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大手小売ミグロが直面するアルコールとの複雑な歴史

アルコール
ミグロは自社スーパーマーケットで一度も酒を販売したことはない。だが参加のミグロリーノでは酒類を販売している © Keystone / Christian Beutler

ほぼ1世紀近くに渡りアルコール販売を禁じてきたスイスのスーパーマーケット大手ミグロが最近、アルコール販売解禁を検討していると発表し、話題になっている。ミグロが行ってきたアルコール販売禁止主義の原理と恩恵、偽善的だという批判を探った。

今月6日、111人いる代表者のうち85人がアルコール販売禁止を取りやめる会社法改正に賛成票を投じ、解禁に向けて最初の一歩を踏み出した。改正案にたばこは含まれなかった。この投票によって、来月に10の地域共同組合委員会で投票が行われるという、ミグロが言うところの「民主的な道」が開けた。地域協同組合委員会が改正案を支持した場合、来年6月4日に227万人の共同組合会員による投票を行う。実にスイス国民の4分の1に当たる数だ。

組合員全体の3分の2が賛成した地域は、アルコールの販売ができるようになる。

6月の投票へ進んだ場合、アルコール販売に関する議論がこの先6カ月間は活発になるに違いない。代表者会議の準備が進む最中、アルコール・薬物依存対策に取り組むNGOブルークロスは、ミグロのDNAでもある「裏切り」を警告した。同社は社会的責任を持つ大手小売業者としての良好な評判を失うリスクがあるという。

ミグロ独自の販売戦略

社会的責任を持つ大手小売業者という評判は、1世紀もの年月をかけて培われた。1925年、起業家のゴットリープ・ドゥットヴァイラー(1888~1962年)は、チューリヒの路地裏に5台の改造バンを送り、日常食料品の販売を始めた。翌年、ミグロはチューリヒに1号店を開店した。

独語圏の日曜紙NZZ・アム・ゾンターク外部リンクによれば、ドゥットヴァイラーは1950年代のインタビューで「ミグロ創業時ににワインを販売していたら、1リットル当たりの価格は58セント程度だっただろう。それは本当に危険だ!間違いなく多くの人が飲酒を始めるか、酒量を増やしていただろう」と語っている。

マーケティング専門家のトマス・ヴィルドベルガー氏は「アルコールを販売しないことは、ミグロにとって常に核となる柱だった。これは市場競争とは一線を画す最も重要な基準の1つだ」という。

同氏は独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクに「この独自の販売戦略によってミグロは人気になった」と語る。「今や、それが打ち捨てられようとしている。これは非常に残念だ。大衆はまさにミグロのこの特異点が好きなのだから」

経済的な恩恵

仏語圏の日刊紙ル・タン外部リンクによれば、ミグロがアルコール販売に向かう理由は「明らかに経済的なもの」だ。

同紙は「ミグロは現在、市場のかなりの部分を逃している」と指摘。平均的なスイス人は毎年、バーやレストランなどで、ビール52リットル、ワイン31リットル、蒸留酒3.8リットルを消費している点を挙げる。

同紙は「2020年、小売分野はこれらの飲料販売により26億フラン(約2860億円)の売上を計上した」と報じている。

また同紙は、ミグロが国内食品市場で35~40%のシェアを占めていることを考慮すると「この歴史的な転換が実現した場合、ミグロは少なくとも年間9億フラン(約1100億円)の売上高増加が見込める」と試算する。

「偽善的」

しかし実際には、ミグロは同社のスーパーマーケット以外では、既に何年にもわたってアルコールの販売を行っている。

独語圏の大衆紙ブリックは昨年外部リンク、「ミグロがこの物議を醸すビジネスから収益を上げたいことは理解できる。しかしなぜそれを認めないのか」と報じた。「ミグロは代わりに、『VOI-ミグロパートナーシップ』のようなコンセプトを立ち上げ、フランチャイズ構想を展開している。ミグロが、自店舗でそのようなビジネスは行っていない、と主張したいがためだけに。それは偽善的だ」

ミグログループは現在、子会社のデンナー、ミグロリーノ、インターネット販売店のLeshop.ch、ガソリンスタンドのミグロール、VOIパートナー店舗でアルコールを提供し、たばこの販売も一部で行っている。

ターゲス・アンツァイガーの社説は「ドゥットヴァイラー氏は今頃、墓の中で暴れ狂っているだろう」とまとめている。「あるいは違うかもしれない。彼は周りが思う想定内の行動をすることはめったになかったから」

結局、来年の投票では、アルコール販売容認派・否定派どちらが祝杯を挙げることになるだろうか?マーケティング専門家のヴィルドベルガー氏は、いずれの結果にせよ227万人の組合員に最終決定を委ねるのは賢いやり方だ、と指摘する。

「民主主義国家として、我々はそのような投票に慣れている。また結果がどうあれ、それを受け入れている。今回のケースでもそれは変わらないだろう」

(英語からの翻訳:甚野裕明)

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