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COP30開幕 気候研究者が警鐘を鳴らす「ティッピング・ポイント」

過去3年間で世界のサンゴ礁地帯の80%以上が海洋熱波の影響を受けた。大規模な白化現象が少なくとも83カ国・地域で記録されている
過去3年間で世界のサンゴ礁地帯の80%以上が海洋熱波の影響を受けた。大規模な白化現象が少なくとも83カ国・地域で記録されている Napat Wesshasartar / Reuters

熱帯のサンゴ礁が広範囲にわたって死滅し、地球は気候ティッピング・ポイント(転換点)の1つに初めて到達した。研究者らは、氷床の融解や熱帯雨林の崩壊といった他の要素もすぐに続く恐れがあると警告する。ブラジル北部の都市ベレンで10〜21日に開催中の国連気候変動枠組条約第30回締約国会議(COP30)では、これらの「引き返せない地点」と、これ以上の被害をどう抑えるかが重要なテーマだ。

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気候ティッピング・ポイントとは

「気候ティッピング・ポイント」という言葉は、この20年間で注目を浴びるようになってきた。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の定義外部リンクによると、一度到達すれば、気候システムに回復不能な恐れがある急激な変化を引き起こし、人類に深刻な影響を及ぼす外部リンク「重大な臨界点」のことだ。

研究者たちは長年、産業革命以前比の気温上昇が1.5℃を超えると、複数のティッピング・ポイント外部リンクを超えるリスクが急激に増大すると警告してきた。過去5年間の気温上昇の世界平均は、すでに1.3〜1.4℃に達したと推定外部リンクされている。

研究者たちは、地球規模の「ティッピング・エレメント」9項目と、いくつかの地域的なエレメントに注目外部リンクしている。その中には、グリーンランドや南極の氷床、アマゾン熱帯雨林、亜寒帯林の永久凍土、スイスに見られるような山岳氷河、世界気候を形成する重要な海流システムである「大西洋子午面循環(AMOC)」などがある。

これらの地域への理解を深め、早期の警報を感知するために、研究者たちは衛星技術や改良された気候モデル、直接観察を組み合わせて変化を追跡している。

最初に転換点を超えたサンゴ礁

サンゴの生態系は、既知の海洋生物多様性のうち最大で3分の1外部リンクを抱え、10億人近い人々に食べ物を供給して生活を支えている。観測史上最も気温が高かった外部リンク過去2年間で、世界のサンゴ礁の84%が海洋熱波の影響を受けており外部リンク、研究者らは熱帯のサンゴ礁がティッピング・ポイントを超えたものと考えている。英国のエクセター大学と世界自然保護基金(WWF)がCOP30に向けてまとめ、23カ国160人の研究者が協力した2025年版「グローバル・ティッピング・ポイント(Global Tipping Points)」報告書外部リンクは先月、サンゴ礁は約1.2℃の温暖化で崩壊していくと結論付けた。たとえ気温の上昇が1.5℃で安定しても、崩壊する可能性は99%を超える。

ベルン大学で気候環境物理学教授を務めるトーマス・フレーリッヒャー外部リンク氏は、サンゴ礁をめぐって報告書が出した結論について、「深刻だが、予想外ではない」と語った。

同氏はスイスインフォの取材に対し、「多くのサンゴ礁にとって危険な温度は、産業革命以前の水準に比べて1.2℃から1.5℃ほど上昇した場合だというのは、しばらく前から分かっていた。今この報告書によって、1.2℃という限界をすでに超えていることが確認された」と述べた。

だが専門家の中には、報告書の主張を疑問視する者もいる。ある研究者は、サンゴ礁は減少しているが、提示された数字より高い温度でも生存できる証拠があると話す外部リンク

アマゾン地域は、中央の遠隔地でさえも温度上昇、極端な乾燥、森林破壊、森林火災といった前例のない負荷にさらされている
アマゾン地域は、中央の遠隔地でさえも温度上昇、極端な乾燥、森林破壊、森林火災といった前例のない負荷にさらされている Raphael Alves / Keystone

崩壊が近づくアマゾン熱帯雨林

報告書の執筆者によれば、気候危機や森林破壊の影響をすでに受けているアマゾン熱帯雨林もまた、従来考えられていた以上にティッピング・ポイントに近づいている。この地域は2023〜2024年に記録的な干ばつに見舞われており、報告書は1.5〜2℃程度の温暖化によって幅広い動植物種の死滅が始まりかねないと警告する。

干ばつと森林火災の増加のために、木々が枯れて二酸化炭素が放出され、森林の温度が上がり乾燥が進むという悪循環が生じる。熱帯雨林が崩壊すれば、南アメリカ全体の降雨が乱れ、世界規模の気候変動が引き起こされる恐れがある。

弱まる海流

AMOCは、海流を循環させ、欧州の気候を安定させる「ベルトコンベア」の役割を果たしている。だが報告書によると、気温上昇が2℃を超えれば崩壊しかねないという。海流が途絶えた場合には、欧州北西部に厳しい冬が訪れたり、アフリカやアジアで季節風が乱れたり、農作物の収穫量が減少したりする可能性がある。

