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オープンソースの半導体設計、スイスの大学にも浸透

大学はオープンソース技術を用いてチップを設計している
スイスは、大学や半導体設計者を独占から解放するオープンソース運動を推進している Keystone / Laurent Gillieron

AI(人工知能)の急速な発展に伴い、半導体の高度化ニーズが加速している。研究開発に取り組む大学機関にとって、オープン型の半導体設計が不可欠な存在になっている。

スイスの連邦工科大学など次世代半導体の設計に取り組む研究機関にとって、半導体の高度化ニーズは追い風だ。だが半導体の研究開発や生産は、「命令セットアーキテクチャ(ISA)」がもたらす制約に直面している。

ISAとは、半導体とソフトウェアの相互作用方法を決定する「翻訳」ツールだ。最も多く使われているのは米インテル製と英アーム製のISAだ。両社とも、自社製ISAを利用する企業からライセンス料を徴収し、半導体設計への適用を制限する。

これに対抗するために開発されたのが、2010年に米カリフォルニア大学バークレー校で開発された「RISC-V(リスクファイブ)」だ。オープンソース型のISAで、2015年に管理団体が発足し、2020年には「RISC-Vインターナショナル」(以下「協会」)と改称して米国からチューリヒに移転した。

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効率100倍向上

スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は2015年、協会の創設メンバーとなった。情報技術・電気工学科のルカ・ベニーニ教授はスイスインフォの取材に、オープンソース化が「イノベーションのためのインフラを構築する」と強調する。

「研究者がISA上でプロセッサを設計・改良するにはISAオーナーから許可を得る必要があり、実質的に阻まれている。我々は自由に活動できるよう、オープンソースのISAに移行した」

これにより、ETHZは過去10年間で約75種類の半導体の開発に成功した。スイスは、大規模な半導体製造施設を持つ台湾やアメリカ、中国といった国々との競合を避け、エネルギー消費量の少ない超低消費電力半導体の設計などニッチな分野に注力している。

ベニーニ氏らは、機械学習と推論、大規模言語モデル(LLM)の訓練に特化したRISC-Vプロセッサを設計した。「これにより、効率を100倍向上できた。まさに一世代に一度の飛躍だ」

AIやデータセンターの拡大に伴い電力消費量が増加する今、効率化は極めて重要だ。スイス技術革新センター(CSEM)の統合・無線システム担当副社長であるアラン・セルジュ・ポレ氏は、業界のオンラインフォーラムSemiwikiで「半導体業界はプロセスの個々の部分を改良し、不要な計算を削減し、エネルギー効率を最適化することで、より効率的な製品開発を目指している」と綴った。

「かつて量産化を目指していた大手企業でさえ、今ではエネルギー事情に合わせ、半導体のサイズを適切に設計する方法を模索している」

CSEMはスイス連邦政府が1980年代初頭に設立した官民連携のイノベーション機関だ。産学連携を促進し、スイスが技術開発の進展に遅れをとらないようにすることを目的としている。

CSEMの半導体研究は、RISC-Vの下で大きく発展した。当初は自前のISAを用いたプロセッサの開発を目指したが、エコシステム全体を管理・維持する作業に膨大な時間を要することが分かった。さらにアーキテクチャ(設計思想)を最新に保ちバグのない状態を維持するための開発者チームや、その技術をビジネスに導入する企業へのサポートサービスが必要となる。

CSEMのシステムオンチップグループ責任者であるステファン・エメリ氏は、これらの業務をRISC-Vに委ねたことで、研究開発に人的・金銭的資源を割けるようになったと振り返る。RISC-Vインターナショナルには学術機関のほか、グーグルや華為技術(ファーウェイ)、独ジーメンス、日本のソニーなどの大企業も名を連ねる。

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世界の中小AI企業に希望を与えるRISC-V チューリヒ拠点に中立性発揮

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・チューリヒを拠点とする国際団体「RISC-Vインターナショナル」は、半導体設計のオープンソース化を進め、既存の業界構造に一石を投じている。

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協会メンバーは協力して新しいアプリケーションを追加したり、アーキテクチャへの新しい拡張機能を承認したりすることで、ISAを維持・強化している。

「世界中の他の大学や企業と意見交換ができ、学術研究にとって非常に重要だ。常に進化し続ける、非常に活発なエコシステムといえる」(エメリ氏)

日本企業とも提携

CSEMは、日本のユナイテッド・セミコンダクター・ジャパン(USJC)と共同でスマートフォンやタブレット向けの超低消費電力半導体を開発するなど、複数の多国籍企業と提携している。

連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)にも、RISC-Vを活用した研究がある。その1つである「X-HEEP外部リンク」は、研究者が超低消費電力のエッジコンピューティングやIoT(モノのインターネット)アプリケーション、生体医療用ウェアラブル向けシステムを構築・テストできるオープンソース型マイクロコントローラー(MCU)だ。

ベニーニ氏によると、RISC-Vはスイスの学術研究機関にとって不可欠な存在となっている。

それはまるで物理学者にとっての欧州原子核研究機構(CERN)のようなものだという。CERNの粒子加速器を使って理論を検証できるように、「RISC-Vは、コンピューティングシステムの研究インフラとして同様の役割を果たしている。ソフトウェアや特殊なハードウェアの研究成果を具体的な形で世に送り出すことを可能にする、非常に重要な資産だ」とベニーニ氏は語った。

編集:Gabe Bullard/VdV、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子

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