天井を空気で支える革新技術

ツーク州ツーク市 ( Zug ) に本社を置くコビアックス・テクノロジーズ社は今年初旬、「2010年スイス環境賞」を受賞した。同社が開発した建築材料を使うと、コンクリートの使用量を最高42%まで減らすことができる。
この革新技術の中身はいたって単純。スラブと呼ばれる天井部分のコンクリートの中に空気が入った球体 ( 中空体 ) を並べて平面全体に埋め込むのだ。
言われてみれば当たり前
スイス環境賞は、革新的な技術の実現を支援する基金「プロアクア・プロヴィタ ( Stiftung pro Aqua-pro Vita ) 」が贈与している賞だ。審査委員長で「環境・プロセス工学研究所 ( UMTEC ) 」の教授を務めるライナー・ブンゲ氏は選考後
「本当に良い発明は常に『当たり前だ。そんなことは当然だった』と思わせるものだが、コビアックスの製品はまさにその通り」
と語っている。
従来の建築方法ではスラブ、つまり建物の各階を隔てるコンクリートは強度を得るためにある程度の厚さを必要とする。だが、その強度が得られるのであれば、材料がコンクリートである必要はない。建物が解体された後のコンクリートは特殊廃棄物として処理されなければならない。使用量が減るに越したことはないのだ。
2次元で荷重を軽減
「コビアックス・テクノロジーズ ( Cobiax Technologies AG、以下コビアックス ) 」が開発した中空体にはリサイクルされたプラスチックが利用されている。これを鋼鉄製の受け籠に入れて、その上下にコンクリートを流し込む。コビアックスの計算によると、この方法で建物の重量は従来より最高35%軽くなり、基礎にかかる荷重も15%軽減される。スラブが軽くなるため、支柱の数も最高4割まで減らすことができ、フロアをより広く使うことができる。
コビアックスのマーケティング・アシスタント、イザベル・ボッサルト氏は
「これまでにも管を通すなどの方法が利用されてきましたが、わが社の球体のように垂直面と水平面の両方で荷重を軽減できるものはほかにありません」
と強調する。
コンクリートは厚さがあるほど防音効果も高くなる。この技術ではその厚さを減らしているが、防音効果に影響はないのだろうか。
「ドイツの防音規格DIN4109にのっとった計測試験では、空気伝播音も固体伝播音も強固なコンクリート製と同じレベルで遮断されています」
とボッサルト氏。
優れた耐震性
この技術を利用した場合も、建築工程にはなんら変わりはない。ただし、一面に並べられた球体を受け止める面と球体を覆う面、つまり球体の上下に2度に分けてコンクリートを流すことになるため、その分余計に作業時間がかかる。
コビアックスによると、このようにスラブのコンクリートの間に中空体を挟み入れ、建物全体の重量を減らすと、地震の際に支柱や壁にかかる水平力も和らげられる。つまり、これは地震に強い設計でもあるのだ。この技術は現在、国際特許出願中だ。
コンクリート生成の際には多くの二酸化炭素 ( CO2 ) が排出される。そのコンクリートの使用量を減らすコビアックスの技術には、スイスだけでも年間約6万トンのCO2排出量削減の可能性が秘められているという。
小山千早 ( こやまちはや ) 、swissinfo.ch
・スリムライン:中空体の厚さ100~180mm
・エコライン:中空体の厚さ 225~450mm
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- UEFA本部 ( スイス、ニヨン )
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- エアレールセンター ( Airrail- Centre ) ( ドイツ、フランクフルト )
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