スイスで「大規模蓄電池時代」の幕開け
スイスでは今後数カ月~数年かけて、大規模な蓄電池の設置が相次ぐ見通しだ。独語圏のスイス公共放送(SRF)の調査で明らかになった。
スイス最大の蓄電池設備は、現在、スイス北部ゾロトゥルン州のカッペルにある。エネルギー会社プリメオ・エネルギーが手掛ける同設備は、先月3日に稼働を開始した。蓄電容量は約80メガワット時(MWh)で、およそ3万世帯に2時間、電力を供給できる。
ただ「国内最大」の座もあとわずか。来月にはスイス中部ウーリ州のグルトネレンで更に大型の蓄電池が稼働するためだ。こちらは約12万世帯に2時間電力を供給できる見込みだ。これら2つの事例は、スイスにおける大規模蓄電池時代の幕開けを示している。
スイスで大型バッテリーの導入が急速に進んでいる背景には、太陽光発電設備との連携がある。日中に太陽光発電で生じた余剰電力をバッテリーに蓄電すれば、日没後に放電して利用できる。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のエネルギー科学センター長、クリスティアン・シャフナー氏は「将来的には、バッテリーが昼夜の電力バランス調整を担うようになるだろう」と説明する。
急速に進む導入
蓄電池をめぐる討論は、まだ一般的にあまり注目されていない。シャフナー氏は「開発スピードが非常に速いことも理由の1つだ。建設までの準備期間がとても短いため、プロジェクトの投資決定から設置まで1~2年程度しかかからない」と説明する。また、蓄電池は安全性が高いとされ、風力発電や原子力発電所のように、社会的な反発を受けにくいことも背景にある。
蓄電池の拡大は、スイス全土で見られる現象だ。SRFの調査によると、ここ数年で、少なくとも150 MWhに相当する蓄電池がスイス全土に設置された。今年末までには、更に280 MWh分の蓄電池が増設される予定だ。
しかし、本格的な導入ラッシュはこれからだ。2030年までに少なくとも4350 MWh分の蓄電容量が計画されている。単純計算では、400万以上の世帯に電力を2時間供給できる規模に相当する。また新たなプロジェクトも続々と計画されている。
蓄電池は採算が取れる投資
これらの蓄電池プロジェクトに共通する点は、公的補助金に頼らず民間資金のみで実施されていることだ。プリメオ・エネルギーのマネージング・ディレクター、セドリック・クリストマン氏は、前出のカッペルのプロジェクトについて「これは純粋に商業的な事業であり、そうあるべきだ」と述べた。
蓄電池が利益を生む仕組みはこうだ。日中、太陽光発電によって電力価格が安くなる時間帯に電気を蓄え、夕方に価格が上昇したタイミングで蓄えておいた電気を販売し、送電網へ供給する。スイスの送電会社スイスグリッドに電力を販売し、送電網の需給バランスの調整に活用することもある。
補完関係にある揚水発電と蓄電池
ETHZのシャフナー氏は「蓄電池だけでは冬季の電力不足を補えない」と指摘する。ただ、冬場の水資源を温存する効果は期待できるという。蓄電池が昼夜の電力需給の変動を吸収できれば、山岳地帯にある揚水発電所への負担が軽減される。その結果、より多くの水を貯水池に温存でき、後で水が必要になる時期まで溜めておけるようになる。
大規模なバッテリーエネルギー貯蔵システム(BESS)に関するデータは、まだスイスでは一括した統計が取られていない。太陽光エネルギー分野の業界団体スイスソーラーは「スイスにおける蓄電池モニタリング」の一環として、一般家庭に設置されたバッテリー(電力利用者が自家消費や電力使用の最適化を目的とした「(メーター後方)」エネルギー貯蔵と呼ばれるシステム)に関するデータを収集している。同協会の推計では、昨年のこれらの容量は約1500 MWhだった。
より大規模なBESSシステム(配電網に接続された「メーター前方」型の蓄電システム)は報告義務がない。
SRFの集計は、公開済みの情報源や事業者やメーカーからの情報に基づく。
容量が5 MW以上の蓄電システムのみが対象。病院や産業施設での非常用電源として使用される蓄電システムは対象外とした。
ドイツ語からの翻訳・校正:シュミット一恵
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