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弦でスイスと日本を結ぶルチエ

ストラヴィンスキーが住んでいたヴヴェイのアトリエで

(swissinfo.ch)

「ルチエ」とは仏語でヴァイオリン製作家を指す。その昔リュートを造っていた職人が語源だ。そのルチエとしてレマン湖畔のヴヴェイに工房を持つ杉山憲生(ヨシ・ブノワ杉山/41歳)氏を訪れた。ローザンヌのゲルベール工房で7年間の修業を経て、周りに「絶対に食べていけない」と言われたが、自らの工房を開いてもう3年目になる。杉山氏の「音」に対する情熱が顧客に伝わったに違いない。

 「人生を今から振り返ると子供時代からヴァイオリン製作につながる要素ばかりで、私の興味の集大成がルチエという仕事」と語る杉山氏。小さい時から絵を描いたり、幾何学が大好きで、音楽だけでなく、あらゆる音に夢中だった。青春時代はチェロを弾いていたが、「演奏家として生きて行くだけの才能がないのは自覚していた」。育った静岡でチェロの巨匠ロストロポーヴィッチのコンサートが人生を変えた。「こんな美しい音が世の中にあるのか」と衝撃を受けた。それで、もっと西欧音楽に近づきたくて、二十歳の時に日本を飛び出した。

 「スイスに来たのは偶然で土地に馴染めたので居ついた」というのも、師匠ピエール・ゲルベール氏のお陰だ。彼に会って、工房を訪ねたときに「これだ」と直感した。23歳の時だった。イギリスのヴァイオリン製作学校で一から修業してから、同氏の工房へ弟子入りする。その間、杉山氏にとっては「神様」的存在のロストロポーヴィッチが偶然、工房を訪ねた。「あなたのお陰でここにいると言ったら抱きしめられた」と笑う。自分はチャンスに恵まれたと思う。

 居ついてみたヴヴェイはストラヴィンスキーが住み、チャイコフスキーがヴァイオリン協奏曲を作曲した場所でもある。そんな音楽への縁が居心地を良くするのかもしれない。杉山氏にとっては「運命的」な繋がりだ。

 ヴァイオリンの穴を覗くと小さな縦の棒(魂柱)が見える。「ヴァイオリンは生きているのです。アニマ(魂)があり、その心臓である魂柱から振動が伝わるのは人間と同じ」と丁重にヴァイオリン製作の手順を説明してくれる。弦楽器の修理のほか、ヴァイオリンも作る。1台仕上げるのに150〜200時間、つまり1年間掛かる。

 「私の仕事に終わりはない。具体的なものを洗練していくうちに形のないものに到達するのが日本の“道”に似ている」という。究極的な目的はヴァイオリンの形ではなく奏でる音だからだ。「製作中は絶対に音楽は聴かない」という完璧主義者。木を選ぶときに叩く音、彫るときに出る音は大切だから。木を叩きながら「ほら、森の音が聞こえてくるでしょう」。音を分析する能力が大事という。音楽家の資質とはまた違うのだ。


swissinfo 聞き手 屋山明乃(ややまあけの)


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