スイスの視点を10言語で

女性の定年年齢引き上げ、連邦政府が年金改革の新たな骨子案公表

高齢の夫婦
2033年までに、スイスの退職年齢の人口は260万人から390万人に達するとされている Keystone

スイス連邦政府は、日本の国民年金にあたる老齢・遺族年金制度(AHV)の財源確保を目的とした年金制度改革について新たな骨子案をまとめた。女性の定年を64歳から男性と同じ65歳へ引き上げ、付加価値税(VAT)の税率も上げる。一方で対象となる女性への緩和措置も盛り込んだ。

 政府は自治体や関係団体に骨子案への意見を求める手続きを開始。期限は10月17日までで、政府は来春までに最終的な改革案をまとめ、議会に提出したい考えだ。

 新たな骨子案は▽女性の年金受給開始年齢を改革実施2年目から1年ごとに3カ月ずつ引き上げ、最終的に男性と同じ65歳とする▽VATの税率を1.5%引き上げ、年金財源に充てる▽年金受給開始年齢を62~70歳の間(現在は63~70歳)で選択可能とするーなど。

 改革開始後に受給年齢を迎える1958~66年生まれの女性への緩和措置については、二つの選択肢を用意。一つ目は現行どおり64歳で年金を受給する人には、現行の受給前倒しに伴う減額措置を緩和し、一定の年収を下回る女性は減額を行わない。

 もう一つはこれに加え、65歳を過ぎても働く人の年金受給額を増額するというもの。政府は一つの目の措置に4億フラン(約440億円)、二つ目の措置に8億フラン(約880億円)の追加財源が必要だとしている。

 政府によると、老齢・遺族年金制度は2014年以降、急速に赤字が膨らみ、2021~2030年の投資益を除いた累積赤字は約430億フランに達する見込みという。ベビーブーム世代が今後退職し少子化も進んでいることから、連邦政府は年金財源の確保が喫緊の課題だとしている。

 連邦政府は今年3月に発表した老齢・遺族年金の改革案でVATを最大1.7%引き上げるとしていた。今回の1.5%引き上げにより、一般物品のVATは9.2%、生活必需品は3%となる。

世論調査では「1.9%も可」

 一方、スイスの世論調査機関gfs.bernが今年5月末から6月初旬にかけて全国の有権者1336人を対象に実施した調査外部リンクによると、女性の定年を65歳に引き上げることについて「賛成」「おおむね賛成」と答えたのは全体の66%に上った。また全体の64%がVATを1.9%引き上げてもいいと答えた。

 スイスでは昨年秋、女性の定年年齢やVATの引き上げなどを盛り込んだ老齢・遺族年金と企業年金の抜本的な年金制度改革案「老齢年金2020」が国民投票で否決されたが、この世論調査では当時とは異なる傾向が見られた。

おすすめの記事
女性国会議員たち

おすすめの記事

スイス、男性と女性の定年年齢が違うのはなぜ?

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは男性は65歳、女性は64歳で定年を迎える。男性の方が平均寿命が短いのだから、不公平だという人もいるかもしれない。なぜそのような差が出来たのだろう?スイスの老齢・遺族年金制度の歴史を紐解いた。(SRF/swissinfo.ch)

もっと読む スイス、男性と女性の定年年齢が違うのはなぜ?

ニュース

管制室

おすすめの記事

スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦運輸省民間航空局(BAZL/OFAC)が3日発表した2023年の航空安全報告書によると、民間・小型航空機の事故件数は9995件と、前年から24%増加した。

もっと読む スイス飛行機事故、24%増 紛争地上空ではGPS妨害も
裁判所のドア

おすすめの記事

「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦裁判所(最高裁)は先月26日、チューリヒ地方裁判所の判事の1人に対し、気候活動家に関する裁判への関与を禁じる判決を下した。この判事が過去の裁判で活動家への団結心を見せたとして、考え方に偏りがあると結論付けた。

もっと読む 「気候活動家への団結心」見せた判事、類似事件への関与禁止 スイス最高裁
財布からお金を取り出す人

おすすめの記事

スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦統計局は25日、2023年の名目賃金は1.7%上昇したと発表した。インフレ(年平均2.1%)に相殺され、実質賃金は0.4%低下した。

もっと読む スイス、2023年の実質賃金は0.4%低下
対空防衛システム

おすすめの記事

米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触

このコンテンツが公開されたのは、 米政府高官は14日、イランによるイスラエル攻撃の前後に、米国は利益代表国であるスイスを通じてイランと接触していたと述べた。

もっと読む 米・イラン、攻撃前に「スイスを通じて」接触
UBSの看板

おすすめの記事

スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス政府は10日、「大きすぎて潰せない(TBTF)」銀行に関する規制改革案を発表した。UBSと他の「システム上重要な銀行」3行は、破綻時のスイス経済への影響を抑えるためにより厳しい資本要件を課される必要があると述べた。

もっと読む スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ
新種のイカの化石

おすすめの記事

新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部ティチーノ州の約2億4200万年前の地層から新種のイカの化石が見つかり、「Chuchichäschtli(クッヒカーシュトリ、スイスドイツ語で『食器棚』)」と名付けられた。

もっと読む 新種のイカの化石、名前は発音が難しいスイスドイツ語に

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部