近年、地球温暖化の影響がAMOCやメキシコ湾流のメカニズムに及び、海流が弱まっている、あるいは崩壊しかねないとさえ警告する科学的な発表が増えている。とはいえ、全ての研究者がAMOC外部リンク熱帯雨林の崩壊外部リンクが近いことに同意しているわけではない。今年発表されたスイスと米国の共同研究では、AMOCの海流は過去60年間にわたって安定していたと結論付け外部リンクられている。

グリーンランド中西部ケッカタにあるラッセル氷河の光景
グリーンランド中西部ケッカタにあるラッセル氷河の光景 Sebastian Steude / Keystone

危機に瀕する氷床

研究者たちはグリーンランドや西南極の氷床も詳細に観測しており、融解ペースの加速と海面水位の上昇が見られている。グローバル・ティッピング・ポイント報告書は、氷床がティッピング・ポイントに「危険なほど近づいているようだ」と警告する。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)教授で、報告書の共同執筆者でもあるクラウディア・R・ビンダー外部リンク氏は、地球が「急激な変化」に直面していると言う。

同氏はフランス語圏のスイス公共放送(RTS)に対し、「我々は、グリーンランドと西南極の氷床が回復不能な崩壊の瀬戸際にあると確信している。南極大陸は将来的に重大なティッピング・ポイントを迎える可能性があり、我々が1.5℃かそれ以上の温暖化を継続させれば、アマゾン熱帯雨林も同様になる」と述べた。

ベルン大学のフレーリッヒャー氏は、リスクが増大しつつある点には同意したが、「これらのティッピング・ポイントが正確にはどの温暖化レベルに該当するのか、分かっていないことがあまりにも多い」と注意を促した。

あるスイス人研究者は、「これらの地球システムの観測をさらに向上させ、理解を深めていくのが極めて重要だ」と話す。この研究者は、2028年発表予定のIPCC第7次評価報告書において、第1作業部会(自然科学的根拠)報告書のティッピング・ポイントの章で代表執筆者を務めることになっている。

中国の太陽光発電能力は史上初めて1000ギガワットを超えた。これは世界の太陽光発電能力の半分に相当する
中国の太陽光発電能力は史上初めて1000ギガワットを超えた。これは世界の太陽光発電能力の半分に相当する Yuan Hongyan / Getty Images

前向きな変化

グローバル・ティッピング・ポイント報告書は、衝撃的な発見とともにいくつかの希望も提示している。報告書では「肯定的なティッピング・ポイント」も取り上げられている。これは、大規模で加速度的な社会的・技術的な変化によって、よりクリーンで安定した世界への移行を促進しうる転換点のことだ。

エクセター大学の気候変動・地球システム学教授で、報告書の代表執筆者でもあるティム・レントン外部リンク氏によれば、太陽光発電や風力発電、電気自動車、蓄電池、ヒートポンプの飛躍的な発展は、自立的になり、世界的に加速しつつある変化の実例だ。ノルウェーや中国のような国で電気自動車が急速に普及し、デンマークは洋上風力発電でリードし、英国は石炭火力発電を段階的に廃止した。エネルギー分野のシンクタンク「エンバー(Ember)」によれば、2025年には史上初めて再生可能エネルギーの発電量が石炭火力発電を上回った。

2025年10月14日、ブラジルの首都ブラジリアでCOP30に先立ち気候抗議活動に参加するアマゾン先住民族と活動家
2025年10月14日、ブラジルの首都ブラジリアでCOP30に先立ち気候抗議活動に参加するアマゾン先住民族と活動家 Andre Borges / Keystone

行動への呼びかけ

レントン氏は、「COP30では、負の連鎖を引き起こす気候の変化を回避し、好機をつかむために、世界のリーダーが緊急に足並みをそろえて行動を起こす必要がある。温室効果ガスの排出削減を加速するとともに、気温の上昇が1.5℃を超える期間を短縮しなければならない」と話す。

報告書に参加した研究者らは、ブラジルのCOP30事務局と協力し、ティッピング・ポイントと気候変動の解決策が確実に議題になり、検討の時間が確保されるように準備を進めてきた。

エクセター大学の環境研究者スティーブ・スミス外部リンク氏はスイスインフォの取材に対し、「COP30の『アクション・アジェンダ』作成にあたり、肯定的なティッピング・ポイントの枠組みがどう役立つかを検討するために、我々はCOP30の議長チームと話し合っている」と述べた。

アクション・アジェンダ外部リンク」の目的は、会議の中核となり、世界各国の気候対策と民間やNGO等の解決策をまとめて加速させ外部リンク、農業からエネルギーまで、森林から都市までといった垣根を越えた変化をもたらすことだ。

「変化は結局、政府や産業界、研究者、消費者といった全ての人が変革のために力を合わせるかどうかにかかっている」とEPFLのビンダー氏は言う。

「COP30に大きな期待をかけるなら、これは頭に入れておくべき極めて重要な点だ。政府にできることには限界がある。実際に変化が訪れるのは、我々もまた個人として自分の役割を果たしたときだけだ」

編集:Gabe Bullard/vdv、英語からの翻訳:鵜田良江、校正:宇田薫

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担当: Jorio Luigi

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