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炭ブームの仕掛け人はアーティスト


里信邦子 ( さとのぶ くにこ)


「創作はエネルギー源」と松下さん (swissinfo.ch)

「創作はエネルギー源」と松下さん

(swissinfo.ch)

部屋の空気浄化や冷蔵庫の脱臭、繊維の中やシャンプーなど、ここ10年、日本の生活の隅々にまで浸透した木炭や竹炭。このブームの仕掛け人、松下康平さん ( 38歳 ) にスイスで会った。

もともと環境問題に関心が強く、大学での研究テーマは「炭による地質改良」。これがきっかけで炭にのめり込み、ビジネスやアートにまで展開させた。ヴォー州サン・シュルピス ( St. Sulpice ) での個展では、さまざまな質感の炭を組み合わせた抽象的な彫刻や絵が並ぶ。こうした多岐にわたる活動について聞いた。

炭は微生物のマンション

 「確かに、現代生活への炭の再導入に貢献した」と松下さんは振り返る。メディアや販売メーカーなどに炭の効用を訴え、炭旋風を巻き起こした。

 高校生の頃から環境問題に人生を掛けると決めていた松下さんは、当時唯一環境問題が学べる明治大学農学部農学専修科に入学。生ゴミを燃やして炭化させ、それを土に埋めると地質がどう変わるかを研究しようと、テーマを「土壌菌に与える炭の影響」に決めた。

 炭の中に沢山空いた細孔が「微生物のマンション」のような役を果たし、そこに入り込んだ土壌菌で土が活性化することを証明したかった。こんな発想を当時する人も先生もおらず大学でも独学。

 証明のための実験データには同質の炭を使う必要があった。ところが入手した炭がすべて異なることに驚いた。「なぜか、炭は黒くて全て同じだという固定観念に捕らわれていた」。それなら自分で同質の炭を焼くしかない。こうして日本各地での炭焼き研究が始まり、同時に炭焼き釜も自分で製作して炭を焼き始めた。この炭焼き釜は、次いで大型化した「炭化装置」となって製造され、父親が装置の製造を担当するようになる。

 「大学生の後半は、同時に三つのこと、炭化装置の製造販売、土壌の研究、そして炭を使ってのアートをやっていた」
 と言う。

環境ベンチャー企業のベスト30

 1994年、研究論文は無事受領され卒業。東京が本社の炭化装置の製造販売会社「ゼロエミッション・ホールディングス ( Zero Emission HOLDINGS ) 」も軌道に乗り始めた。

 なぜ「ゼロエミッション」かというと、もともと植物が空気中から吸収した二酸化炭素 ( CO2 ) が、植物の炭化によりその一部が固定化されるためCO2排出量がまず削減される。さらに、現在開発中の火力発電では炭を石炭の代わりに使うが、これは植物に吸収された空気中のCO2がそのまま同量空気中に戻っていき、単なる循環でCO2増加に繋がらないという考えからきている。

 現在中型ボイラーの設計依頼や小型バイオマス発電システムの製造依頼が中国などアジア諸国や欧米からも来ており、世界中で注目されているという。では日本では有名人か?との問いに「環境ビジネス界で多少有名なだけ」と謙虚な答えが返ってきた。確かに、この分野では名が通っており、経済産業省が推薦する環境ベンチャー企業のベスト30にも選ばれたという。
 
 20人ほどの従業員を抱える会社は、炭化装置などのアイデアを出す研究所のようなもので、機械の製造は外注。実際松下さんはアイデアマンで次々に発想が浮かぶらしく、例えば炭を使った竹炭マドラーは彼が考えたものだが、ある会社にアイデアだけ取られてしまったという。

創作はエネルギー源

 ところで、今回の個展だが、なぜビジネスだけでなくアートの世界に入ったのか。またそれは松下さんにとってどういう意味があるのだろうか。

 「炭を自分で焼いていく段階で、炭の質感が面白いと思った。またその多様性にも魅了された。これで何かできないかと思った」のがきっかけだ。
 
 炭には脱臭効果がある上、視覚的にも癒しが感じられる。そこで、炭を使った空間演出から入った。レストランの壁に炭を使ったりするうち、建築家とのコラボが始まり、建物の通路、トイレなどの壁の塗料に炭を使った。ホテルの部屋がすべて黒尽くしというのもあった。

 そんな中、ギャラリーからも声がかかり、アート作品を作るようになった。今回の展示の一つに炭を日本絵具に溶いたものを厚くキャンバスに塗り、五行説の「木、火、土、金、水」のイメージを表現した抽象的な作品があり、観る者を深い質感の中に引きこむ。
 「CO2が植物に吸収され、炭化されまた空気中に排出される循環というイメージと五つの要素がリンクして巡り巡る哲学は似ていると感じた」
 とその製作の意図を話す。
 
 また、一辺が5、6センチメートルの正方形の木炭の炭片が900個組み合わさって大きな正方形の「絵」になった作品がある。それらは20種類の色、質感が異なる炭片で、角度によって反射する光も違う。これも「黒」の多様性がリズムを作るすっきりとした抽象作品になっている。
 「炭片はわざとすべ同じ正方形にして、日本のような統制された社会を象徴した。しかし、これら炭片は一見似ているようでも全て違うように、人間も一人一人個性があるということを表したかった」
 という。こうした発想からか、松下さんは社会派アーティストと呼ばれるのだという。

 さらに
「ぼくが今回こうしてスイスで展覧会をやれば、数人でも環境や平和を考えるアートを作りたいと思うようになるかもしれない。パリでも展示を行うが、そうした1回ごとの展覧会が点で、その点と点が繋がりいつかは線にやがて面になり地球を覆うかもしれない」
 と話す。
 
 将来は、こうした一点の美術作品ではなく、空間演出的なアートに戻りたいと考えている。また、睡眠時間が足りなくても、ビジネスと共にアートは必ず続けて行くつもりだ。なぜなら「創作することが( ビジネスを含め、全ての活動の) エネルギー源になるからだ」という。

松下康平さん略歴

1972年、富山県小矢部市に生まれる。
1990年から炭の生産を始める。
1994年明治大学農学部農学専修科卒。
1996年から炭を使った美術作品を製作。
2003~2004年、ホテルやレストラン、商店などの内装を炭を使って行う。
2005年、愛知万博での炭の国際シンポジウムで炭の空間を演出。
2007年、フランスのぺルピニョン ( Perpignon ) の「国際造形サロン ( SIPPE )」で金賞を受賞。
そのほか、東京、京都、ニューヨークなどのギャラリーで多くの展覧会を行っている。
現在、炭化装置の製造販売会社「ゼロエミッション・ホールディングス ( Zero Emission HOLDINGS ) 」の社長。ギャラリーも経営する。

今回スイスでは、ヴォー州サン・シュルピス ( St. Sulpice ) の「オーベルジュ・コミュナル ( Auberge Communale ) 」で11月12日から21日まで個展を開いている。( ローザンヌまたはルナン ( Renens ) からメトロM1 でブルドネット ( Bourdnnette ) 下車。バス30番でオーベルジュ・コミュナル下車。

swissinfo.ch



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