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外部資本の調達でトップ大学の水準を上げる

ETHZの将来を説明するアイヒラー学長 Keystone

世界中からトップレベルの学生を獲得するために、連邦工科大学チューリヒ校 が生活費を含む奨学金を供与する。

世界上位にある大学との競争において、民間企業の役割がますます重要になりつつある。この奨学金も民間企業からの寄付によってまかなわれる予定だ。

 連邦工科大学チューリヒ校 ( 以下ETHZ ) は、「優秀な学生に機会を与える奨学金 ( The Excellence and Opportunities Scholarships ) 」の試験的な実施を2007年から開始し、上位13人の学生が2万1000フラン ( 約210万円 ) の奨学金を受給した。今年は20人以上の学生に奨学金が支給される予定になっている。また今後修士号の学生数を倍増するための予算配分が先ごろ行われた。

拡大計画

 スイスビジネス連盟の「エコノミースイス ( economiesuisse ) 」は、トップレベルの学生の授業料を無料にし、成績のふるわない学生にはその分高い授業料を負担してもらうという提案をして論議を呼んだ。ETHZの奨学金制度拡大のイニシアティブは、それらの優秀な学生の奨学金の財源を、大学内部ではなく外部に求めるという点でこの提案と対照的だ。同大学には、今後10年間で80人の新しい教授を採用し、大学とその研究所があるサイエンス・シティ ( Science City ) に適当な価格の住居1000戸を建築するという計画がある。それらの計画と同様、奨学金の増額も同大学の拡大計画の一部だ。
 
 「われわれは国際競争で後れをとらないように成長しなければなりません」
 とETHZのラルフ・アイヒラー学長はこのほどチューリヒで行われた年次会議で述べた。国からの予算が依然として大学の年間総予算の大半を占めるものの、昨年の予算の増額が最小限にとどまったため、拡大計画を実施するためにはほかの財源を開拓せざるを得なくなった。その結果、2001年には大学の年間総予算の12%を占めていた外部調達資本が、昨年は17.7%に増加した。

民間企業からの寄付

 ETHZが、個人、民間企業およびほかの民間団体から獲得した大学基金の財団法人への寄付は、2006年の2000万フラン ( 約19億9400万円 ) から昨年の3500万フラン ( 約34億9000万円 ) に増加した。
「これがアメリカの上位の大学がずっとやってきた方法で、今ではヨーロッパでも広まっています。競争力を保ち続けるためには、研究資金と民間からの寄付を集めることが重要です。自社の研究所を閉鎖せざるを得なかった民間企業は、今やトップレベルの大学に目を向けています。われわれはこの方法を用いて国際水準の競争力を維持し、世界的な企業と提携したいのです」
 とアイヒラー学長は語った。

 2003年に設立された大学基金の財団法人は、一定の利子収入を確実に得るために必要な資本金を集めることを計画している。しかしアイヒラー学長は、この計画はまだ初期段階だと語る。
「アメリカのエール大学では、昨年卒業生からの寄付が4億ドル ( 約418億9800万円 ) もありました。それに比べたら、まだまだです。従って、わが校の卒業生との関係を築くことも目標の1つです。しかし、これは今まで経験したことのない活動なので、どのようにするべきか、その方法を学ばねばなりません。エール大学の基金調達部では100人も働いていますが、われわれはたった4人でやっています」
とアイヒラー学長は説明した。

スピンオフ企業

 ETHZは、昨年1年間だけで21社、過去5年間で69社、そして14年前にプログラムを開始して以来合計176社のスピンオフ企業が誕生したと年次会議で発表した。それらの企業の大半は情報テクノロジーおよびコミュニケーション関係の企業だが、薬品、ナノテクノロジー、材料科学、バイオテクノロジー、サービス産業などもある。

スピンオフ企業のうちスイス国内で5年以上生き残っているのは半分以下、そしてアメリカでは約5分の1のみという数字が出ている一方、ETHZの研究から誕生したスピンオフ企業の8割が現在も存続しているという事実は意義深い。

swissinfo、マシュー・アレン 笠原浩美 ( かさはら ひろみ ) 訳

1855年に設立された連邦工科大学チューリヒ校は、スイスにおける科学テクノロジー分野の教育・研究機関としてのクラスタの1つ。

連邦工科大学ローザンヌ校 ( The Federal Institute of Lausanne ) 、ポール・シェレール研究所 ( The Paul Scherrer Institute ) 、スイス連邦森林、雪、景観研究大学 ( The Swiss Federal Institute for Forest, Snow and Landscape Research ) 、材質科学・テクノロジー研究所 ( The Materials Science and Technology Research Institute ) 、スイス連邦海洋科学テクノロジー大学 ( The Swiss Federal Institute of Aquatic Science and Technology ) もスイスを代表する科学テクノロジー分野の教育・研究機関である。

2007年には16学部があり、1万4000人の学生と ( 2006年から500人増加 ) と368人の教授が在籍。現在21人のノーベル賞受賞者と提携している。

同大学には23の学士課程と34の修士課程があり、博士号課程の学生は2900人在籍している。

昨年、外部から約2億1500万フラン ( 約214億3600万円 ) の寄付があり、これは年間総予算12億フラン ( 約1196億4000万円 ) の約18%に相当する。連邦政府からの予算が差額を占める。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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