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日米首脳会談、AUKUS、曙太郎さん死去…スイスのメディアが報じた日本のニュース 

車の運転席に乗った曙太郎さん
2002年4月、車好きだった曙さんに仏ルノー社から「アヴァンタイム」日本第1号車が贈られた Keystone

スイスの主要報道機関が先週(4月8日〜14日)伝えた日本関連のニュースから、3件をピックアップ。要約して紹介します。

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今回ご紹介するのは①日米首脳会談 対中包囲網・月面着陸に注目②AUKUSでは信頼欠く③元横綱の曙太郎さんが死去、の3本です。

日米首脳会談 対中包囲網・月面着陸に注目

岸田文雄首相が8~14日に訪米し、10日にはジョー・バイデン米大統領との首脳会談、11日にはフィリピンのマルコス大統領を交えた初の3カ国首脳会談が行われました。

ドイツ語圏の日刊紙NZZは論説で、「国賓としての訪問は、バイデン・岸田両氏は日米が今後も『親友』であり続けることを望んでいるという明確なメッセージを強調した」と位置付けました。1960年の日米安全保障協定は米国が日本を守り、逆は無いという明らかに非対称的なものでしたが、北朝鮮・ロシア・中国という脅威が高まる中、「日本は自国の防衛のために努力しなければならなくなった」と説明しました。

「日本はフリーライダーから、インド太平洋における最も重要な安全保障パートナーへと姿を変えた」とし、バイデン氏の言う「親友」は「信頼できる」という認識だと読み解きました。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は日米接近によって「日本が北大西洋条約機構(NATO)に加盟する可能性があるのかという疑問が生じる」として、そのメリットや実現可能性を考察しました。

核保有国・独裁国家である中朝ロと敵対する日本のNATO加盟については、「志を同じくする民主主義諸国との接近は日本の孤独を軽減し、確実に国民にプラスの影響を与える」と説明。加盟は「一義的には政治的な影響」をもたらし、「産業・技術大国である日本はNATOの軍事的利益にも沿う」とみています。

既に日本とNATOは共同作戦を行っていますが、日本と欧州間の距離を踏まえると「緊急時に迅速・効率的に防衛し合うことはできない」デメリットも。またNATO諸国の間で「日本とどの程度集中的に協力したいかについて意見が一致していない」ため、特に欧州側で政治的にも実現困難だと分析しました。

フランス語圏の日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブは日米接近の背景に、「予測不可能なドナルド・トランプ氏が政権に返り咲くのではないかという懸念」も挙げました。フランス国際関係研究所(IFRI)マルク・ジュリエンヌ研究員は同紙に「2030年頃までに中国・台湾が武力衝突する可能性は否定できない」ことから、「日本は選挙前に軍事・技術・経済各分野で米国との同盟を束縛しようとしている」と解説しました。

一方で日本製鉄によるUSスチール買収案は、バイデン・トランプ両候補が難色を示しており、同紙は「同盟国同士でも、中国の脅威があっても、幸せなグローバリゼーションの時代はもう終わった」と結びました。

またフランス語圏では、日米会談に合わせ、米国主導の月探査「アルテミス計画」で日本人が米国人以外の人類として初めて月面に着陸するとの取り決めが結ばれたことが注目されました。

フランス語圏の日刊紙ル・タンなどは、仏AFP通信の記事を転載し、日米共同声明の「日本人宇宙飛行士が実際に非米国人として初めて月面に着陸するには『重大なステップ』を踏む必要がある」という一文に注目。日本が提供する与圧探査機(有人与圧ローバ)は、NASAが発注した探査機とは異なり「宇宙飛行士はスーツを着る必要がなくなり、より長い距離を移動できる」と説明しました。また欧州宇宙機関(ESA)も技術供与と引き換えにアルテミス計画で宇宙飛行士の搭乗権を確保していると伝えています。(出典:NZZ外部リンクSRF外部リンク/ドイツ語、トリビューン・ド・ジュネーブ外部リンクル・タン外部リンク/フランス語)

バイデン大統領と岸田首相
岸田首相は2015年の安倍総理大臣以来、9年ぶりに国賓待遇で歓待を受けた KEYSTONE

AUKUSでは信頼欠く

日米首脳会談に先立つ8日、米英豪の軍事同盟「AUKUS(オーカス)」は共同声明を発表し、先端技術分野で日本との協力を検討していると明らかにしました。NZZは10日付の記事で、「米英豪は日本と緊密に連携したいが、あまり信頼していない」との見出しで現状を分析しました。

声明は「三国の国防大臣が、新型兵器やシステムの開発に関して日本の関与をより緊密にしたいと考えていることを意味する」と説明。ただ同盟の目玉である原子力潜水艦に関する関与ではなく、人工知能(AI)や極超音速ミサイル、量子技術の分野が念頭に置かれていると伝えています。

先週の日米首脳会談を機に安全保障同盟が新段階に入ったことで、日本のAUKUS参加も取り沙汰されています。しかし記事は、第4のパートナーが加わることで原子力潜水艦の調達がさらに複雑化するという懸念や、「サイバーセキュリティと機密情報の保護に関して、日本が欧米諸国に後れを取っている」ことから、AUKUS内には反対意見が強いことを紹介しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

AUKUS首脳会合
2023年3月、サンディエゴで開かれたAUKUS首脳会合 KEYSTONE/WPA Rota

元横綱の曙太郎さんが死去

大相撲で外国出身力士として史上初めて横綱となった、元曙の曙太郎さんが4月、心不全で亡くなりました。スイスではドイツ語、フランス語、イタリア語の全言語圏で報じられました。

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは「敵意と賞賛 外国人が日本の国技をどう変えたか」と題してその功績を振り返りました。1993年の横綱昇進は「国内で激しく批判され、初めて横綱として出場したときは非常に敵対的な雰囲気に包まれた」ものの、同年7月の名古屋場所で優勝したことは「日本人の意識を変え、徐々に心を掴んでいった」と言います。記事は「曙の偉業は自身の功績に加えて、日本の国技において外国人が受け入れられ、歓迎されるようになったということだ」と総括しました。

ドイツ語圏のオンラインニュースサイトwatson.chも独自記事を配信。曙関が活躍したのは相撲の隆盛期で、結びはスイスでもテレビ観戦できたと言います。貴乃花との激戦の動画には「まるでテニスのフェデラー対ナダル戦」とのキャプションを付けました。ただ曙が帰化したあとも貴乃花の方が人気が高く、1998年の長野五輪開会式での横綱土俵入りに当初選ばれていたのは貴乃花で、貴乃花が病気だったために曙にお鉢が回ったという経緯を明かしました。

スイスで曙さんの死が大きく報じられた背景の一つには、相撲引退後の転向もあるようです。watson.chやbluewin.chイタリア語版は、「スイスのアンディ・フグによって有名になった日本のK-1に挑戦したが、ほとんど活躍しなかった」と紹介しました。(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンクwatson.ch外部リンク/ドイツ語、bluewin.ch外部リンク/イタリア語)

【その他、スイスで報道されたトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に」(記事/日本語)でした。他に「『スイスの気候変動対策は人権侵害』 欧州人権裁判所が異例の判決」(記事/日本語)、「スイスで6月15~16日にウクライナ平和会議開催」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は4月22日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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