線路内ソーラー発電、スイス西部で実証開始 日本も研究急ぐ

スイスのスタートアップ企業が、迅速に設置・撤去が可能な線路間の太陽光パネルシステムの試験運用を始めた。この「革命的」な技術には他国も高い関心を寄せる。
創案者はジョセフ・スクデリ氏。2020年のある日、スイス西部ルナンで電車を待っている時、線路の間の使われていないスペースを有効活用できないだろうかと考えたのがきっかけだったという。

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スクデリ氏は5年後、サンウェイズ(Sun-ways)を立ち上げ、スイス西部ヌーシャテル州の小さな村ビュット(Buttes)の線路に長さ100mの太陽光パネルを設置した。
「家の屋根に太陽光パネルを設置するのと同じだ」。先月24日、プロジェクトの発表会でスクデリ氏はこう語った。一日中雨が降り続き、太陽光発電施設の船出に理想的な日ではなかったが、スクデリ氏はこの日を迎えられたことが「奇跡のようだ」と満足げに語った。
鉄道インフラに太陽光発電を組み込むのは初めての試みではない。ドイツ、イタリア、フランス、日本でも、レール間に太陽光パネルを設置するプロジェクトが進行中だ。だが、開通済みの線路に設置・撤去可能なサンウェイズの技術は他にはない。
サンウェイズは、鉄道沿いの広大な未開発地を活用し「太陽光発電の生産に革命を起こす」目標を掲げる。
メンテナンスが容易
ビュットの実験では、枕木に48枚の太陽光パネルが設置された。スイスの保線企業ショイヒツァー(Scheuchzer)が開発した専用機械を使い、手作業も込みで数時間あれば約1000m²相当の設置・撤去が可能だ。
パネルは列車の走行中は線路から外れないように固定する一方、レールの保守点検や交換時には簡単に取り外すことができるようにしなければならない。パネルが汚れると発電性能が落ちるため、列車の最後尾に清掃用のブラシを取り付けることもできる。
サンウェイズは提携企業12社と、政府のイノベーション促進機関イノスイス(InnoSuisse)の出資を受けた。ビュットの実証事業の予算は58万5000フラン(約1億300万円)。
国内生産電力の2%
パネルで発電された電気は地域の電力網に送られる。ビュットのプロジェクトでは年間最大1万6000kWhと、4~6世帯分の平均消費量を生産できる。
サンウェイズによると、スイスの鉄道網はトンネル内や日照時間の少ない区間を除くと約5320㎞に及び、年間10億kWhの太陽光発電が可能だ。消費量にして30万世帯分、スイスの電力消費量の2%に相当する。
スイスは脱炭素社会の実現に向け、太陽光をはじめとする再生可能エネルギー源に投資している。スイスは2035年までに水力発電を除く再生可能エネルギーを35TWhに拡大する目標を掲げており、これを達成するには、スイスは太陽光発電を現在の7倍に増やす必要がある。
連邦運輸省交通局(BAV/OFT)の広報官フローレンス・ピクテ氏は「鉄道会社や公共交通機関が、再生可能エネルギー生産も含め革新的であることは良いことだ」と話す。
駅やホームの待合所といった建物の屋根やファサードは、太陽光発電パネルの設置に特に適している。交通局によると、公共交通機関は自社の建物・施設を活用すれば必要な電力の2~3割を自給できる。
だが線路間の太陽光パネルの活用については慎重姿勢だ。ビュットの実証試験を承認したのは、この区間の列車が最高時速70㎞とかなり遅いためだ。
試験期間についても、サンウェイズが当初計画していた6カ月ではなく、最低3年間とすることを条件とした。長い時間をかけ、実際の運用条件下で、季節ごとに検証するためだ。摩耗など線路の変化を分析し、鉄道インフラの保守・監視に伴う課題を抽出するという。
世界から注目
欧州最大の太陽光研究機関、フラウンホーファー太陽エネルギーシステム研究所の研究者マルティン・ハインリッヒ氏はswissinfo.chに、線路を活用した太陽光発電は「素晴らしいアイデアだ」と語った。自然の中に大規模な施設を建設するよりも、市街地に太陽光パネルを設ける方が良いとみる。
ただ着脱が容易なことは必ずしもメリットではないと指摘する。パネルを着脱するたびにコストが発生し、機器が損傷するリスクも高まるからだ。理想的には一度設置したら20~30年は触れるべきではないという。
サンウェイズは、世界の鉄道の半分に太陽光発電パネルを設置できると試算する。韓国やスペイン、ルーマニアで類似のプロジェクトに協力しており、中国や米国の企業とも交渉中だ。
ビュッテでの発表会に参加した韓国のテクノロジー企業、韓国鉄道太陽光発電事業会社(KRSPGPC)のパク・テボン最高経営責任者(CEO)は、サンウェイズの技術を韓国の鉄道網約6600kmに導入したいと考えている。国土交通部・鉄道公団と提携している同社は、特にパネルの電気的接続方法と、線路上での設置・撤去システムに関心を寄せる。
パク氏はswissinfo.chに「他の類似システムも調査した。サンウェイズを選んだのは、保守と鉄道運行に適した先進技術だからだ」と語った。韓国で今年中に試験事業を始める予定だ。

日本も意欲
日本の国土交通省も関心を寄せる。2023年5月に発表した報告書外部リンクでは、鉄道分野の脱炭素を進めるうえで「鉄道アセットを活用した脱炭素化」を3本柱の1つに据えている。同省の作業部会が今年3月まとめた事例集外部リンクには、「専用車両を活用することにより、よりスピーディーな設置が可能」としてサンウェイズの技術が紹介されている。
国交省脱炭素化推進室の渡邉究氏はswissinfo.chに「線路内への太陽光発電設備の設置については、列車運行の安全性や線路の保守作業の点で様々な課題があると考えており、先行する海外での研究開発の事例を勉強している」と語った。
実は日本でも同様のアイデアは試行されている。フルーク(鎌倉市)は2013年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の採択を受け、鉄道総合技術研究所などの設備で自社開発した太陽光パネルを実証実験した。
フルークの龍田尚光社長によると、当時のパネルは重すぎて着脱に時間と労力がかかり、保守点検の障壁になった。その後もペロブスカイト太陽電池などを使いパネルの軽量化を進めているという。「サンウェイズ製パネルが短時間で大量に着脱できるのは大きな利点だ」
資源総合システムの貝塚泉・主席研究員は、「パネル設置の適地が少ないと言われている日本において、線路の利用は非常によいアイデア」と話す。ただ日本ではJR系在来線などで国際標準より狭い軌間(ゲージ)を採用しており、外国製のパネルは適合しない可能性がある。
編集:Gabe Bullard/vdv、英語からの翻訳・追記:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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