
世界の読者が語るスイス移住体験談

スイスの移民たちは総じてここでの生活の質やキャリアの機会が優れていると考えている。しかしその一方で社会統合などの面で不満や落胆を感じることも。彼らが自身の経験を語った。

おすすめの記事
「スイスのメディアが報じた日本のニュース」ニュースレター登録
移民はスイス人口の約3分の1を占める。これは世界でも高い割合だ。2024年には19万人がスイスに移入した。一方で、スイスを離れたのは9万5000人超に上った。
>>スイスに移住する人々の大部分は、永遠にとどまるわけではない

おすすめの記事
移民の国スイス 永住者は少数派
異国スイスの暮らしはどうか?移民はスイスをどう見ているのか? それを知るため、スイスインフォは2025年4月、この国に移入してきた人々に意見を募った。
これまでに寄せられた回答は60件以上。それらが移民全体を代表するものとまでは言えないが、寄せられた回答からは、「よそ者」がスイスの強みと弱みをどう見ているかが垣間見える。また、移住が一筋縄ではいかないこともよくわかる。
住環境には満足
ヌーシャテル大学のスイス移民研究センター(NCCR)プロジェクト「オン・ザ・ムーブ」が定期的に実施する「移動―モビリティ調査外部リンク」によると、移民の圧倒的多数は、スイス移住の決断に満足している、あるいはとても満足している、と答えた。一方で、スイスインフォに寄せられた回答では、肯定的な意見と批判的な意見が半々に分かれた。わずかだがとても批判的な意見もあった。
回答者の多くは、最も批判的な人を含めても、スイスは生活環境が優れているという意見だった。例えば公共サービスのほか、特に安全や組織については出身国よりも優れているという見方が多い。
読者の一人、スロベニア出身のSlochさんは「IT業界で働くために来た」という。「手続きは非常にスムーズだし、無駄なお役所仕事もなかった。人々は礼儀正しく、何もかも清潔で、インフラは良く、公共サービスは素晴らしい、数えればきりがない」
「何よりも私はスイスの風景と、全てがうまく機能しているということが好き」。そう投稿したのは、スイス在住歴35年のフランス人Cocopommeさんだ。「ごく例外を除いて、ここの人は信用できるし、全てのものの質は良い。安全だと感じる」
活発な労働市場と高い給与により、スイスは「なんでも叶う希望の国」に見えることがある。ポルトガル出身のPignat P.さんがそうだった。11年前に「無資格」でスイスに来て、今では「医療分野で資格を持っている」。
「スイスは私に未来を与えた。母国では想像のつかない生活水準をここでは謳歌している」
しかし彼女は他の人々と同様、それが平坦な道のりではなかったと付け加える。言語は労働市場に入る主な障害の一つだ。スイスでは英語だけではほぼ通用しない。少なくとも一つの国語(ドイツ語、フランス語、イタリア語)を習得する必要がある。
これがドイツ、フランス、イタリアなど隣国の国民が移民の多数を占める理由の一つでもある。
「私はドイツ語の集中習得コースを受講しているが、上達には時間がかかっている」と2022年にアフガニスタンからスイスに来た医師ムハンマド・アユブ・アユビさんは言う。医師として18年のキャリアを持つが「同じ業界で仕事を見つけるのは難しい」。
アユビさんは、スイスは国として有資格の外国人労働者の受け入れをもっとうまくできるのではないかという。そのために有用なのが国際資格の承認を容易にすることだが、ガーナ生まれ、スイス在住歴25年のAmaswissさんは、出身国で取得した資格がスイスで認められないという問題に直面した。「すべてを最初からやり直さなければならなかった」
子持ち世帯への乏しいサポート
2人はまた、スイスの家族政策が乏しいと強く批判する。仕事と家庭生活の両立を困難にし、特に女性を不利にしていると非難する。
リトアニア出身のPineTreeさん(37)は「現行の制度は働く親を支援しない、特に母親は100%働きながら他のすべてを同時にこなさなければならない」と不満をぶつける。自身も幼い子を持ち「家族がそばにいないとフルタイムで働くのは非常に難しい」。2017年に移住してきたが、この夏に国を去る予定だと話す。
Diana Nさんも同意見だ。「多くの子持ち女性(少なくとも外国人)は働きたいし、母親でもありたい。しかし残念ながらスイスでは非常に裕福でフルタイムのベビーシッターを雇うか(高額な)託児所の費用を払えるのでなければ、とても難しい」と言う。「スイスは託児所を利用可能にし、女性が子どもをそこに預けても罪悪感を抱かずに済むようにすべきだ」

