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時系列でみる イスラエル・パレスチナ紛争とスイス

イスラエル、パレスチナ、スイスの国旗のコラージュ
中立国スイスはイスラエル・パレスチナ紛争の仲介役に名乗りを上げている SWI swissinfo.ch / Helen James / Getty Images

2023年10月7日にパレスチナの過激派組織ハマスがイスラエルを奇襲して以来、ジュネーブ諸条約の寄託国スイスは繰り返し停戦を訴えてきた。だが、イスラエル寄りとの批判も浴びる。一連の動きを時系列で追った。

2023年10月7日、ハマスが他のパレスチナ武装グループと共にイスラエルを攻撃。1100人外部リンク以上を殺害し、約251人の人質をガザに連れ去った。

イスラエルはガザ地区に対する大規模な軍事行動で応じた。パレスチナの保健当局の発表によると、イスラエルの地上侵攻と空爆により、2025年7月末までに6万7000人以上が死亡し、そのうち3分の1近くが18歳未満だった。

今年7月に発表された国際監視組織の警告によれば、イスラエル軍が2025年3月初頭に人道支援物資の搬入を遮断してから、ガザで飢饉ききんの最悪のシナリオが進行している。

スイスは過去2年間にわたり、和平交渉再開を支援するために仲介外交を行う用意があると表明し続けてきた。だがその一方でハマスをテロ組織に指定し、パレスチナの国家承認を見送り、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への財政支援打ち切りを検討している。

イスラエル国旗を掲げるデモ参加者
2023年10月、ジュネーブの国連欧州本部前で人質解放を求めるデモ参加者ら Keystone / Magali Girardin

【2023年10〜12月】ハマスをテロ組織に指定

スイス政府はハマスのテロ行為を強く非難し、イスラエルには安全を確保し自衛する正当な権利があると認めた。そのうえで全ての当事者に対し、民間人保護のために国際人道法を尊重するよう呼びかけた。

戦闘を受けて、スイスは約700人の現地在住スイス人をテルアビブからチューリヒに退避させる航空機を手配。また、中東外部リンクでの人道支援に9000万フラン(約167億円)を拠出した。

【10月11日】ハマスによる攻撃の4日後、スイス政府は国内におけるハマスの活動を禁止する意向を表明した。法案は11月に提出され、2025年5月に発効した。

これは自らを仲介国と位置付け、ハマスをテロ組織に指定しないという従来の中東政策を転換するものとなった。

【12月29日】ニューヨークで開かれた国連安全保障理事会の緊急会合で、スイス外部リンクは中東における永続的な政治解決の必要性を強調した。同国は2023〜2024年、拒否権を持たない非常任理事国を務めていた。

スイスは同日、1967年の境界線外部リンクに基づく2国家解決という国連がかねて示している案への支持を改めて表明した。 

連邦議事堂前のデモ
2023年10月28日、スイスの首都ベルンの連邦議事堂前で、パレスチナへの連帯を訴えるデモ隊 Keystone / Anthony Anex

【2024年】停滞する人道支援

2024年、イスラエルはガザで軍事作戦の規模を拡大。空爆と地上侵攻を継続し、援助物資の搬入を妨害した。ガザの人道状況が急速に悪化するなか、ヨルダン川西岸地区でもイスラエル人入植者・イスラエル軍とパレスチナ人との間で暴力がエスカレートした。

国際社会から繰り返し緊張緩和を求める声は上がったものの、持続的な停戦には至らず、和平交渉は行き詰まったままとなった。

スイスは、この紛争に関わる全ての当事者は、国際人道法を例外なく厳格に順守しなければならないと強調し、イスラエルとパレスチナの2国家解決を訴えた。

UNRWAの職員数人がハマスの攻撃に関与したとのイスラエルの主張を受けて、スイス議会は2024年を通じてUNRWAへの資金提供の打ち切りを議論した。

議会は、UNRWAへのいかなる拠出も最初に外交委員会で検討すべきだと結論づけた。 

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広がるUNRWA解体論 ハマス関与疑惑の真相は?

このコンテンツが公開されたのは、 パレスチナ難民を支援する国連機関への解体圧力が高まっている。イスラエルは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)がイスラム過激派ハマスと共謀していると主張し、スイスなどのドナー(援助)国からの資金拠出が滞る。イスラエルの主張を検証した。

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【4月18日】国連安保理が、パレスチナの国連正式加盟に関する勧告決議案の採決を行った。決議案外部リンクには12カ国が賛成、2カ国(英国とスイス)が棄権し、最終的には常任理事国5カ国の一角を占める米国が拒否権を行使した。

この拒否権行使によって、決議案の国連総会提出は阻止された。国連総会での加盟承認には、加盟国の3分の2を超える賛成が必要となる。

スイスは棄権の理由について、パレスチナの加盟を承認しても、現時点では中東の緊張緩和や平和推進に貢献しないと結論づけたためと説明した。

【7月19日】国際司法裁判所(ICJ)が、被占領パレスチナ地域におけるイスラエルの存在は違法とする勧告的意見外部リンクを出した。スイスはこの意見の作成に寄与し、支持した。

【9月18日】国連総会でICJ意見を支持する決議が採択される。スイスは棄権したが、国際法を尊重する姿勢を改めて表明した。スイスの主張によれば、同日に採択された決議は、いくつかの点でICJ意見の範囲を超えているという。特に、イスラエルの安全を保障する方法に触れることなく、占領地からの撤退期限を12カ月に設定した点が問題だとしている。スイスは「今回の棄権は断じて、被占領パレスチナ地域の全域で国際人道法を尊重し、その順守を確保すべきという我が国の姿勢を後退させるものではない」と述べた外部リンク

【2025年】ガザを脅かす飢饉

食料を求めて殺到するパレスチナ人たち
2025年8月4日、ガザで食料の配給に押し寄せるパレスチナ人たち Copyright 2025 The Associated Press. All Rights Reserved.

