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岸田退陣、憲法改正、EV…スイスのメディアが報じた日本のニュース

記者会見する岸田文雄首相
岸田文雄首相は14日に記者会見を開き、9月の自民党総裁選に出馬しない方針を表明した EPA/PHILIP FONG / POOL

スイスの主要報道機関が先週(8月12日〜18日)伝えた日本関連のニュースから、①岸田首相が退陣表明②平和憲法改正の機運高まる③日本にEVが少ないのはなぜ?の3件を要約して紹介します。

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岸田首相が退陣表明

岸田文雄首相は14日、9月の自民党総裁選に立候補しない意向を表明しました。実質的な退陣表明となり、スイスでもドイツ語・フランス語・イタリア語の各言語圏で大きく報じられました。

特に詳しく報じられたのはドイツ語圏です。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は、退陣の理由として裏金問題に加え、インフレ対応への失敗を挙げました。東京在住のフリージャーナリスト、マルティン・フリッツ記者はSRFに「岸田首相がインフレ対策に十分な努力をしなかったため、日本人は特に不満を抱いていた」と話しました。一方、岸田氏の遺産として「日本の平和主義外交・安保政策からの決別」を挙げ、この政策転換は「日本の政治家や国民の間で幅広い支持を得ている」と解説しました。

ドイツ語圏の大手紙NZZのマルティン・ケリング東京特派員も、元外務・防衛相経験者の岸田氏が「外交の舞台では輝かしい活躍を見せた」と評価。首相就任当初は高い人気を誇ったものの、2022年7月の安倍晋三元首相暗殺の捜査で「統一教会と多くの自民党政治家との密接な関係が明らかになり、これが岸田氏の人気低下の始まりとなった」と解説しました。

別のドイツ語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガーは南ドイツ新聞のトーマス・ハーン東京特派員の解説記事外部リンクを転載。NZZと同じく安倍氏暗殺にも遡りましたが、岸田氏が裏金問題で安倍派議員を処罰したことで「国粋主義者らの怒りを買い、党を導くことができなくなった」のが決定打になったと解説しました。「自民党権力者の多くは安倍時代に戻ることを望んでいた。だから岸田氏は党内で支持されなくなった」

同紙は19日に総裁選への立候補を表明した小林鷹之氏について、「党幹部が彼を有用な操り人形として担ぎ出したのではないかという疑惑がある」と評しています。

フランス語圏では公共放送(RTS)や日刊紙ル・タンが仏AFP通信の記事を転載しました。その岸田評は「父や祖父と同様、説得力はあるがカリスマ性を欠くなかで、合意の精神を培ってきた」というもの。自民党の少数派閥だけを率いていた同氏は「安倍氏が支配する超国家主義的な勢力に常に迎合しなければならなかった」とも伝えました。

イタリア語圏では裏金問題が退陣理由になったことをシンプルに伝える記事が目立ちました。(出典:SRF外部リンクNZZ外部リンクターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語、RTS外部リンク/フランス語)

平和憲法改正の機運高まる

岸田首相は退任を表明する前の7日、自民党本部での会合で、自衛隊を憲法に明記するべく論点整理を進めるよう指示。9月の党総裁選でも争点に据える意欲を示していました。NZZのケリング記者は、憲法改正議論が「日本の近隣諸国との関係に影響を及ぼす可能性もある」とする解説記事を執筆しました。

記事では、ドイツと比較しながら戦後憲法の役割を説きました。憲法第9条が戦争放棄を謳ったことで、「日本はドイツよりもさらに確実な武装解除が行われた」と指摘。冷戦期には両国とも再軍備が進んだものの、日本は憲法を尊重して純粋な防衛に限り、攻撃された同盟国を軍事支援する「集団的自衛権」さえも長い間放棄してきたと説明します。

ただし米国からの圧力や中国・ロシア・北朝鮮の脅威により、「徐々に変化が訪れている」と続けます。自衛隊を本格的な軍隊へと拡大するうえで障害となっている憲法9条を改正する必要がありますが、「唯一の問題はその方法だ」。自民党は自衛隊の憲法明記を主張していますが、左派勢力はこれに反対。さらに踏み込んだ案としては、戦争放棄の削除があると言います。

そうなれば日本は同盟国に軍事支援も提供できることになります。記事は「日本の保守勢力が新たな軍国主義の構築を目指しているのではないかという近隣諸国の懸念を引き起こしている」と指摘しました。

ケリング記者は憲法改正が国会や国民投票で可決されるのは「ハードルが高い」とする一方、議論が進む余地はあるとみているようです。上智大学の中野晃一教授(政治学)は、野党との交渉を顧みなかった安倍晋三元首相が暗殺されたことで、「(改正強行に対する)他党の懸念は減るかもしれない」とコメントしました。(出典:NZZ外部リンク/ドイツ語)

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日本にEVが少ないのはなぜ?

「日本はテクノロジーを象徴する国だが、電気自動車(EV)に関してはまだ後れを取っている」。オンラインニュースサイトbluewin.chドイツ語版に、スイス・ドイツ語圏の交通系ウェブマガジン「Go!」編集部の現地ルポが掲載されました。

記事によると、スイスは新車販売台数の約2割がEVとなっていますが、日本ではわずか2%。取材陣が1日かけて渋谷一帯を徹底調査したところ、EVの充電ステーションをたった1基しか見つけられませんでした。そのステーションも、日本の電圧が100Vと弱いため、「欧州の同等品に比べはるかに時間がかかる」と言います。

トヨタ、日産、ホンダといった主要自動車メーカーが「依然としてガソリン車に忠実」であることも指摘しました。価格が安く税・通行料・駐車料などで優遇される軽自動車の人気も一因であるとします。

政府の姿勢もスイスとは対照的です。ルノー・ジャポンの経営企画責任者フレデリック・ブーレーヌ氏は、日本政府が「国内の自動車メーカーがEV開発にどれだけ意欲があるか、様子見している」のに対し、スイス政府は金銭的インセンティブや充電ステーションなどインフラ整備を強力に推進していることがEV普及の差に表れていると解説しました。

一方、記事は日本を貶めるばかりではありません。「軽自動車の成功は、交通による環境負荷の軽減にはEV以外の手段もあることを示している」と評価。「欧州の都市は日本の経験から学び、独自の排出目標を達成するために同様のモデルを検討することができるだろう」と結びました。(出典:bluewin.ch外部リンク/ドイツ語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイス鉄道、国外へ乗り入れせず」(記事/日本語)でした。他に「チューリヒ動物園、49歳のアジアゾウを安楽死」(記事/日本語)、「雷雨により人気観光地で鉄道運休」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は8月26日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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