The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録

ガザ危機 国連は和平と人道支援の役割を果たせるのか

荷物を持って南へと移動するパレスチナ避難民
荷物を持って南へと移動するパレスチナ避難民 Keystone

ガザ戦争が始まってから2年。国連は同地域で存在感を示せていない。それでも平和的解決に向けた取り組みを続けている。

おすすめの記事

9月22日、ニューヨークの国連総会開幕に世界の注目が集まった。その日、英国、カナダ、オーストラリア、ポルトガル、フランスを含む11カ国がパレスチナを国家として承認。承認国は加盟193カ国のうち157カ国に達した。

一方、イスラエルはガザ地区に大規模な地上攻撃を展開。新たな犠牲者と避難民を出した。

国連での動きに対し、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナを承認した各国の指導者を「テロリズムに巨大なご褒美を与えた」と非難。「パレスチナ国家は存在しない」と述べた。極右政党出身のイスラエル閣僚2人は、ヨルダン川西岸地区の恒久的併合を呼びかけた。

2023年10月7日、ハマスがイスラエルを攻撃したことで始まった今回のガザ戦争では、数万人に上るパレスチナ人が死亡。約200万人が貧困に追いやられた。国連は同地域での飢饉を公式に宣言し、国連の独立調査委員会は9月初めにイスラエルによるジェノサイド(集団殺害)を認定した。イスラエルはこれらをいずれも否定している。

国連総会は9月12日、イスラエルとパレスチナが独立した二つの主権国家として平和的に共存する「二国家解決」の実現を目指す決議「ニューヨーク宣言」を採択した。宣言はフランスとサウジアラビアが7月に主催した国連会議で策定された。

だが米国とイスラエルの支持がなければ、宣言は単なる象徴的なものに終わる可能性がある。特に、ドナルド・トランプ米大統領が国連を関与させない独自の和平案を提示した今、国連はどんな役割を果たせるのか。

政治的役割

ジュネーブ安全保障政策センター(GCSP)の研究員で元フランス外交官のマルク・フィノー氏はスイスインフォの取材に「米国が一貫してイスラエルを支持し、安保理で拒否権を行使し続ける限り、安保理では何も起きない」と語る。
 
二国家解決の実施に向けた政治的枠組みを定められるのは安保理だけだ。だが常任理事国の拒否権によって安保理は機能不全に陥っている。
それでも国連は二国家解決を推し進めることで、中東における政治的役割を果たし続けているとフィノー氏は指摘する。

ニューヨーク宣言は、スイスを含む加盟142カ国の賛成を得て採択された。「国際法および二国家解決に基づく公正かつ恒久的な平和」を求め、ガザに残る人質全員の解放、ハマスの武装解除、さらには集団的安全保障の保証を呼びかけた。

おすすめの記事
国連

おすすめの記事

国際都市ジュネーブ

中東紛争で存在かすむ国連

このコンテンツが公開されたのは、 世界の平和の番人であるはずの国連は、中東紛争でほとんど役割を果たせていない。多くの外交専門家は、国連抜きの根本解決は実現不可能だとの見解で一致する。

もっと読む 中東紛争で存在かすむ国連

メディアに代わる存在

国連は国際法に則りイスラエル・ハマス双方の監視に関わり続けている。世界保健機関(WHO)、国連児童基金(UNICEF)、パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)、人道問題調整事務所(OCHA)などの機関がガザ地区で活動している。

これらの団体の職員は現地で起きていることを日々報告し、情報を更新している。

イスラエルは国際メディアに対してガザへの独立したアクセスを認めていない。同地区ではパレスチナ人ジャーナリスト約200人が死亡している。過去のどの紛争よりも多い数だ。

このためOCHAのような組織が現地報告も担い、ガザや西岸の状況を毎日発信している。これは世界中のジャーナリストにとって貴重な情報源だ。

「収集された情報の多くは、人道支援アクセスの確保や国際法の尊重を求める働きかけにも使われている」とOCHAのジェンス・ラエルケ報道官は語る。

ガザ地区
ガザではパレスチナ人ジャーナリストが多数犠牲になった Keystone

「OCHAは多くの加盟国と直接連絡を取り合い、そこで国際法の問題はほぼ常に取り上げられている。我々は繰り返し、ハマスやその他の武装組織は人質を即時・無条件で解放しなければならないと強調してきた」

フィノー氏によれば、国連の援助機関は安保理だけでなくメディアにも定期的に状況を伝えることでその政治的役割を果たしている。「それによってドイツのようにイスラエルに対して立場を取るのをためらっていた国々が態度を変えるきっかけになった」

イスラエルが9月初め、「人質解放のためガザを制圧する」と表明した後、ドイツはイスラエルへの軍需品輸出を停止した。

軍事化された支援システムへの批判

ガザでは国連の援助組織が依然として活動を続けており、イスラエルによる制限下で支援物資の配布、インフラ支援、教育を行っている。

しかしイスラエルは5月末、米国の支援を受け「ガザ人道財団(GHF)」を設立した。国連主導の支援体制に代わるシステムだ。

「GHFは、多国間的で人道基準に基づく枠組みを避けるという従来のイスラエルと米国のアプローチに沿っている」とフィノー氏は指摘する。

国際社会はGHFに対し、支援を軍事化し領内の飢餓を悪化させていると批判。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)によれば、5月27日から9月9日の間にGHFの配給拠点で少なくとも2256人が死亡した。

8月初め、国連の専門家らはGHFの解体を求めた。

飢饉と米国支援の和平案

イスラエルは「民間人を意図的に狙った」との疑惑を否定している。

国連は8月22日、「IPC(統合食料安全保障段階分類)」を用いた分析で、ガザ地区北部で飢饉が起きていると宣言した。

「政治的な解決や交渉において、国連の人道支援機関は、自分たちがいなければほとんど何も進まないことを示すことができる」とフィノー氏は話す。

国連総会が開かれた9月末、トランプ氏はトルコやインドネシアなどのアラブ・イスラム諸国代表と会合し、ガザ戦争終結のための計画を提示した。

その計画にはイスラエル人の人質全員の解放、ガザの人道危機対策が盛り込まれた。さらに、戦争前と同水準となる1日600台以上の支援トラックの流入、インフラ修復やがれき撤去も含まれる。

国連は交渉には関与しなかったが、実施段階で役割を担うことになっている。

支援物資の配布は国連や赤新月社など「中立的な国際機関」が独占的に行うこととされた。

記事公開時点で、ハマスはまだこの計画を受け入れていない。イスラエルは9月29日に支持を表明した。

編集: Virginie Mangin/vdv、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

おすすめの記事
ニュースレター ジュネーブ国際会議場

おすすめの記事

国際都市ジュネーブ

国際都市ジュネーブ

国際都市ジュネーブから配信される記事で、世界で何が議論されているのかまとめ読みできます。

もっと読む 国際都市ジュネーブ

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部