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対米関係、日本株式市場の弱点、皇室インスタ…スイスのメディアが報じた日本のニュース

握手する岸田文雄首相とジョー・バイデン米大統領
2023年8月、日米間首脳会談後の記者会見で固い握手を交わす岸田文雄首相(右)とジョー・バイデン米大統領 KEYSTONE/AP/ANDREW HARNIK

スイスの主要報道機関が先週(4月2〜7日)伝えた日本関連のニュースから、①日本に学ぶ保護主義米国との付き合い方②失われた数十年を振り払う日本株③皇室がインスタ開設、の3件をピックアップ。要約して解説します。

※SWI swissinfo.chでは毎週月曜日、スイスの主要メディアが報じた日本関連ニュースのまとめ記事を配信しています。こちらからニュースレターにご登録いただければ、メール形式で全文をお届けします。

保護主義米国への対応で手本になる日本

ドイツ語圏の日刊紙NZZは2日、岸田文雄首相の訪米や11月の米大統領選を前に、保護主義的傾向を強める米国に欧州の同盟国がどう対処するべきか、日本が手本となるとの論考を掲載しました。筆者は東京特派員のマルティン・ケリング記者です。

ケリング記者が注目したのは日本製鉄が示したUSスチールの買収案です。ドナルド・トランプ前大統領が再選されれば買収を禁止する方針を示し、現職のジョー・バイデン氏も先月「USスチールは国内で所有、運営されるアメリカ企業であり続けることが不可欠だ」とする声明を出しており、買収計画には暗雲が垂れ込めています。

「こうした侮辱について驚くのは、日本の冷静な反応だ」―ケリング記者はこう評価します。政界からも経済界からも大きな懸念が聞こえてこないのは、▽米大統領選を前に拒否反応は予想されるものだった▽1980年代の日米貿易摩擦を経て「政治が貿易関係に及ぼす影響には慣れている」(みずほ銀行アナリストの舘林 明日香氏)▽日本政府にとっては日米同盟が最重要で、経済的逆境に政治家が公然と反発するわけにはいかない―という事情があると解説しました。

買収計画が人口縮小する日本経済にとって重要であり、米国が保護主義的傾向を強めていることを日本人が意識していないわけではありません。それでも、買収案の承認プロセスが「選挙後には選挙ではなく経済に基づいて決定されると日本人は期待しているようだ」。メディアも紛争を二国間危機だと誇張せず、むしろ冷静に分析して情報を提供していると評価し、「この現実的な態度をもってすれば、日本は他の同盟国に米国との付き合い方を示すことができるだろう」と結論付けました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

失われた数十年を振り払う日本株

日経平均株価が4万円台に到達したことを示す街頭の株価ボード
KEYSTONE/Copyright 2024 The Associated Press. All rights reserved

先月、日経平均株価が史上最高値を更新し、日銀が17年ぶりに利上げに踏み切りました。ドイツ語圏の経済紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフトは4日、この好調さの背景と課題を分析する解説記事を掲載しました。

筆者のジークムント・スカラー記者はスイスの技術・メディア・通信業界担当。日本を良く知るスイス輸出企業の間では「日本・スイス関係に真の成功物語はない」と揶揄されることが多いそうです。民族的に同質で独自の文化・社会ルールを持つ日本とのビジネスはスイス企業にも難しく、「キットカット」に依存するネスレや経営陣が全員日本人であるロシュの日本法人・中外製薬、エレベーター事故への対処で日本市場から退出を迫られたシンドラー社の例を挙げました。

そんな特殊性を持つ日本はバブル崩壊で不動産危機・銀行危機を併発し、長期停滞に陥りました。2012年のアベノミクスが徐々に変え、パンデミック後に株式市場が躍進を始めました。この数カ月の株価急上昇は円安で輸出企業が恩恵を受けているほか、「ここ数十年日本から遠ざかっていた海外投資家が、中国の不動産バブル崩壊をきっかけに再び日本を意識するようになった」と分析しています。

一方、日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の悪さは、投資家に「日本株式市場の大きな弱点の一つとみなされてきた」と指摘しました。具体的には▽日本の産業コングロマリットは多数の子会社や複雑な持ち株構造を持ち、非効率▽国際企業の経営陣の年齢層が高く、財務上のコミュニケーションは日本語だけになる場合が多い、といった点があります。

近年は証券取引所が中心となり数々の改革が進んでいます。しかし未だに東証プライム上場企業の大半は簿価を下回っており、「信用が大きく失われていることを示している」と結びました。(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト外部リンク/ドイツ語)

皇室がインスタ開設

皇室インスタアカウント画面
KEYSTONE/Copyright 2024 The Associated Press. All rights reserved

宮内庁が今月からインスタグラムの公式アカウントで皇室に関する情報発信を始めたことは、スイスでも大きく取り上げられています。3日にはドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが、韓国・日本特派員のトーマス・ハーン記者のリポートを掲載しました。

「宮内庁は社会の進歩をほとんど考慮していない。少なくとも、この由緒ある日本の行政機関の仕事を見ると、そう見える」――ハーン記者は記事をこう始め、宮内庁が「皇室の生活を非常に厳格に規制し、女性の皇位継承を認めるなどの突飛な考えに皇室が乗っ取られないようにしている」と指摘しました。

そんな中でのインスタ開設は「間違いなく従来の慣例との決別であり、長期的には天皇すら逃れることのできない時代精神への譲歩となる」と位置付けます。「世界最古の連綿と続く世襲君主制が多少なりとも社会に開かれていなければ、人々の意識から消えてしまう可能性があることに宮内庁は気づいている」

ただし宮内庁の委託を受けた専門家がソーシャルメディアでの発信によるリスクや副作用を検証した結果、皇室アカウントは他のアカウントを一切フォローせず、コメント機能をオフにし、投稿は公式の写真に限られています。今のところアカウントは膨大なフォロワーと「いいね!」を獲得しているものの、こうした写真は「皇室の日常生活が非常に堅苦しいものに見える」ため、宮内庁が注意しなければ「天皇でいることはあまりクールではない」との印象をインスタ利用者である若い世代に植え付けてしまう、と注記しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語)

【その他、スイスで報道されたトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスが誇る『世界一』あれこれ」(記事/日本語)でした。他に「スイスのサマータイム廃止はいつ?」(記事/日本語)、「スイスで運転支援システム・ドラレコ設置義務が発効」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は4月15日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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