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ベネズエラ、米中会談、原発新設…スイスメディアが報じた米国のニュース

虹の下を航行する艦隊
ベネズエラを目指す世界最大の航空母艦、USSジェラルド・R・フォード(ノルウェー撮影) Keystone

スイスの主要メディアが10月23~29日に報じた米国関連のニュースのなかから、①トランプ大統領、ベネズエラ沖に米軍派遣②韓国で米中会談へ スイスメディアの焦点は?③原発新設でウェスティングハウスと合意 800億ドルを投資、の3件を要約して紹介します。

米軍がベネズエラ沖でプレゼンスを拡大し、麻薬密輸船とされる船舶を攻撃しました。これにより、ドナルド・トランプ米大統領がニコラス・マドゥロ大統領の追放を狙っているのではないかという見方が広がっています。スイスメディアはどのように報じているのでしょうか?

また30日に行われるトランプ氏と中国の習近平国家主席との会談の重要性や、米国が新たな原子炉に約800億ドルを投資する理由に注目した解説記事が掲載されました。

記者会見で右手を掲げるネズエラのニコラス・マドゥロ大統領
ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は9月の記者会見で、マルコ・ルビオ米国務長官が「軍事的脅威」を通じて南米の同国に政治的変化をもたらそうとしていると非難した Keystone

トランプ大統領、ベネズエラ沖に米軍派遣

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は23日、米国政府の中南米における麻薬カルテルとの闘いが新たな段階に達したと報じました。世界最大の航空母艦群を中米海域に派遣することは、これまで中南米で行われたあらゆる麻薬密売撲滅作戦をはるかに超える力の行使である、と強く非難しています。

ドイツ語圏大手紙NZZは29日掲載の社説で「選挙運動中にトランプ氏が米兵を外国の紛争に介入させないと約束したのを信じた者は皆、目をこすっているだろう」と皮肉りました。「口実はベネズエラとコロンビアからの麻薬密売との闘いだ。しかし、この目的のために派遣される米兵の規模は大きすぎるように思える」

本当の理由はベネズエラの政権交代なのでしょうか?ニコラス・マドゥロ大統領は、米国が彼を権力の座から追い出そうとしていると繰り返し主張している。

大衆紙ブリックのフランス語版は28日、「トランプは一体何を計画しているのだろうか?」と疑問を投げかけました。「トランプ支持者にとって、この作戦は綿密に練られた政治シナリオに完璧に合致している。彼らの目には、マドゥロ政権の崩壊は移民を食い止め、アメリカの石油権益を守り、ドナルド・トランプをカリスマ的な指導者として確固たるものにすることを可能にするものだったのだ」

他方で同紙は、トランプ氏の強硬政策は危険なゲームだと指摘しています。「トランプ氏の賭けは裏目に出る可能性がある。残忍で不当とみなされるアメリカの攻撃は、ベネズエラ国民を外敵に対抗する団結へと駆り立て、マドゥロ氏の立場を強化する可能性がある」ためだといいます。

NZZは、トランプ氏がなおもマドゥロ氏を標的としていることは「明らかだ」としたうえで、「今回は民主主義の敵としてではなく、麻薬犯罪者として」と位置付けました。ベネズエラ沖への米軍展開は、全世界への力の誇示でもあるといいます。そこにはは「アメリカが望めば、どこであろうと軍隊を派遣し、介入する。世界の警察官は、結局のところ完全には消え去らないのだ」というメッセージが込められている、と結論付けました。(出典:SRF外部リンクNZZ外部リンク/ドイツ語、ブリック外部リンクブリック外部リンク

習近平とドナルド・トランプがプリントされたマトリョーシカ
2024年11月、ロシア・サンクトペテルブルクで販売されたマトリョーシカには、中国の習近平国家主席とドナルド・トランプ米大統領がプリントされている Copyright 2024 The Associated Press. All Rights Reserved

韓国で米中会談へ スイスメディアの焦点は?

太平洋の両岸のトレーダーや投資家は、広く期待されている今回の会談が、数カ月にわたる貿易摩擦を緩和することを期待しています。実際、ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが28日に報じたように、両国はすでに最初の譲歩を発表しました。アメリカは追加関税を一時停止し、中国は大豆の購入を再開する予定で、米TikTok事業の売却も進展しているようです。「しかし、真の緊張緩和は見通せない。むしろ休戦に近い。両国が再編を進めている休戦状態だ」と同紙は指摘しています。

記事はこう続けます。「トランプ氏は、どんなに曖昧な合意であっても、それを勝利のように誇示するだろう。しかし、覆される可能性が高いのは、主に中国が関税への対応として課した措置だ。米国大統領は誤算した。中国が抱える国内問題、例えば進行中の住宅危機や弱い内需といった問題を理由に、中国を屈服させることができると考えたようだ」

ターゲス・アンツァイガーは、そうすることでアメリカは自らの力を過大評価したと分析しています。「トランプ氏の関税は中国だけでなく、自国にも打撃を与えている。これは考えが浅はかで、パートナーを疎外し、中国と競争する欧州連合(EU)などの同盟国を弱体化させている」

一方NZZは、永続的なデタント(緊張緩和)につながるとは見ていません。同紙は、トランプ氏と習氏が追加関税の停止によって最悪の事態、すなわち貿易紛争のさらなるエスカレーションを回避したと述べ、「それ以上でもそれ以下でもない」と付け加えた。「したがって、(韓国で)達成されるであろう休戦は、依然として脆弱なままだろう」

「これは米ソ冷戦に少し似ている。習氏はアメリカの防衛産業と自動車産業が切実に必要としている希土類(レアアース)を保有しており、アメリカは中国が経済近代化に必要なソリューションと技術を保有している。双方はいつでもその供給を止めたり、再開したりできる。冷戦のようなこの均衡が、エスカレーションを予防している。まさに恐怖の均衡だ」(出典:ターゲス・アンツァイガー外部リンクNZZ外部リンクNZZ外部リンク/ドイツ語)

      原子炉の煙突
      ペンシルベニア州ミドルタウン近郊にある、閉鎖されたスリーマイル島原子力発電所の冷却塔。1979年、スリーマイル島2号炉の部分的なメルトダウンが米国史上最悪の原子力事故を引き起こした Keystone

      原発新設でウェスティングハウスと合意 800億ドルを投資

      フランス語圏のスイス公共放送(RTS)は、これはテクノロジーおよび人工知能(AI)大手からの電力需要の高まりを背景にした米国の原子力発電復活に向けた重要な一歩だと報じました。

      この合意は、トランプ米大統領が5月末に署名した「原子力産業の再活性化」と題する大統領令の延長です。同氏は2030年までに通常型原子炉10基を建設するという目標を掲げています。

      ハワード・ラトニック商務長官は「この提携は、エネルギー主権を再建し、高給の雇用を創出し、アメリカを原子力ルネッサンスの最前線に導くというトランプ大統領の大胆なビジョンを体現するものだ」と述べています。

      アメリカは2009年以降、原発を建設していません。アメリカで最近稼働した2基の原子炉の建設費は300億ドルを超え、当初計画の140億ドルの2倍以上に。しかし、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー市場のバランスが崩れ、各国政府は供給源の多様化を迫られています。

      これに加えて、リモートクラウドコンピューティングと AI の革命によるデータセンターの増加の結果として、米国では電力消費が加速しました。(出典:RTS外部リンク/フランス語)

        次回の「スイスメディアが報じた米国のニュース」は11月6日配信予定です。

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        英語からのGoogle翻訳:ムートゥ朋子

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