スイスの主要報道機関が先週(1月22日〜28日)伝えた日本関連のニュースから、3件をピックアップ。要約して紹介します。
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2016年からスイス在住。17年にswissinfo.ch入社。日本経済新聞社で8年間記者を務めた。関心テーマは経済、財政、金融政策、金融市場。
【スイスで報道されたトピック】
- 日銀、金利据え置き(1/23)
- 隠れた強気市場、日本株(1/24)
- 京アニ放火の青葉被告に死刑判決(1/25)
- JAXA月面探査機「ピンポイント着陸」に成功と発表 撮影写真を公開(1/25)
- 是枝監督「怪物」評(1/25)
- 新ミス日本の選出で物議(1/25)
- 能登半島地震の被害額は最大2.6兆円 政府試算(1/26)
- 東京都インフレ率、日銀目標下回る(1/26)
この中から今回は①隠れた強気市場、日本株②能登半島地震の被害額は最大2.6兆円 政府試算③新ミス日本の選出で物議をご紹介します。
幅広い銘柄が上昇基調
米国の金融サービス企業MSCI(モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナル)が産出するMSCI指数には、先進国・新興国別、大型・中型株別などさまざまな種類があり、多くの機関投資家が運用指標としています。スイスの経済紙フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフトは24日、日本の大型・中型株で構成する「MSCIジャパン」(日本株指数)の隠れた強さを解説するコラムを掲載しました。
MSCI米国株指数は過去12カ月間で21%上昇した一方、日本株指数の上昇率は17%弱。ですが、香港の調査会社ギャブカル・リサーチ外部リンクのアジア担当アナリスト、ウディス・シカンド氏は、日本株指数の上昇は米国株指数のように少数の超優良企業に集中しているわけではないと指摘します。MSCI指数は時価総額を加味していますが、構成銘柄の平均株価だけで見ると日本は過去1年で35%上昇と、米国の上昇率8%を大きく上回っているからです。
シカンド氏は日本企業の健全性にも注目しています。デフレが終焉し企業が価格決定力を取り戻した今、売上高や利益率が改善し、手元資金がふんだんにあります。企業経営もかつてより株主利益に重点が置かれるようになり、また今月スタートした新NISA(少額投資非課税制度)で持続的な株高が期待できると言います。
そのリスクとしては、大幅な円高や、自民党の政治資金問題で9月の党総裁選が波乱に至る可能性を上げました。(出典:フィナンツ・ウント・ヴィアトシャフト外部リンク/ドイツ語)
さらなる不確実性
内閣府は25日に発表した1月の月例経済報告で、1日に発生した能登半島地震の経済的影響が石川、富山、新潟の3件で1兆1000億~2兆6000億円にのぼるとの試算を明らかにしました。スイス通信(Keystone-SDA/ATS)はイタリア語版で、「金融引き締めによる経済への影響や中国の景気減速という既存の懸念に加えて、世界第3位の経済大国にさらなる不確実性を与えた」と報じました。
同フランス語版では政府の試算が民間試算を上回る一方、2011年の東日本大震災よりもはるかに低いと指摘しました。(出典:Keystone-SDA/ATS/イタリア語)
日本の自己イメージ
「第56回ミス日本コンテスト2024」で、ウクライナ出身の椎野カロリーナさん(26)がグランプリに選ばれました。椎名さんは両親の再婚に伴い5歳で日本に移住し、昨年日本国籍を取得していますが、ソーシャルメディアでは「日本人らしくない」といった疑問の声も。スイスでは無料紙20min.がこれを取り上げたほか、ドイツ語圏の日刊紙NZZが日本人のアイデンティティーに関する論考を掲載しました。
「多くの人にとって、民族的同質性は日本の自己イメージの一部だ」。NZZニュース部を率いるジャクリーン・リップ記者は、人口減が進み外国人労働者に頼らざるを得ない日本でも移民が強く制限されている背景をこう指摘しました。日本人は外国人との社会的交流にも慎重で、「外国人労働者を地元住民としてではなく、客人とみなしている」と説明しています。
米国人を父親に持つ宮本エリアナさん(29)がミス・ユニバース日本代表に選ばれた2015年からほぼ10年経った今でも「この国は日本人であることが何を意味するのかという問いに、明確な答えを持っていない」と指摘。しかしながら、批判一辺倒だった宮本さんに比べ、椎名さんの受賞には擁護の声もあるといいます。またスポーツ界ではテニスの大坂なおみ選手やバスケットボールの八村塁選手など、外国にルーツのある日本人選手が活躍すると手放しで祝福されることとの矛盾も指摘しました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)
話題になったスイスのニュース
先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスEPFL、入学者数を3000人に制限 留学生は高校の成績順に」(記事/日本語)でした。他に「スイスの高機能スポーツブランドOn、労働者を搾取している?」(記事/日本語)や「Switzerland mulls return of double-barrelled surnames」(記事/英語)も良く読まれました。
意見交換
日本語を含む10言語に対応した意見交換ページで、世界の読者やswissinfo.chの記者と意見を交換しませんか?下のリンクからお気軽にご参加ください。
今日のテーマ:カーボン・オフセットの仕組みは必要?
