
BRICS スイスはどう付き合うべきか

今月、ブラジルでBRICS首脳会議が開かれる。新興経済国の緩やかな連合体であるBRICSの重要性とは何か。スイスはBRICSに対してどのような立場をとるべきか。これについては様々な見解がある。

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BRICSは2009年の発足以来、20年にわたって国際政治に変革を起こそうと試みてきた。スイス連邦外務省の報告書が表現するように、この「緩やかな国家の集まり」であるBRICSは、首脳会議において「効果的に演出され、宣伝された自己イメージ」を提示し、新興国や発展途上国にとって魅力的なものとなっている。それはつまり、「世界秩序」は新たな勢力の中心に合わせて変わるべきだという考え方だ。
BRICSとは2001年、米国の投資銀行ゴールドマン・サックスの経済学者によって作られた造語だ。今後著しい経済成長の発展が見込まれる代表国として、ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国を指した。外部リンク2009年にはロシアのエカテリンブルクで第1回首脳会議が開かれ、2011年には南アフリカが首脳会議に参加した。
それ以来、BRICSの存在感は増していく。加盟国も増え、現在では世界人口の約半数がBRICS加盟国に居住し、世界の国内総生産(GDP)の40%以上を占める。現在の加盟国はサウジアラビア、エジプト、エチオピア、イラン、アラブ首長国連邦、インドネシアを加えた11カ国で、さらに約30カ国が加盟に関心を示す。しかし、BRICSの本質は依然として不明瞭だ。彼らは同盟国でもなければ共通の自由貿易圏も持たない。常設の事務局も存在しない。
しかし、スイスの政治コンサルタント、レモ・レギノルド氏は、BRICS諸国を過小評価すべきではないと指摘する。むしろその逆で「BRICSは世界政治における新時代到来を告げる発展の象徴だと私はみる」と話す。
レギノルド氏は、BRICSを最も端的に表現できる言葉は「コングロマリット」だという。構造、規模、特性の異なる様々な素材が、ある共通の母体によって結び付けられた集合体だ。この共通の母体こそが、「西側諸国による世界の支配に共同で対抗しようとする努力」だという。
BRICS諸国は、とりわけ国連とブレトンウッズ機関(国際通貨基金と世界銀行)の改革を求める。特に、グローバル・サウスの利益がより適切に代表されるべきだと訴える。
BRICS諸国は、新開発銀行(NDB)などの独自機関を設立し、作業部会や国境を超えたパートナーシップも展開している。「こうしたネットワークを通じて、BRICS諸国は新たな形の国際協力を構築している」とレギノルド氏は語る。それがまさに西側諸国のルールにとらわれない協力だという。
レギノルド氏は、「スイスと西側諸国全体」は「BRICSを理解し、そのシグナルを正しく読み取る」ことを学ばなければならないと提唱する。西側諸国の視点に立つあまり、BRICSの非公式ネットワークがどのように機能しているかについては、ほとんど研究されていない。スイスが自らのネットワーク、柔軟性、そして利益を巧みに活用すれば、「スイスはグローバル・ノースとグローバル・サウスの架け橋となる可能性さえ秘めている」とレギノルド氏は語る。これには開発協力も含まれるが、スイスは多くの西側諸国と同様、開発協力予算を削減している。

