The Swiss voice in the world since 1935
トップ・ストーリー
スイスの民主主義
ニュースレターへの登録
トップ・ストーリー
ディベート
すべての議論を見る

20代でパイプカット、子どもを持たないと決めた若者たち

子どもを作ることについて、若い男性の意識は変化しつつある
子どもを作ることについて、若い男性の意識は変化しつつある Keystone

子どもを持つ?それはごめんだーー。20代前半で精管結紮術(パイプカット)を受けた2人の男性の選択は、現代社会における出生率の低下という大きな潮流と重なっている。あえて親にならない選択をする若者が増えているのは、なぜなのか。

おすすめの記事

「21歳のときにパイプカット手術を受けようと決めました」。そう語るラウルさんは現在27歳。「望まないのに父親になるリスクは冒したくなかったんです。自分の性生活は自分でコントロールしたいという気持ちもありました」と、電話インタビューで語った。

軽はずみな気持ちでそうしたわけではない。長い間、熟慮を重ねた上に出した結論だった。すでに手術を受けた友人から話を聞いたことも決断を後押しした。

「3人の泌尿器科医に相談し、最後の医師が私の決断に賛同してくれました。それでも、3カ月あげるから、その間によく考えるようにとは言われました」

迷いはなかった

スイスにおける不妊手術は、連邦法によると「判断能力のある18歳に達した者」が「手術について十分な説明を受け」、本人が書面で同意した場合に限り認められる。

しかし、泌尿器科医たちは非常に慎重だ。多くの医師が従う欧州泌尿器科学会(EAU)のガイドラインは、30歳未満の男性を対象とした精管結紮術を推奨していない。

ラウルさんの両親は、決断を先送りするよう望んでいたという。「父は私の判断を強く疑っていましたし、母からはせめて精子を凍結保存してと言われましたが、私はそうしませんでした」。手術から6年が経ち、ラウルさんは自分の選択が正しかったとより強く感じるようになった。現在のパートナーも同様だ。

「私たちは資本主義社会で子どもを作り、その子たちを生きるゆとりのないシステムの歯車にしようとは思いません。子どもを持たないほうが自由でいられ、自分の活動に使える時間も増えます」

ラウルさんは気候変動対策団体と反種差別主義団体で活動し、動物の権利のために闘うほか、ヴォー州の動物保護施設「Co&xister」で働いている。

親であること=幸せ?

もう1人、オリヴァーさん(仮名)も若くして不妊手術を選択した。自分の将来と地球の未来に問題意識を抱いたのが20代前半で、ヴィーガンや反種差別主義サークルでの活動を始めたのもこのころだった。

「パイプカットはカナダにいた25歳のときに受けました。向こうだとこの手術に関してあまり規制が厳しくないんです」。オリヴァーさんは現在30歳で学生だ。「医師に相談して同意してもらい、その日のうちに手術を受けました」

オリヴァーさんも、自身の生活スタイルが決断の背景にあった。複数の団体でボランティア活動をしているが、無報酬の身である以上、家族ができても今の時代に標準的とされる生活水準を保証できないという。

ラウルさんやオリヴァーさんのような考え方は決して特殊ではない。連邦政府の健康調査によると、子どもを持ちたくないと考える20~29歳の人の数は2013年~23年の間に約3倍に増加した。20代の6人に1人が該当することになる。

労働条件や、仕事と家庭の両立が困難だという点が要因に挙げられている。しかし、子どもを持つことが必ずしもより充実した生活、より素晴らしい生活を意味するわけではない——そう考える若者が増えているという点も見逃せない。

つまり、親になるということが幸せやパートナー関係、将来的なキャリアにはマイナスだと捉えられているのだ。

国連の最新の推計(世界人口推計2024年版)によると、世界の合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数の平均)は1950年代の1人あたり約5人から、2024年には約2.3人へ低下している。

人口を一定に保つ人口置換水準は1人あたり2.1人だが、合計特殊出生率がすでにこれを下回っている国は多い。欧州ではスペインが1.23、イタリアが1.21、マルタが1.11。アジアでも日本が1.23、中国が1.02、そして韓国が世界最低水準の0.75となっている。

スイスも例外ではない。2024年には合計特殊出生率が1.29と、統計開始以来最低水準となった。

不安な時代に子どもを産めるか

ジュネーブ大学人口統計学・社会経済学研究所所長のクレモンティーヌ・ロシエ教授も、こうした潮流は研究結果からもうかがえると話す。「2008~09年の金融危機後にも見られたような、先行きがわからないという不安の増大が主な原因に挙げられます。経済が不安定だと強く感じる時期があると、その9カ月後には出生数が減少するということが、様々な研究で示されています」

