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飲み会とスポーツで伝統育む、農村青少年クラブ

地方に暮らす若者は、スイス相撲のシュヴィンゲンなどのスポーツで仲間と親睦を深めることが多い swissinfo.ch

スイスのフランス語圏、ヴォー州とフリブール州にある農村青少年クラブの元気がいい。農業の利益を守る目的で20世紀初頭に設立された団体だが、時代の流れに合わせながら今日までその魅力を保ち続けている。クラブが開催する祭りやスポーツイベントを通し、農村に生きる若者は郷土への愛着心や伝統を育む。

このコンテンツは 2015/08/05
Samuel Jaberg, Cremin, swissinfo.ch

エロディ・ミランドさんは、あらゆる偏見の逆をいくような女性だ。男性優位で保守的、愛国主義で外に対して閉鎖的というイメージが強い農村青少年クラブの中で、イタリア人の血を引く彼女が頂点に立ち、「ル・ジロン・ドゥ・ラ・ブロワ他のサイトへ」というイベントの指揮を執る。この祭りはヴォー州の夏を彩る四大イベントの一つだ。

「少し変わったアイディアが実を結んだ」とミランドさんは言う。「ここのクラブはメンバーがわずか15人。でも他のクラブも同じような催しを行っていたので、自分たちにもできると信じていた。問題は、誰も企画委員長になりたがらなかったことだ」

「ル・ジロン・ドゥ・ラ・ブロワ」の運営委員長、エロディ・ミランドさん swissinfo.ch

そこで、ミランドさんが思い切って委員長を引き受けることにした。「幸い、他の農村青少年クラブの協力があった」とはいえ、イベントは5日間、予算25万フラン(約3200万円)、ボランティア総勢1400人、来場者3万人以上を見込み、ベテランの企画者でも準備には相当苦労するような規模だった。

計画準備は完璧

苦労のかいあってか、出来栄えは素晴らしいものだった。会場には工夫が凝らされた。クルマン自治区の農地に設置されたイベント会場の中心には円形のバーがあり、地下の配水管を通して、場外にあるタンカーから何千リットルものビールが直接バーに送り込まれた。

準備も完璧で、駐車場として使用したキャンプ場の管理から、巨大な催事場での接客に至るまで、野外イベントの主催者なら誰でもそのレベルの高さに脱帽するほどだった。

さらに、会場の周りにはサッカー、バレーボール、陸上競技、ペタンク(球技)、相撲、綱引きなどの競技場も万全に準備された。

友情と懇親を深める場

ミランドさんと仲間たちがイベントの企画に体当たりできたのは、勤労、協力、団結、友情、懇親といった価値観に支えられたおかげだ。これは同時に、ヴォー州農村青少年クラブ協会(FVJC)他のサイトへの成功の秘訣でもある。スイスの他の協会では貢献度の低さや後継者不足が嘆かれるが、FVJCではそういった問題は起こっていない。

FVJCの会員数は、1999年の時点で会員数は5300人だったが、今では207団体から8100人が参加している。「社会の発展に伴い、再び人と人との繋がりを求める動きが生まれた。これは地方回帰の流れと並行している」とヴォー州出身の歴史家オリビエ・ムリーさんは言う。

FVJCは「農村離れに歯止めをかけ、農業の利益を守り、共産主義思想の広がりを防ぐこと」を目的に、1919年に設立された。しかし時代の流れと共に当初の政治的な意味合いは薄れ、今では主に懇親を深め、スポーツを楽しむ場に変化した。

働く若者

「スイスのドイツ語圏にある農村青少年クラブ他のサイトへでは、今日でも会員のほとんどが若い農夫だ」と、電気技師でありFVJCの副会長も務めるセドリック・デストラスさんは言う。「だが我々の会員にはあらゆる職種の人がいる。職種別の会員数の比率は、この農村地帯における社会経済の構造をそのまま映し出している」

農村青少年クラブに関する著書のある社会学者のアレクサンドル・ダフロンさんは、このように開放的な点が、FVJCがこれまで活動を続けてこられた理由の一つだと考える。また、別の理由としては、現役メンバーの親の大半がクラブの元会員だったということも挙げられるという。

尊重される階級組織

農村青少年クラブに活躍の場を見つけた女性の一人が、ミランドさんだ。もっとも、根強い偏見に直面する経験もした。「イベントの準備を進めるうちに、男女の役割分担がはっきり分かれていることに気づいた。男性は会場の組み立てを、女性は飾りつけを担当していた。円滑に進めるコツは、決して女性にドリルを渡したり男性に(飾りで使う)筆を渡したりしないことだ」

会員の日常生活には、風習、敬意、伝統、階級組織といった価値観が深く根を下ろす。「我々の間では、食前酒を注ぐのは必ず最年少者の役割と決まっている」(デストラスさん)

クラブは若者が大人の監視から離れて自由になる機会となるが、会員たちは世代間の差も大切にしている。クルマンでは「年配者」が自分たち専用のワインセラーをイベント会場の隅に設置していた。

農村青少年クラブを「思春期から大人になる移行期を安心して過ごせる場所」としてみることもできると、デストラスさん。「15歳の若いメンバーは、ときに30歳を超える先輩メンバーに囲まれながら成長する。作業を通して様々な技能や生活の知恵も学べる」

悪い評判

農村青少年クラブでは、仲間同士の結束を深めるのにビールとワインは欠かせない。「隣人や『年配者』とグラスを交わすことで仲間意識を確認し合う」とダフロンさんは言う。「ただ飲めばいいというわけではない。お酒の飲み方にはルールがあり、例えば一人酒などは敬遠される」

ここ数年の間に巨大な規模に膨らんだイベントだが、同時に大々的な飲み会というイメージも常にまとわりついてきた。農村青少年クラブは飲みすぎ防止キャンペーンなどを行い、健全な自立した若者の姿をアピールしようとしているが、今のところ、この悪いイメージを払拭できないでいる。

デストラスさんは、ヴォー州における農村青少年クラブの存在意義をもっと評価すべきだと考える。「一年中開催される様々なイベントのおかげで、我々の村が単なるベッドタウンではないことをアピールできている。ローザンヌのディスコや音楽祭に行って楽しむ若者がいるように、地元に生きる若者たちにも祭りを祝う権利はある。ル・ジロン・ドゥ・ラ・ブロワのような一大イベントの準備に何カ月も奔走したあとは、しばし、くつろぎのひと時が与えられても良いのでは?」

JTI基準に準拠

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