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他の専門家はBRICSの重要性をそれほど高く評価していない。スイスのシンクタンク、アヴニール・スイスのエヴェリン・フッター氏とシモン・ストッカー氏は、2024年に「BRICSをめぐる騒ぎ」と表現した。外部リンク2人は「非西洋諸国」に新たな自信が生まれつつあることを認識する一方で、「その美麗文句の裏側」に、中国を除けば経済発展は「比較的期待外れ」だったと強調する。またBRICS諸国間にも多くの相違点、さらには矛盾が存在すると指摘し、BRICS諸国の中には中国とインドのように、過去に緊張関係を抱えていた例もあるとした。
アヴニール・スイスは、BRICSが「確固たる反西側勢力圏に発展することは事実上不可能」だと分析する。しかしながら、スイスは今後の動向を注視すべきだという。
国際専門家もBRICSを西側諸国のライバルではなく、むしろ補完的なプラットフォームと見る。リオデジャネイロ・ポンティフィシア大学のカイ・マイケル・ケンケル氏は西側諸国の行動次第だと指摘する。求められている改革を実行し、グローバル・サウスにより大きな発言力を与える用意があるかどうかだという。その分野は金融インフラから開発協力まで幅広く「もし西側諸国がこれを無視すれば、西側諸国の世界秩序からの完全な離脱を目指すBRICS諸国が勝利する可能性がある」と言う。「そうなれば、改革を受け入れる方が西側諸国によっては確実に良い選択肢になるだろう」
ただしケンケル氏は、価値観や政治体制が加盟国で異なるという、BRICS諸国内部の異質性にも言及する。ブラジルのように西洋的価値観に傾倒する国々は、次第に周縁化されていると感じている「ブラジルではBRICSの拡大以来、権威主義国家が多数派を占めるようになったということに対して大きな懸念があった」。しかし、これはBRICS諸国が政治的に分裂し、共通の戦略的指針を欠いていることも意味した。
ストックホルム南アジア・インド太平洋センター所長のジャガンナート・パンダ氏は、BRICSが組織を本格的に制度化した場合に生じるリスクについて、インドを例に挙げて説明する。「中国は一方では我々にとってライバルだが、他方では最も重要な貿易相手国でもある」。多くの人がBRICSを中国主導のプロジェクトと見なしているが、インドにとっては対外戦略の中で重要な位置を占めるという。パンダ氏は「インドはBRICSを、中東を含むグローバル・サウスやその他地域への経済的影響力を拡大するための多極的な拠点と捉えている」と話す。
インドは原材料の面でロシアから利益を得ることができる。自国だけでなく、制裁によりロシア産原油を直接購入できなくなった西側諸国への転売によっても利益を上げている。こうした構図の中で、ウクライナ戦争は、ロシアとBRICS諸国間の連携を強める要因になっている。
スイスはBRICSにとって重要な意味を持つのか?
BRICSはいくつかの点で大きく異なる。それに応じて個々の国との関係を見なければならない。パンダ氏は「スイスはBRICSにとって中立国とみなされており、多くの国々がスイスと比較的中立的な関係を築いている」と話す。これが協力の幅を広げるという。
スイスは植民地支配国ではなく、非同盟国であるため、BRICS設立に至ったフラストレーションの原因にもなっていないとパンダ氏は話す。人口の多いインドは、テクノロジー、教育、そして会議開催地などの分野でスイスの専門知識に間違いなく関心を持っている。
ケンケル氏も同様の見解だ。「ブラジルにとって、スイスは主に質の高い分野におけるパートナーだ」

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スイスはBRICSに対してどのようにアプローチすべきか?
スイスは各国と二国間関係を維持している。国の外交政策報告書でも「BRICS諸国の重要性の高まり」を認識していると述べている。外部リンクしかし経済的観点から見た場合、スイスにとってのBRICSの比重は欧州連合(EU)や米国と比較すると「むしろ小さい」としている。2025年初めの報告書は「世界経済の成長にもかかわらず、スイスの対外貿易におけるBRICS諸国の割合は約12%であり、そのなかでも中国が突出している」と指摘する。EUは約52%、米国は約17%だ。
しかし、貿易額にかかわらず、スイスは地政学的な優位性がBRICS諸国に傾いていると見ている。BRICSは「かつて優勢だった西側諸国からの勢力シフト」という自らの主張に信憑性を与えるのに十分な「政治的・経済的力」を有している。
スイスの視点から見ると、BRICSの「世界を形作るという主張」は必ずしも否定的に捉えられるべきではないという。重要なのは、BRICS諸国が国際秩序の変革を主張するだけでなく、「その共同責任を実際に引き受ける意思があるかどうか」だ。しかしながらその過程において、民主主義と人権が「問い直され、再解釈され、地政学的な思惑によって無視される」リスクもある、と指摘する。
報告書によると、連邦内閣は多国間主義の強化を提唱することで、こうした動きに対抗していく意向だ。「特に、国際法の優位性がきちんと尊重されることが肝要だ」としている。
編集:Giannis Mavris、独語からのDeepL翻訳:宇田薫

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