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安全なクラウドコンピューティングを模索するスイス金融業界

クラウドコンピューティングは、企業のデータ保管の問題を解決できる Keystone

クラウドコンピューティングは、利益を押し上げる最新革命と喧伝される一方、一時的な流行の過剰宣伝と冷笑もされている。この最新システムは、スイスビジネスの展望に影響を与えている。

顧客に情報保管サービスを提供するクラウドコンピューティングは、IT分野の外注サービスに新次元を開拓した。しかし金融業界は、完璧な機密性を備えた利用法の開発に取り組んでいる。

急拡大するビジネス

 クラウドコンピューティング ( Cloud computing ) は、企業が本業に専念できるよう、社外プロバイダーが提供するITサービスの構築とメンテナンス、データ処理を意味する。

クラウドコンピューティングによって、企業はITインフラ、ソフトウェア、電子メールのようなサービスを随時必要に応じた利用払いで受けられるようになった。その結果、企業はビジネスサイクルに対応したデータ保存スペースの拡大や縮小を自由自在にできる。

 クラウドコンピューティングはまだ発展途上だが、今年の収益は17% 上昇の680億ドル (  約5兆6900億円 ) 、そして2014年までに1500億ドル ( 12兆5500億円 ) を計上すると期待されている。

 スイス最大の通信プロバイダー、スイスコム ( Swisscom ) は、この夏クラウドコンピューティングのサービスを開始した。一方、ブームの到来を期待する小規模企業も次々と誕生している。アメリカの大手IT企業ヒューレットパッカード ( Hewlett Packard ) は、来年2月にクラウドコンピューティングの欧州サービスセンターをチューリヒに設立する予定だ。

「全くちんぷんかんぷん」

 出版グループのリンギエ ( Ringier ) 、環境コンサルタントのヴァロレ ( Valorec ) 、連邦地理局のスイストポ ( Swisstopo ) などすでに相当数の企業や組織がクラウドコンピューティング・サービスの契約を結んでいる。

 スイスコムの広報担当オラフ・シュルツェ氏は、提携企業2社を通じて多様な業界の企業にデータ保管サービスを提供していると言う。また、近い将来自社の能力を増強し、サービスの種類を拡大できるようになると説明。

 「クラウドコンピューティングは、情報・コミュニケーション分野のビジネスの中で、急速に発展している領域の一つです。現在はまだ低水準ですが、今後数年のうちに発展するでしょう」

 しかし、クラウドコンピューティング・サービスの使用料は将来上昇する可能性があるため、私企業がなぜ機密情報を社外機関に委ねなければならないのかと指摘する声もある。

 「コンピューター業界は、女性のファッションよりも流行に左右される唯一の業界です」

 とクラウドコンピューティングについてオラクル社 ( Oracle ) の創設者ラリー・エリソン氏が近ごろコメントを述べた。

 「わたしがばかなのかもしれませんが、人が話していることがさっぱりわかりません。何を言っているのか全くちんぷんかんぷんです。どうかしています」

盗まれた銀行のデータ

 スイスの金融業界は、データ保管のためにクラウドコンピューティングを使用することに懐疑的だが、それには理由がある。

 スイスでは過去18カ月間に、顧客情報を記録したCDが数枚盗まれ外国政府機関に売却された事件など、機密保持侵害の不名誉な事態が発生した。

また経済協力開発機構 ( OECD ) から、顧客情報の機密保持の規則を骨抜きにするよう圧力をかけられ、顧客情報の機密保持や銀行の守秘義務の問題は一層深刻化した。

 さらに悪いことに、スイスは昨年UBS銀行の顧客情報の詳細を開示するようアメリカ政府との取引を強いられた。

 チューリヒ連邦工科大学 ( ETHZ/EPFZ ) のIT関連の法律専門家ダーフィト・ローゼンタール氏は、銀行の顧客情報の国外流出を防止する法律は、クラウドコンピューティングの使用を阻む障害となり得ると語る。

 「世界各地にデータセンターを持つクラウド・サービスのプロバイダーの問題は、いつどこに情報があるのか正確に答えられないことです」

自分で解明

 しかし顧客情報がどこにあるか分かっていたとしても、それを犯罪捜査の証拠として入手を狙う国の中にその情報が存在する場合は危険だ。

 「もしアメリカの連邦保安官が、裁判所の情報請求命令を携えてアメリカ国内のデータセンターにやって来たら、プロバイダーはどんなに高水準の機密保持サービスを提供していようとセキュリティを解除して、その情報を渡さなければなりません」

 とローゼンタール氏は言う。

 スイス銀行最大手のUBSとクレディスイスはコメントを避けたが、両行ともこの問題についてすでに検討を開始している。

 UBSは最近、有力な多国籍企業から成るオープン・データ・センター・アライアンス ( Open data Center Alliance ) に参加した。この組織は、クラウドコンピューティングについての国際基準の設定を公に要求している。

 またクレディスイスは、連邦工科大学ローザンヌ校 ( EPFL ) に来年コンピューター開発センターを新設する。研究員には、金融業界のためにクラウドコンピューティングの安全な使用方法を開発する任務が課されている。

 「 ( クラウドコンピューティングは ) 、それ自体が良い、または悪いというモデルではありません。ある種のビジネスの運営には効果的です。サービスのレベルが必要とする水準に合っているかどうか判定するために、ケースバイケースでそのコストと利益を分析する必要があるでしょう」

 とローゼンタール氏は語った。

クラウドコンピューティングは、サーバーの「電信網」、または顧客がインターネットに接続して受けられるITサービスを指す。

クラウドコンピューティング・サービスを提供する企業は、顧客のシステムのインフラ構築、メンテナンスを行い、電子メール、ソフトウェア・パッケージ、データ保管、サーバーへのアクセスなどオンデマンド型の各種サービスを提供する。

アマゾン ( Amazon ) 、ラックスペース・クラウド ( Rackspace Cloud ) 、セールスフォース ( Salesforce ) 、マイクロソフト ( Microsoft ) 、グーグル ( Google ) 、IBM、シーメンス ( Siemens ) 、シスコ ( Cisco ) 、ヒューレットパッカード ( Hewlett Packard ) などの企業がこの分野のリーダー。 

社員8000人を抱えるスイスの出版グループのリンギエ  ( Ringier ) は、グーグルの電子メールサービスの使用によって年間約100万フラン ( 約8720万円 ) の節約を目指す。

( 英語からの翻訳 笠原浩美 )

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