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武器は自宅に保管する スイスの兵士

定期的な兵役が終わったら、ライフルは家に持ち帰るのがスイス兵の常識。 Keystone

国民皆兵のスイスでは、成人男性には兵役の義務が課せられている。軍服、軍靴のほかライフル、手りゅう弾などが20歳になると配給され、その扱い方などは兵学校で学ぶ。兵役が「オフ」の時でもこうした武器を自宅に保管するのが一般的である。また、退役してもライフルは個人の物として無料で貰えるのがスイスである。

一方、事故にもつながることもあり、武器を自宅に保管することに対する疑問の声も上がっている。基本的には自宅に保管する制度は変らないが、退役者については所有する条件が厳しくなった。

スイスを訪れる外国人にとって、スイス兵がライフルを持って歩いているのを見かけることは、一種の驚きであろう。電車の中、コーヒーショップなど普段の生活の中にスイス兵は溶け込んでいる。一般に二等兵が持たされる武器はライフルと手りゅう弾だが、兵役がオフの時には、こうした武器が家庭の倉庫や洋服ダンスに保管されている。全国で見れば、何万個の武器が「無防備」に保管されていることは想像に難くない。現役の兵士はもちろん、退役した人でも希望すれば武器を家に持つことができる。
悪用による事故の発生が指摘され、軍隊の節約政策もあいまって、武器を自宅に保管する条件がこのほど、厳しくなった。

歴史から見る国民と武器の関係

 武器を自宅に保管する習慣には長い歴史があり、スイスの創立期からの伝統である。ベルン州立大学のペーター・フク歴史学教授によるとスイスの防衛は19世紀から一部20世紀初頭まで、国民各自、自前の武器を所持することが義務付けられていた。武器を購入するため、家計が圧迫されるということもあった。
 武器とスイス人の生活史は深い関係がある。18世紀には結婚の許可を望むスイス男性には、まず軍服と武器の所有が義務付けられていたという。野外に集まって行われる市民議会(ランツゲマインデ)では、剣が投票権を証明した。現在でもアッペンツェル・インナーローデンのランツゲマインデに参加する男性が剣を片手に広場に集まるのを見ることができる。
 「1888年代になって、スイスが一つの国家として防衛を考えるようになった時初めて、スイスの兵隊は自腹を切ることなく、武器が支給された」と同教授は説明する。
 ライフルがあっても弾薬がなければ、実戦には役立たない。1891年には、連邦武器管理局が弾薬も兵士に配分するよう決めた。召集があった際歩兵は、自宅から直接戦地に向かうことが想定されたからである。ちなみに、現在でも緊急事態が発生すると、3日間のうちに対応が完結するよう、体制が整っている。

不正使用による事件

 平時に兵隊がライフルを担いで街を歩いている見ることはあるが、家の庭に入った不法侵入者にライフルを向けて発砲するといったことはない。しかし、2000年7月に極右の男3人が左翼の集会所で乱射した事件。同年11月にはマリワナの取引をしていた男性が自殺した事件など、軍隊から支給された武器による事件が発生することもある。
 射撃協会に代表されるような自宅保管を支持する意見は、武器による事故は例外的なもので、自動車事故による死亡件数と比較しても武器による事故件数は少ないにもかかわらず、自動車運転を禁止する動きはないと主張する。
 一方、自宅保管に反対する犯罪学者のマルティン・キラス氏は、3年前に起こったツーク州議会に押し入った男による議員14人の無差別殺戮事件の例を挙げ、「犯行に使われたのはスイス軍隊のライフルだった」と指摘する。

批判もあるがいまのところ自宅保管が続く

 大事件に悪用される可能性のある武器だが、いまのところ自宅保管が続いている。兵学校で無料で配分された武器は、兵役が義務付けられている年代のスイス人はもとより、退役した人でも望めば自宅に保管できる。
 しかし、軍隊も節約を強いられており、これまでどおりの無料配分は止めることにした。武器はすべて軍隊の所有と法律が改正された。新型の「ライフル90型」で訓練を受けた兵士については、彼らが退役する時代になれば、ライフルを「借りる」という形でしか自宅に持ち帰ることができないようになった。しかも、今後は、自宅に所有したい人は全員、過去3年間のうち、最低2回射撃訓練を受けたという証明が必要になる。

スイス国際放送 ウルス・マウラー (佐藤夕美 (さとうゆうみ)意訳)

ライフル57型で訓練を受けた国民は、退役後は自分の物として自宅に武器を保管できる。
ライフル90型は軍隊の所有物。新型ライフルで訓練を受けた兵士でも、57型なら自分の物として無料配給を受けることができる。90型は借りることができる。
いずれも、自宅に武器を所有したい退役兵は、過去3年に2度射撃訓練をしたという証明がなければならない。

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