです。

昔は中立的な国、あるいは独特の外交をする国というのは、スウェーデン、オーストリアなどでしたが、両国ともEUに加盟してしまったので、ヨーロッパで残っている、グループに属さない主な国はノルウェーとスイスだけです。

また、そういうグループに入っていない国があるということは、世界にとって意味があることだと思います。

swissinfo : 日本、スイス両国の外交上の類似点は何でしょうか?

藤崎 : 両者とも信頼を置かれている国だということだと思います。( 国際社会での ) 自分の影響力を拡大しようということからではなく、善意から紛争を調整しようとか、経済を助けようとしています。

swissinfo : アメリカ支配型の現在の情勢で国連の影響力が弱くなっているという意見をどう思われますか?

藤崎 : 冷戦時代はアメリカとロシアの対立のせいで、国連では重要なことはかえって決まらなかった。ところが、冷戦が終わって世界的テーマがでてきた。テロであり、環境であり、それはみんなで取り組まなくてはならないテーマです。こうしたなかで国連の役割はかえって大きくなっていると思います。

もちろん国連がすべてと言っているのではありません。しかしマルチの国際機関の役割は厳然としてあります。例えば、もしWTOがなければ、貿易交渉で強いものの言い分が通ってしまう。しかしそうはさせない、各国がそれぞれ同じ立場で議論ができるというのがマルチの大切なところです。

わたしもジュネーブに来て、交渉がうまく行くには、いろいろな小さな国も含め、多くの国々の代表と親しくなっておかなくてはと感じ、付き合いの努力をしています。いざというとき日本の主張が認められやすいよう、関係を築いておくということです。

swissinfo、聞き手 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )

キーワード

藤崎一郎特命全権大使略歴

1969年、外務省入省。ジャカルタ、パリ、ロンドン、ワシントンのポストを歴任

1999年、北米局長

2002年、外務審議官

2005年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部特命全権大使

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