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忘れられた戦後史 極右が国際ネットワークを築くまで

ジョルジア・メローニ
2025年9月、スペインの極右政党「ボックス (VOX)」がマドリードで開催した会議に、極右政党「フラテッリ・デ・イタリア」のジョルジア・メローニ・イタリア首相がビデオで接続している。 EPA/J.J. Guillen

歴史学者たちの間で、戦後極右主義が脚光を浴びている。洋の東西を問わず極右勢力が台頭する今、彼らがどのように国際ネットワークを築いたのか、その中でスイスがどんな役割を果たしたのか、といった論点の研究が進む。

スイス西部フリブール出身の文筆家ゴンザーグ・ドゥ・レイノルド(1880~1970年)は異色の人物だった。イタリアの独裁者ベニート・ムッソリーニを説得し、ファシズムにカトリック色を加えさせようとした。

敬虔なカトリック教徒だったドゥ・レイノルドは、キリスト教の教えに基づかない民主主義は「必然的に最も非人道的な」政治形態になると信じていた。伝記によると、ポルトガルの独裁者サラザールの「盲目的な崇拝者」であり、ヨーロッパが「ポルトガル化」することを望んでいた。

民主党と反民主党の狭間で

こうした活動と並行して、ドゥ・レイノルドは1930 年代にスイスの「精神的国土防衛」を確立した。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の前身「国際知的協力委員会」に勤め、スイス政府要員に助言した。

ゴンザグ・ド・レイノルド・ガーテン
ゴンザーグ・ドゥ・レイノルは作家であり歴史家だった。写真は1940年3月、妻のマリー・ルイーズ・ドゥ・レイノルドと共に、フリブール州クレシエにある邸宅の庭を散歩するゴンザーグ Photopress-Archiv / Str

今日、ドゥ・レイノルドはスイスで忘れられた存在となった。だが今でドゥ・レイノルドに思いを馳せる者はいて、右派保守がその代表だ。フランス語圏を拠点とする極右団体「ファイト・クラブ」もドゥ・レイノルドの言葉を引用し、フランスのカトリック系ニュースブログはドゥ・レイノルドをスイスの「反革命家」と持ち上げた。

第二次世界大戦後のドゥ・レイノルドの活動を、フリブール大学の歴史家ダミール・スケンデロヴィッチ氏は「政治的な橋渡し役」と評する。そして1970年に亡くなるまで著名人であり続けた。

スケンデロヴィッチ氏はドゥ・レイノルトがアンビバレント(背反的)な人間だったととらえる。第二次世界大戦後もスイスで評判を落とすことなく権威主義と民主主義をつなぐことに成功した好例だという。同氏によると、それは1945年直後、他の欧州民主主義国の多くでは難しいことだった。

歴史学の盲点

スケンデロヴィッチ氏は30年間、反動主義と極右運動を研究してきた。これをテーマとする研究者は多くはない。「スイスに限らず、歴史学は1945年以降の極右主義をほとんど研究してこなかった」。ドイツの歴史家たちがこのことに気づいたのは、2018年のドイツ歴史家会議でのことだったという。この会議では極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を念頭に、右翼ポピュリスト(大衆迎合)運動が民主主義に及ぼす脅威に反対する決議を採択したが、「そこで、現代史はどこにあるのか?見過ごしてきたのか?という自問が湧いた」。スケンデロヴィッチ氏は、歴史学がこの問題をあまりにも長い間無視してきたと考えている。

対照的に、政治学や社会学の世界では長年にわたり、過激派と極右が広範に研究されてきた。

欧州発祥を自認

国家主義者たちはどのようにして国際的な結びつきを深めてきたのか――極右政治家が国際的な友好関係を築き、欧州議会で複数の極右団体が活動している今、この問いはとりわけ重みを増す。イタリアの政治学者マヌエラ・カイアーニ氏は論文で、「今日の右翼活動家・運動もまた、欧州発祥であると肯定的に自認していることに注目すべきだ」と指摘。西ヨーロッパの極右政党は1980年代半ばから連携を試みるようになり、その成功率はどんどん上がっていると分析した。

カイアーニ氏は論文の序文で、イタリアのジョルジャ・メローニ首相がスペインの極右政党「ボックス(VOX)」の選挙運動で述べた言葉を引用した。「あなたたちの勝利はヨーロッパ全体に勢いを与えるだろう」

歴史学は巻き返しが必要だ。スケンデロヴィッチ氏は「長い間、多くの歴史家は何より1945年を転換点と捉え、他の事柄に関心を寄せてきた」と話す。このために研究されずにいる論点は多いという。例えば、右翼過激派の思想が古い世代から若い世代へどのように受け継がれたかといった点だ。

今秋、スケンデロヴィッチ氏は今秋、ドゥ・レイノルドの母校でもあるフリブール大学で「国境を超える極右外部リンク」と題する現代史学会を主催した。ヨーロッパ各地の歴史家たちが集まり、それぞれが研究する1945年以降の極右の歴史の接点を探った。