オリヴァーさんは、経済的要因のほかにも様々な理由が重なった。余暇を利用して大型スーパーなどの廃棄食品を必要とする人に配るなど、食品ロスをなくす活動に取り組んでいるが、「将来が心配なんです。世界は気候変動危機の中にあり、夏の気温は年々上昇しています。それだけではありません。私には世界がファシズム化しているように感じられるのです」と話す。

ロシエ氏は、こうした懸念はオリヴァーさんだけでなく、多くの人も抱いているものだと言う。「子どもを持たないという決断の背景には、深刻化する気候危機への不安もあります。いわゆるフェミニズム第3波のアップデート形である#MeToo運動などで、カップル間や家族内での男女の役割が問い直されたことも要因の1つでしょう」

男女平等が完全には実現していない社会で、仕事と家庭の二重負担などもはや受け入れられない。ロシエ氏は、そう考える若い女性が増えていると指摘する。

そうした社会の流れの中で、オリヴァーさんは避妊の責任を自分が引き受けることにした。パートナーの負担を軽減するためだが、それでよかったと考えている。「ピルを飲む必要も、望まぬ妊娠へのリスクもなくなり、彼女からとても感謝されています」

ロシエ氏は、避妊には身体的・精神的な負担だけでなく、経済的な負担もあると指摘する。「避妊手段の費用を負担しているのがほぼ女性であることが、複数の研究で明らかになっています。避妊は男女に責任があるものなのに、女性に負担が偏るという構図に拍車がかかっているのです」

二極化する男性像

性教育学者のヤニク・ベーム氏は、約10年前から学校で男子生徒を中心に性教育の授業を行っている。ベーム氏によると、性別やセクシュアリティというテーマを巡って、生徒たちの意見がある種二極化しているという。

フェミニズム的・進歩的な考え方をする生徒がいる一方で、従来の家族モデルや役割像の復権も感じるという。「真逆の価値観のせめぎ合いです。クラス内では3つのグループに分かれます。男女平等と新しい男性像に賛同するグループ。まだ考えが固まっていないグループ。そして、保守的で時に女性蔑視的な考えを持つ『マノスフィア』や『インセル』などの影響を受けているグループです」

ベーム氏によると、最後のグループは特に同性愛への嫌悪が顕著で、同性愛や女性的とみなされるものをすべて蔑視することで自らの男らしさを証明しようとする傾向がある。教室内で意見が真っ向から割れ、その対立関係と緊張感を肌で感じるという。

授業ではセクシュアリティについて話し、様々な避妊手段を紹介している。ベーム氏は、スイスではピルの使用が減少し、コンドーム、子宮内避妊器具(IUD)、リズム法が選ばれるようになっていると指摘する。

「スイス性の健康協会(Sexuelle Gesundheit Schweiz)」の理事も務めるベーム氏は「コンドームは100%確実な避妊方法ではなく、望まぬ妊娠につながる可能性は15%にも上ると言われています。代替手段もあまりないですし、パイプカットを決断する若い男性は今後増えていくかもしれません」

たとえばフランスでは、2010年と22年を比較するとパイプカット手術の件数は15倍に増えた。そもそもの件数が非常に少なかったことを考慮しても、まさに爆発的なブームだった。同国では男性が不妊手術を選ぶという流れが、1つの明確なトレンドとしてすでに定着しつつある。ただし、世界的に見ると男性の不妊手術の年間件数は減少傾向にある。

非常に若いときに決断したという点からも、オリヴァーさんとラウルさんは世界の流れとは逆を歩んでいる。ただし、オリヴァーさんはいつか父親になる——養子縁組やほかの方法を使うかもしれないが——という考えを完全に捨てたわけではない。

ラウルさんにとって、この話はすでに終わったことだ。「パイプカットについては後悔も疑問もまったく感じませんが、自分の希望でやったとはいえ、タトゥーに関しては彫らなければよかったと思っています」と、彼は笑いながら話した。

編集:Marc Leutenegger、独語からの翻訳:吉田奈保子、校正:宇田薫

おすすめの記事

10言語で意見交換
担当: Turuban Pauline

出生率を高めるためにどんな措置を取れば良い?

出産を奨励するために、政府は何ができるでしょうか?

35 件のいいね!
32 件のコメント
議論を表示する

Editiert und aus dem Italienischen übertragen von Marc Leutenegger

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部