おすすめの記事
ご飯の支度はお母さん スイスで家事分担が公平にならないのはなぜ?
困難な社会統合
スイスでの生活において、最も頻繁に挙げられる欠点の一つは社会関係を築く困難さだ。
一部の読者は、居心地の良さを感じることができない、あるいは社会に受け入れられていると感じられなかったと明かす。イギリス出身のPaul Sさんがそうだ。自身と妻が永住を計画していない主な理由は「コミュニティの一員になるのが難しい」と感じるからだという。
カナダ人のRss1さんは1971年に外交官としてスイスに来た。「最初はこの国に魅了された」が、その後「希望を打ち砕かれた」。 「50年スイス人を理解しようと試みた後、ある結論に達した。国には壮大な風景があるが、その文化は世界に合わせることはしない」
人種差別を経験したという投稿者もいた。Eric Thee Greatさんは「アメリカ出身の黒人男性」で、「受動的・攻撃的な人種差別と排斥」のほか、公務員のような特定の職業に有色人種が含まれないことを非難する。
Dave 456さんは、自分の名前と肌の色が原因で、就職差別を受けたという。「もしあなたが白人で、キリスト教徒で、似た文化を持ち、ドイツかフランスの出身なら、スイスで仕事を見つけるのは容易だろう。もしあなたが非ヨーロッパ風の名前を持ち、肌が有色なら、非常に難しいだろう」。しかし、それでもスイスにいることを幸せだと感じているという。
スイス人になることへの誇り
複数の読者は、自分は社会に溶け込み、スイス文化と価値を受け入れる努力も続けてきたと強調する。例えばスロベニア出身のSlochさんは「私はドイツ語のバイリンガルなので、それが社会統合に大きな役割を果たしたとは思う。でも私は地元の習慣にも合わせるようにしてきた。外国人である以上、自分はよそものであることを肝に銘じ、受け入れ国を尊重すべきだ」
ポルトガル出身で40年以上スイスに住むJoão Zuzarte de S. Graça さんは「簡単ではない。スイスには世界でも類を見ない独自の文化があり、時には少しカタブツだからだ。しかし社会に溶け込めないと言っているのは、スイス社会を理解できない、あるいは理解したくない人だけだ」
「統合を望む移民として、あなたは常に独りぼっちだ。言い換えれば、あなたは常にスイス人のグループの中で移民であり続ける」とKmarさんは言う。「社会統合には継続的な努力が必要だが、時間と忍耐を持てば、それは必ずやりとげる価値がある」
多くは市民権(国籍取得)を自らの努力の報酬と見なす。「私はようやくスイス国籍を取得すると決めた。それを非常に誇りに思っている」とJoão Zuzarte de S. Graça さんは言う。カナダ出身のVMCさんは「多くの努力を経てスイス国籍を得た。非常に誇りに思う。私はここでの生活に非常に感謝しており、スイスを『故郷』と呼べることを幸運だと思う」と感じている。
帰化は社会統合の成功と結びつく。だからこそ、取得プロセスが困難なことを「自分が受け入れられていない」と感じる人がいるのかもしれない。3歳の時にスイスに来て以来37年間ここに住むスペイン出身のBDAMさんはそう感じている。
「私はスイスのフランス語圏で学校教育を終えた。それにもかかわらずスイス国籍を得るのに複雑な行政手続きが必要で、多額のお金を払わなければならないと言われる」と説明する。「正直に言ってショックだ。スイスが私たちをここに留めたいという印象はあまり受けない」
どう感じるかは人それぞれ
これらの体験談は、移住の経験はそれぞれ異なり、多くの場合両義的であることを示している。成功か失敗かは、個人の状況、出身地(またはその場所についての見解)、定住場所、そこに費やした時間、そして感情など、多くの要因に左右される。
2022年末にスイス人の妻と移住したアメリカ人JoStoUSAさんの言葉が、それをうまくまとめている。「移住は新しい国に対する非常に肯定的な見方と、もといた国への厳しい批判を伴うと警告されていた。しかし時間がたつと、それは逆になることが多い」と説明する。「私は利点と欠点を持つ素晴らしい祖国を去り、利点と欠点を持つ新しい国を見つけた。私はネガティブな要素の存在を否定しない。だが肯定的なことに焦点を合わせることを選ぶ」
編集:Samuel Jaberg/ds、英語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。