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写真表現の対立に焦点を当てる

「プールにて」、グレテ・ヒュバッハー作、1932年、くっきりとした波の形と人物も胴体だけ写した「近代的手法派」の代表的作品

赤ちゃんの手の表情を大写しにしたり、まつ毛の一本一本が分かるほどに顔をアップにしたりする撮影方法は、1930年代のスイスでは非常に斬新なものだった。

一方、これとは正反対の絵画の手法をそのまま写真に移し変えた写真表現もあった。輪郭線を故意にぼかし修正も加えた、いわば「写真館の写真」に近いものだった。現代に通じる、このまったく異なる2つの表現方法に光を当てた「1930年代のスイスの写真展」がスイス国立博物館のシャトー・ド・プランジャン支部( Château de Prangins ) で開催されている。

対立する表現

 「この写真展の素晴らしさは、同時に展示することなど決してあり得なかった2つの対立する表現グループを、初めて一堂に展示したことだ」
 と館長のニコル・ミンデール氏は語る。この2つとは「アカデミックな絵画的手法派」と「近代的手法派」だ。
 
 アカデミックな絵画的手法派は、絵を写真に移し変えた「いわば木炭のデッサンやエッチングに近い」表現方法を使う。主題も、風景、静物、人物、裸体などに限られている。

 わざと焦点をぼかし「印象派の絵のような」風景写真や、完璧なポロポーションになるよう一部を修正し、ロマンチックに仕上げられた裸体写真がその代表だ。また、ネガに手を加える、プリントを修正する、色のついた印画紙を使うなど、理想の形を作り出すために、まるで絵を描くように色々な技術を駆使する。
 
 一方の近代的手法派は、対象にできるだけ近づき、しばしば斜め上から「対象の中に飛び込むように」接写する。光もまばゆいほどにふんだんに使い対象をくっきりと浮かびあがらせる。
「このコーヒーカップの写真は、素材感まで写し取られていて、カチンとカップが触れ合う音まで聞こえてきそうだ」
 とミンデール氏。

 主題も前者とは対象的だ。メガネ、自動車、コンクリート、布、工場の建物など、社会が変わりつつあることを敏感に感じ取った写真家たちは、身の回りの物に目を向け、その素材感も含めて写し撮っていった。また、こうしたドキュメンタリー的手法のお陰で、これらの写真は第1次大戦と第2次大戦に挟まれた時代の変化、スイスの1930年代の生活を現代にまで伝えてくれる。

 結論として、
 「両者の対立を典型的に示すのは水をテーマにしたこの2枚の写真」とミンデール氏が示したのは、雨の中を歩く人の写真と湖畔に並ぶ水着姿の人物の写真。前者は全体がぼかしてあり、「まるで印象派のピサロの絵のような」一枚。後者は斜め上から胴体だけを写し、湖の波の形もくっきりと写し出されている。写したいのは人物なのか水なのか。「夏の日というドキュメンタリーだ」とミンデール氏は言う。

1932年のぶつかり合い

 ところで、こうした対立する2つの表現方法は当時世界中に存在していた。
 「ただ、スイスでは特に1932年に両者がそれぞれ独自の展覧会を開催し、激しくぶつかり合ったことは特筆すべきもの。この写真展では、このぶつかり合いを示そうとした。また、決してどちらかがより優れていると言うのではなく、2つの表現があるということも示そうとした」
 とミンデール氏は説明する。

 実際、1930年代初頭に主流だったアカデミックな絵画的手法派は、近代的手法派を「日常のものを写し、それらはまるで魂のない静物画だ」と批判した。そして、1932年にはルツェルンで「初めての国際写真展」を開催。世界24カ国から4000点もの作品が集まる大写真展だった。

 一方、近代的手法派の代表者スイス・工芸美術家組合「シュヴィツァーリッシェ・ヴェルクブント ( Schweizerische Werkbund / SWB ) 」は、ルツェルンで展示された写真を「時代遅れの絵画のイミテーション」と批判。写真展の審査委員に選ばれなかったことに抗議して、直ちに自分たちだけの写真展をザンクトガレンで開催した。同展はその後スイスの各都市を巡回し大反響を巻き起こしている。

 「しかし、こうした2つの対立する手法は現在の写真家の間にもある。またアマチュアのカメラマンでも2つの表現方法があることをこの写真展で再確認し、日々のスナップ撮影に生かしてもらえれば非常にうれしい」
 とミンデール氏は話す。
 
里信邦子 ( さとのぶ くにこ ) 、プランジャンにて、 swissinfo.ch

スイスでは1920年代にすでに多くのアマチュア写真家が存在し、写真家のクラブが多数存在した。彼らは同時に1906年創立の「スイスアマチュア写真家協会」のメンバーだった。

こうした写真家たちは1930年代に入り、ますます活発な活動を繰り広げた。1932年には、雑誌「カメラ ( Camera ) 」が中心となってルツェルンで「初めての国際写真展」を開催。これは世界24カ国の写真家400人から、4000点もの作品を集める大写真展となった。

しかし、同展は絵の手法をそのまま写真に移し変えた「アカデミックな絵画的手法派」のものばかりで、表現は印象派の絵画またはロマン派の絵画に近いものだった。

一方、急激な社会の変化に敏感に反応する「近代的手法派」が同時に存在した。彼らは前者を「時代遅れの絵画のイミテーション」と批判。アカデミックな絵画的手法派は、近代的手法派を「魂のない静物画を写す」と批判した。

近代的手法派も1932年の同じ時期にザンクトガレンで写真展を開催した。

今回は120点の写真を通じてこうした2派の違いを展示した。

「1930年代のスイスの写真展」は、スイス国立博物館 ( シャトー・ド・プランジャン、Château de Prangins ) で2009年6月5日から10月25日まで開催されている。

入場料:7フラン ( 約620円 )
住所:Château de Prangins( シャトー・ドゥ・プランジャン)、1197 Prangins
電話 :+41 22 994 88 90

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