右翼過激主義における中立国の役割

その中で、スイスやスウェーデンといった中立国は重要な役割を果たした。フランスの歴史家ヴァレリー・ドゥブスラフ氏はフリブールの学会で、これらの国では1945年以降も「ナチスへの関与」をたやすく継続できた。その好例が1951年のマルメ会議で、ネオナチの国際組織である「欧州社会運動(ESB)」の母体となった。

スイス人のガストン・アルマン・アモードゥルズもESBに加わり、欧州全土の市民に向け「大陸通信」を刊行した。

ESBは規模こそ小さかったものの、その構造はフリブールの学会で大きな注目を浴びた。EUの前身「欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)」が設立される前から「欧州委員会」と呼ばれる会議体を設立していたのだ。ESBは汎欧州主義と反共産主義を強調し、北大西洋条約機構(NATO)に代わる連邦制としてのヨーロッパという構想を提唱した。

アモードゥリュズらはやがてESBから分裂し、さらに過激な集団を形成した。ESBは急速に存在感を弱めたが、国際的な繋がりは残った。汎アラブ主義の指導者ガマール・アブドゥル・ナーセルは、ESBの活動家でドイツ人ナチス党員だったカール・ハインツ・プリースターを仲間に入れた。

ホロコースト否定論者も保護

スイスは、ホロコースト否定論者のアモードゥルズのような人々にも法的枠組みを提供した。1995年に刑法で人種差別が違法化されるまで、ホロコースト否定論を禁じる法律はなかった。そのため、ナチスが600万人のユダヤ人を虐殺したことを否定する書籍は、スイス経由で出版されることがよくあった。アモードゥルズも自作パンフレットを国外に発送した。

ガストン=アルマン・アモードゥルーズ
約半世紀にわたり反ユダヤ主義思想を広め、ホロコーストを否定する本を出版したことで有罪判決を受けたガストン・アルマン・アモードゥルズ(1920-2018) KEYSTONE/Laurent Gillieron

1950年代~1990年代にかけてヨーロッパで活動したホロコースト否定論者たちは、雑誌の読者数百人~数千人にしかリーチがなかった。その国際的な人脈も大衆を動かす力はなかった。

だがスケンデロヴィッチ氏は、1945年以降ファシストやその他の極右思想がどのようにして再び根付くことができたのかを理解するうえで、そうした動きも重要なパズルのピースであると考える。

他のピースは「亡命」と「ディアスポラ(離散)」だ。ヌーシャテルの学会で、ルーマニアの歴史学者マヌエル・ミラノーは大戦後にイタリアで財を築いた起業家、ヨシフ・ドラガンをその代表例に挙げた。

スケンデロヴィッチ氏は、大戦後の右翼過激派のネットワーク形成にディアスポラがどのような役割を果たしたか、さらなる研究が必要だとみる。

反フェミニズムで結束

スケンデロヴィッチ氏によると、近年、多くの若い歴史家が1945年以降の右翼過激主義を研究し始めている。長らく、このテーマは主に男性によって研究され、「それが研究バイアスを招いていた」という。今日では、多くの女性が国際的な右翼運動における反フェミニズムや中絶反対の国際的な連続性を研究している。こうした問題が過激派や極右の国際的同盟にとっていかに重要であるかは、徐々に解明されつつある、とスケンデロヴィッチ氏は指摘する。

ナショナリストたちが国境を超えて団結すると、多くの物事が分断を強いられる。彼らを結びつけるのは、女性に対する家父長的な見方に加え、ヨーロッパ外からの移民と独特のアイデンティティ感覚だ。スケンデロヴィッチ氏は、「極右とナショナリストが国境を越えた連帯を築くことができたのは、ヨーロッパを文化的西洋として確立することができたからだ。アモードゥルズのような公然たる人種差別主義者の臨んだ通りにはならなかった」と解説する。こうした考え方が1950年代以降のヨーロッパ統合の歴史にどの程度影響を与えてきたかについて、現在研究が進んでいる。

欧州統合の極右思想?

極右思想は、欧州統合の歴史にどのくらいに影響を与えてきたのか――スケンデロヴィッチ氏はこう問いかける。「1950年代の欧州統合過程では植民地主義が大きな役割を果たした、という研究もこの10年で行われてきた。統一された欧州こそ、アフリカにおける植民地支配力を再び強化できるとの考えがあった」

ドゥ・レイノルトの時代から、極右は国際感覚を持ち、スイスに「祖国であるヨーロッパ」という理念を育んだ。バーゼル大の歴史家アラム・マッティオリ氏が研究したように、ドゥ・レイノルドの理想は神聖ローマ帝国とドイツ民族、そしてローマ帝国だった。2025年の極右のなかにも、これらをロールモデルとする人がいる。

編集:David Eugster、独語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:宇田薫

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