国際社会の度重なる停戦の呼びかけにもかかわらず、中東の戦闘は続いた。7月からはガザの住民全体が飢餓の危険にさらされていると国連外部リンクが発表。イスラエルは国際的な批判を浴び、ガザ地区への追加援助の受け入れに追い込まれた。

イスラエル国内でUNRWAの活動を禁止外部リンクする法律が1月30日に発効し、ガザにおける援助物資の配布状況がさらに悪化した。加えて、イスラエルがガザに通じる検問所を完全に閉鎖し、3月初頭から5月中旬まで、食料や水、人道支援物資の搬入を阻止した。

【3月6日】パレスチナ地域の民間人の保護に関するジュネーブ諸条約会議が、関係当事者の深刻な意見の相違のために開催前日に中止された。国連総会で委任された会議を開催できなかったスイスは、批判を浴びた。この会議の目的は、被占領パレスチナ地域における民間人とその財産の保護を再確認することだった。

【5月15日】スイスで5年間のハマス活動禁止措置が始まる。

【5月21日】スイスはUNRWAに対し、2025年については前年と同様に、1000万フランをヨルダンやレバノン、シリアでの活動を支援するために拠出すると明言した。

【5月30日】イスラエルがヨルダン川西岸地区で新たに22カ所の入植地を承認したことについて、スイス政府が抗議。

【6月初旬】スイスのイグナツィオ・カシス外相に対して、姿勢がイスラエル寄りだとして国内から批判の声が上がる。スイス外務省の関係者数百人も連名で抗議の書簡を提出した。

【6月10〜11日】国内の圧力を受けて、カシス氏がハマスの攻撃後初めて中東を訪問した。エルサレム滞在中、同氏は国際人道法に基づくイスラエルの義務を強調。特に占領国として人道支援への妨害のないアクセスを確保する責任があると述べ、ガザへの追加援助を認めるようイスラエルに要求した。また、ヨルダン川西岸地区の中心都市ラマラでは、パレスチナのムハンマド・ムスタファ首相と会談した。

【7月2日】「ガザ人道財団(GHF)」がスイス・ジュネーブでの財団登録を抹消。以降は米国を本拠地に活動を続ける。この民間財団は、UNRWAなど国連主導の人道支援に代わるものとして米国やイスラエルの支援で2月に設立された。5月27日に援助物資の配布を開始したが、配給に集まったパレスチナ人がイスラエル軍に銃殺されるなど、非人道的な配給方法が問題視されていた。

【7月29日】中東情勢をめぐる国連会合(7月28〜30日)のなかで、英国やカナダなど西側数カ国がパレスチナを独立国家として承認する意向を表明した。フランスはこれに先立って承認の方針を明らかにしていた。スイスは条件が満たされていないとして承認を見送った。

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【8月12日】スイスや日本を含む西側29カ国が、「我々は戦争を終わらせうる停戦を必要としている」との声明を発表した。声明の署名国外部リンクは「停戦を目指し、和平の実現に尽力する米国、カタール、エジプトに感謝している。我々は、人質が解放され、援助が陸路で妨害なくガザに入るために、戦争を終わらせうる停戦を必要としている」と述べた。

【9月~10月】ジュネーブやチューリヒなどスイスの複数の都市で、数千人がパレスチナの承認とガザにおける暴力への反対を求めるデモを行った。連邦外務省は、スイスがパレスチナを国家承認しないことについて国際法上の条件は満たされているとする声明を出した。ジュネーブ発のイニシアチブ(州民発議)は州議会で否決されたが、現在、連邦レベルの国民発議の準備が進められている。

【10月5日】「自由の波」船団に所属するスイス人活動家19人がガザに寄港後、イスラエルで逮捕された。スイスに最初に帰国した活動家たちは、虐待を受けたと報告している。スイス外交官によるイスラエル訪問が短縮されたことを受け、外務省は被拘束者との面会を求るほか、イスラエルに抗議書簡を送付する予定。

【10月7日】ハマスによるイスラエル攻撃から2年を迎え、カリン・ケラー・ズッター大統領は「ハマスによるイスラエルへのテロ攻撃から2年が経ち、私たちは苦しんでいるすべての人々に心を寄せている。今こそ暴力を終わらせるべき時だ。ハマスはすべての人質を解放しなければならない。絶望と計り知れない苦しみを終わらせなければならない。平和こそが前進する唯一の道だ」とツイートした。

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≫次の記事では、第1回シオニスト会議がスイスのバーゼルで開催された1897年から、重大な日となった2023年10月7日まで、中東紛争とスイスとの関係や、渦中でのスイスの動きを取り上げています。

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追加報告:May Elmahdi-Lichtsteiner、編集:Virginie Mangin/livm、英語からの翻訳:鵜田良江、校正:ムートゥ朋子10月7日更新

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