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スイス人と「ブレネリ」金貨がつむぐ不変の愛

▲ スイスの一般家庭では貴重品に金貨が数枚、紛れ込んでいることが珍しくない
スイスの一般家庭では貴重品に金貨が数枚、紛れ込んでいることが珍しくない Keystone / Gaetan Bally

金の価格高騰で、スイス金貨「ブレネリ」の人気が再燃している。2025年7月に記念コインが発行され話題を集めたが、オンライン販売は大混乱に終わった。

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スイスでは引っ越しや家屋の片付けの際には、十分に注意を払わなければならない。タンスの奥やバッグの底、あるいは古いコートの裏地から、思いがけず「ブレネリ」が見つかることがあるからだ。

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金(きん)を庭に埋めるスイス人

このコンテンツが公開されたのは、 裏の畑でぽちがなく―スイス人が堀ったなら、本当に金銀財宝が出てくるかもしれない。ザンクト・ガレン大学の調査によると、スイス国内の庭には推定10トンもの金(ゴールド)が埋蔵されている。

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ブレネリ金貨はスイスで長年愛されてきた。かつては洗礼や堅信礼の贈り物として、またビンゴの景品にもなった。この金貨はあらゆる家庭の片隅に眠っている。

支払い手段としてのブレネリ金貨

ブレネリ金貨が広く出回ったのは、大量に鋳造されたからだ。最も一般的な額面である20フラン金貨は、1897~1935年、そして1945~1949年にかけて、合計5823万4255枚が製造された。

表面にはスイスの国章、額面、発行年が記され、裏面には「ヘルヴェティア」の文字とともに、山々を背景にした若い女性の肖像が刻まれている。縁には当時の州の数にあたる22の星が打ち込まれている。

この20フラン金貨の愛称が「ブレネリ」だ。1943年から使われ始め、語源ははっきりしないが、ドイツ語圏スイスで一般的だった女性名「ヴェレーナ」の愛称が由来だという説が有力だ。

10フラン金貨の「ドゥミ・ブレネリ」も存在する。1911~1916年と1922年のみに発行されたため、20フラン硬貨に比べれば少ないが、それでも260万枚以上が流通した。

ブレネリは、紙幣が普及する前には正式な決済手段だった。スイス国内では1936年まで、法定通貨として使われていた。

欧州で単一通貨が流通するようになったのは、ユーロの導入からではない。実は19世紀の半ば、すでに通貨同盟の試みがあった。

1865年、フランス、ベルギー、スイス、イタリアが手を組み「ラテン通貨同盟」を発足。1868年にはギリシャも加盟した。この同盟により、1865年から1927年に鋳造された基準金貨の純金含有量が同量に定められ、各国で等しい価値を持った。

その結果、スイスの20フラン金貨(ブレネリ)、フランスの20フラン金貨(ナポレオン)、ベルギーの20フラン、イタリアの20リラ、ギリシャの20ドラクマはいずれも同じ価値を持ち、国境を越えて使える「共通通貨」として流通した。

英国とドイツ帝国を除けば、ブルガリアの20レヴァ、オーストリア・ハンガリー帝国の8フローリン、セルビアの20ディナール、ルーマニアの20レイといった多彩な金貨も仲間入りし、欧州内で「ブレネリ」と同じ価値を持つ貨幣が流通した。

もっとも、この壮大な試みも第一次世界大戦による金融の混乱で立ち行かなくなり、1927年に幕を閉じた。統一基準は銀貨にも及んでいた。最後まで準拠していたのはスイスの0.5フラン、1フラン、2フラン硬貨で、1967年までこの規格で鋳造された。当時の硬貨が現在の自動販売機では弾かれることがあるが、それは銀の含有量が多く、後に鋳造された硬貨より重いためだ。

今日、大量の硬貨と引き換えに車や高級時計を買うことはできない。とはいえ、金貨には変わらぬ存在価値がある。コレクションの対象として、あるいは持ち運びや保管が容易で分散保管しやすい形態で、金貨は今もなお経済的な実用性を備えている。

引き出しの奥に眠る宝物

広く流通したため、通常のブレネリは「金地金としての価値」しか持たない。つまり、基本的にはその日の金相場の重さ分の値しかない。それでも金価格高騰のおかげで十分な投資価値がある。

さらに金買取業者の手数料が5%ほど加わる。執筆時点では、一般的な20フラン金貨の取引価格は528~555フラン(約9万7600~10万2600円)前後だった。

ただし、コレクター界隈では希少性が価格を跳ね上げる。例えばヴェレーナの「おでこに一房の髪」が刻まれた1897年の試作コイン「ブレネリ・ア・ラ・メッシュ」は、10万~15万フラン(約1850万~2770万円)に達することがある。

同じく1897年発行の「ブレネリ・ド・ゴンド」も希少価値が高い。スイス南西部のヴァレー(ヴァリス)州ゴンド村の鉱山から採掘された金で鋳造され、合金に銅が含まれていないため、通常の金貨より淡く緑がかった色をしている。

しかし、この2つのコインはそれぞれ12枚、29枚しか発行されていないため、遭遇する確率は限りなく低い。

これより入手できる可能性がわずかに高いのは、1925年に発行された100フラン金貨のブレネリだ。当時のスイス連邦大統領ジャン・マリー・ミュジー氏の依頼で鋳造された特別版で、約3500枚が現存。地金価値は約2500フラン(約46万2500円)だが、希少性ゆえに市場では1万5000~2万フラン(約277万~370万円)で取引される。

オンライン販売の大失敗

その100フラン硬貨の100周年を記念し、連邦造幣局(Swissmint)は記念コイン2500枚を鋳造外部リンクした。この復刻版の発行は、貨幣愛好家の間で大きな関心を集めると同時に、多くの不満も呼び起こす事態へと発展する。

ほとんどの人にとって、新しい100フランのブレネリ金貨は写真で眺めるしかなさそうだ
ほとんどの人にとって、新しい100フランのブレネリ金貨は写真で眺めるしかなさそうだ keystone

記念硬貨2500枚は7月1日午前9時、連邦造幣局のオンラインショップで、1枚3500フラン(約64万7500円)で販売が開始された。だがアクセスが殺到し、サイトはすぐにダウン。正午頃にサイトが復旧すると、記念コインはすでに完売していた。

こうした技術的な問題があったにもかかわらず、一部の人はコインを入手していた。しかも、オークションサイトで記念コインが定価の10倍近い価格で転売されているのだ。

これがコレクターたちの怒りをかった。独語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングによると、コレクターの1人が、造幣局が特定の27業者が利益を得られるようにウェブショップを故意に操作したとして、連邦検察庁(BA/MPC)に詐欺と背信行為の疑いで告発した。スイス連邦議会財政委員会も今後調査する方針だ。連邦造幣局を監督する連邦財務省(EFD/DFF)は疑惑を全面否定している。

ブレネリの記念硬貨の再発行は、技術的トラブルで少し水を差された形となった。それでも、スイスにおける金への愛着は、これからも変わることはないだろう。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳横田巴都未、校正:宇田薫

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