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「若い世代ほどコロナ禍でストレス」スイスの専門家

若者
新型コロナウイルス危機下で、社会的孤立を感じる若者が増えている © Keystone / Goran Basic

新型コロナウイルス感染防止に伴うセミロックダウンが、スイスの若者たちに深刻な影響を及ぼしている。ある専門家は、青少年のアイデンティティ形成上重要な「他者との社会的接触」が、政府の制限措置によって遮断されていると警告する。

6日の土曜日深夜、チューリッヒ中心部のセクセロイテン広場が一時騒然となった。広場にいた2人が大人数のグループに暴行を受け、16歳の少年1人が逮捕される事態に発展。介入した警察官の1人は、複数からビンを投げつけられたという。

この騒動の様子を映した動画はソーシャルメディアで拡散された。現場にいた10代の若者は独語圏の日刊紙20 Min.外部リンクに「何もかも閉まっている。だから騒ぎがエスカレートした」と言い、騒動はセミロックダウンのせいだと語った。また「何もできないことに疲れ果てている。閉じ込められているとすら感じる」と憤った。

電車の中でパーティー

レストランやバー、クラブが閉まっているなら、ほかで集まればいいーー。一部の若者たちが目を付けたのが公共交通機関だ。

1月末、電車内で大騒ぎする若者たちの動画がInstagramに投稿された。動画は1万回以上クリックされ、「警察なんか怖くない」という挑発的なコメントも寄せられた。

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンク紙も1月末、少しでも外出気分を味わうために、電車をバー代わりにしている若者たちの話を紹介した。電車なら室内での飲食が認められ、トイレも付いているからだ。

欧州でも

「パンデミックが子供や若者に与える負担は大きい」とスイスの青少年福祉機関プロ・ユベントゥーテ(Pro Juventute)の広報担当ルルザナ・ムスリウさんは話す。青少年向け相談窓口も運営する同団体によると、新型コロナウイルスの第2波のピークに見舞われた昨年10~12月、メンタルヘルスに関する相談件数は昨年同期と比べ40%も増えた。

スイスの調査会社Sotomoがセミロックダウン中の今年1月に行った調査外部リンクでは、「社会的孤立・寂しさ」を不安に感じていると答えた15〜34歳は全体の約60%に上り、全ての年齢層の中で最も高かった。

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政府の行動制限措置を破る同様の違反行為は、ほかの欧州諸国でも出ている。BBC外部リンクによると、夜間外出禁止令が発令されているフランス北西部では昨年末、2500人超規模の違法な年越しレイブパーティが行われ、複数の逮捕者が出た。英国中部リーズの公園では1月外部リンク、ロックダウンの規則を破って大学生ら数百人が雪合戦大会に興じ、企画した20歳と23歳の男性2人がそれぞれ1万ポンド(約145万円)の罰金を受けた。

行き場を失う若者たち

スイスで営業を停止しているのはバーやクラブだけではない。スポーツ・レジャー施設も昨年12月から閉鎖が続く。 職業訓練学校や大学などの高等教育機関は11月から、再び遠隔授業となった。16歳以上のスポーツ・文化活動は5人までに制限され、6人以上で集まることは公的・私的な理由を問わず禁止されている。

だが、ソーシャルメディアやチャットアプリで友人と常につながっている世代が、最も孤立を感じているのはなぜなのか。オンライン上のやり取りでは、寂しさを紛らわせないのだろうか。

プロ・ユベントゥーテのムスリウさんは「デジタルスキルいかんにかかわらず、個人間の直接的な交流は青少年の成長に不可欠だ」と指摘する。

「若者たちは他者との相互作用を通じて自己を形成していく」とムスリウさんは言う。若者がほかの年齢層よりもコミュニティを求めるのはそのためで、政府の制限措置がまさにそれを遮断してしまっているという。ムスリウさんはこの「見ること、見られること」が若者の自尊心の形成に欠かせないと訴える。

バーゼル大学の研究外部リンクでも、若者たちを取り巻く深刻な環境が浮かび上がった。昨年11月、スイス国内に住む約1万1千人の心理的ストレスを調べた調査では、重度の抑うつ症状があると答えた14〜24歳の割合は29%に上り、45~54歳(14%)の2倍に上った。

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コロナ危機に伴う経済不安で、職を失った若者の数も増えている。1月末の国内失業率は2010年春以降で最悪の3.7%に達したが、若年層(15〜24歳)の増加率は前年同期比41%増で、全ての年齢層の中で最も高かった。

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