swissinfo.chでは26日、スイスが推進中の二国間カーボン・オフセット協定の課題を探る記事「カーボン・オフセットを推進するスイス 気候目標達成に貢献するのか?」を10言語同時配信。日本語版では、2013年から続く日本の二国間クレジット制度(JCM)について追加取材し、スイスの取り組みとの違いを解説しています。ぜひ記事を読んだうえでのご意見を、上記意見交換ページにご投稿ください。
ご意見やご感想、取り上げて欲しいテーマなどのご要望がありましたら、お気軽にこちらのメールアドレスまでお寄せください。
次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は2月5日(月)に掲載予定です。
校正:大野瑠衣子
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抜群の美貌で、慈善活動に貢献
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女性の外見と内面の美を競うミス・コンテストで、出場者が「価値ある貢献を!」と訴えながらブランド品の「顔」になるのは、よくある話だ。しかし、スイス一の美女に選ばれた2人は、こうした路線と一線を画す。持ち前の美貌を活かして、NGOの活動を社会に発信しているのだ。
「インドに行くことになった時は怖かったわ。貧しい地域がまだ結構あるから」
正直にそう告白するのは、2015年ミス・スイスに選ばれたレティシア・グアリノ(24)さんだ。スイスのNGO「Terre des Hommes」から、インド東部で1週間かけて、赤線と呼ばれる売春地区や栄養失調で苦しむ子供たちを支援する現場を訪ねてみないかと打診された。
最初は恐怖心が勝り、母親に同行を頼んだほど。だが、インド東部コルカタ市に到着し、そこで出会った子供たちの笑顔に触れて、次第に気持ちが落ち着いてくる。
「コルカタでたくさんの子供たちに会ったわ。学校に行けず、家にトイレがない、医療サービスも受けられない子供がたくさんいることを知ったの。悲惨な状況だけど、自分が『ミス・スイスだ』と話すと、小さな女の子たちの反応がすごかったの」と振り返る。
インドではミスコンは成功への「登竜門」と見なされることが多い。同国は1990年代以降、4人のミス・ワールドと2人のミス・ユニバースを輩出してきた。ミスコン出場者の多くはインド映画界で女優に転身し、トップ女優になれば社会的影響力を持つとされる。
快適ゾーンから一歩踏み出すのは、グアリノだけではない。2016年ミス・スイスに輝いたロリアンヌ・サリンさん(23)も後に続く。
今夏のリオデジャネイロ五輪に関するイベントに参加するため、ブラジルを訪問していたサリンさんは、東部セアラ州にある女子少年院に足を運んだ。
「一見したところシャイな女の子たちに見えるの。でも、彼女たちがどういう経緯で人を殺して、少年院にいるのかを聞いているうちに、見た目とのギャップにショックを受けたわ」と話す。
ブラジルで「ファベーラ」と呼ばれるスラム街では、ギャングの縄張り争いや麻薬がらみの犯罪は日常茶飯事。そんな生活しか知らない彼女たちが事件に巻き込まれる一方、同じ町の反対側では、環境の恵まれた子供たちが設備の整った学校に通う――。
サリンさんは、ギャング抗争がブラジルの大きな社会問題であることを知る。ミス・スイスになったことをきっかけに、自分の知らない世界に触れる機会に恵まれて感謝しているという。
「ミス・スイスは美しいというだけでなく、その美貌を使って、声なき人たちの声を拾うマイクのような役割を果たす大使にもなれるはず。こうした人たちを支援する活動がなぜ重要なのかを、社会に広く伝えていくことができるはず」と語る。
影響を与える
グアリノさんのインド滞在とサリンさんのブラジルでの体験は、二人の心に今も色濃く残る。
グアリノさんは現在、ローザンヌ大学の医学部で勉強している。インドで公立病院を訪れた際、基礎的な診断を目の当たりにした。
「スイスには洗練された医療システムがあり、たくさんのスキャンと検査があるわ。インドで学んだことの一つは、患者に集中して簡単な診断を採用することも必要だということ」と指摘する。
またグアリノさんは、世界の恵まれない地域で起こっている現実を若い世代に興味を持ってもらうのに、ソーシャルメディアの力は大きいと信じる。
「インドでは日々の活動を説明するビデオクリップを毎日作ったわ。こうしたコミュニケーションが、NGOの活動を伝える一助になると思ったから」と話す。
一方、サリンさんもブラジル訪問から、ミス・スイスが与える潜在力を実感する。
「ミス・スイスが何を代表しているのか、自問することは大切。私にとってミス・スイスは、強い女性で責任感があり、彼女の言動が人々に影響を与える可能性があることを知っている人間だということだ」と強調する。
仏語と美術史を専攻するサリンさんは、慈善活動で支持者を集める方法について、NGOにこんなアドバイスをする。「衝撃的な画像を見たくない人は多い。共感と支持を集める方法を見つける必要がある」
前出のNGO「Terre des Hommes」は、過激派組織「イスラム国」(IS)が支配するイラク北部のモスルでも人道活動を展開している。それに関するプレスリリースを公表したところ、閲覧数は300件程度。だが、サリンさんのブラジル訪問は1300件に達したという。
「Terre des Hommes」の広報担当者イバナ・ゴレッタさんは、ミス・スイスを自分たちのプロジェクトに巻き込んだことで、プロジェクトに社会の関心が集まったと見ている。
ゴレッタさんは「イラクや他の紛争地域からの写真があふれる中で、NGOの活動を伝えていくのは難しい。でも、ミス・スイスのような写真写りのいい有名人が訴えて、メディアが注目すれば、人々の関心を再燃させることができる」と話している。
ミス・スイス
スイスのビューティコンテストの歴史を紐解くと1920年代までさかのぼる。「ミス・スイス」として開催されるようになったのは1951年になってから。
参加するには、①スイス国籍者で国内在住②年齢18~28歳③身長168センチ以上の3つの条件を満たす必要がある。2016年ミス・スイスで優勝したロリアンヌ・サリンさんの年収は12万フラン(約1378万円)。
近年は、ミス・スイスへの世間の関心が薄れ、過渡期を迎えている。2011年は公共放送が視聴率低下を背景にテレビ放映を打ち切りに。12年には資金不足で中止に追い込まれている。
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