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馬から習う「部下の心をつかむコツ」

シラノとヴァレンティン・フリシュクネヒト氏から人心をつかむ極意を習う swissinfo.ch

スイスの経営陣の中には文字通り、馬からビジネス戦略を習っている人々がいる。スイスインフォがこの一風変わったビジネス・セミナーに潜入した。

このセミナーを開いているのはチューリヒ郊外のビジネス・コンサルタント会社。彼らによると、馬の行動パターンを知ることは、人間社会でも参考になることが多いという。

 セミナー参加者の中には、チューリヒ国際空港の運営会社「ユニーク」、ヨゼフ・フェルダー最高経営責任者(CEO)など大物も含まれる。

馬に嘘はつけない

 「何とも忘れがたい経験でした」とフェルダー氏は語る。「相手は動物ですから、全く純粋に反応してくるわけです」

 チューリヒ郊外でこのセミナーを開催しているのは「アドバンス・パーソナル・コミュニケーションズ(APC)」。CEOのヴァレンティン・フリシュクネヒト氏は語る。「他者の気持ちを理解しようという姿勢を持つことができる人を『馬のささやき声を聞ける人』と定義しています。また、馬の群れの動きは、企業内の人の行動パターンと良く似ています」

リーダーに求められるもの

 「馬の群れを率いているのは雌馬です。通常、種馬となるような牡馬が群れを率いていると思われがちなのですが、実は違うのです。そして、この雌馬には、主に3つの特徴があります。第1には思っていることを他の馬に明確に伝えることができる。第2には皆から信用されている。第3に、完全な尊敬を得ている」

 「私たちはここに注目しました。明確な意思伝達、信頼、尊敬。意味が良く分からなかったり、信頼や尊敬を充分にしていなかったりした場合、馬は決して指示通りに動きません。人間も一緒です」

 APOは定期的に体験セミナーも開いている。最近開かれた体験セミナーに参加してみた。参加者は6人。このうち筆者を含めて4人は、今まで馬に触れたこともない初心者だ。後の2人は子供の頃、乗馬のレッスンを受けたことのある人たちだった。

 職業はヘッドハンター、人事の専門家、チューリヒのプライベートバンクの男性部長、テレビ局のジャーナリスト、そしてスイスのチャリティ団体の女性役員、と様々だ。やるべき事と、やってはいけない事の講習をざっと受けて、さて実際馬に乗ってみる。

 フリシュクネヒト氏は強調する。「馬の群れには必ずはっきりとした上下関係があります。その上で、彼らは群れを率いる雌馬に従って動くのです。この雌馬は、群れの中で最も強い馬です。彼女は他の馬よりも年配で賢く、だからこそ群れを率いているのです。馬は明確な指示にのみ反応します。企業の従業員も同じです」

3つの要素

 まず馬に触ってみることから始める。信頼を得るために必要なのはボディ・ランゲージだ。私の前に立った500キログラムのシラノに身体をさすりながら優しく声をかけてみる。すると彼は口をもぐもぐし始めた。不安を感じていないサインだ。

 次は、囲いの中で馬を誘導する。手綱をぐっと引っ張ると、2、3歩は歩いてくれたが、すぐに立ち止まってしまった。

 フリシュクネヒト氏に助けを求めると、返ってきたのは「リーダーシップには3つ、必要なことがあります」と言う説明だった。「気持ちの上でしっかりゴールを定めること、自信を持つこと、そしてその意図をはっきり身体で表すことです」

 よし。決意を固めて、私は断固とした調子でシラノに言った。「私に付いてきなさい」。これが功を奏したのだ。私が手綱を引っ張ると、彼は歩き出した。しかも、ほめてやると嬉しそうだった。

 次には、5メートル離れた所から手綱だけで馬を動かす課題が課せられた。2つのバケツの間を歩くことを馬に言って聞かせる。シラノは良く言うことを聞いた。ところがバケツが8つになると事はそう簡単に進まなくなった。

これは仕事なんだ

 フリシュクネヒト氏の声が飛ぶ。「馬に、これはあなたが本当にやらせたい仕事なのだと理解させることが重要です。これには、お互いの尊敬が前提条件です」。それから、4つの段階を経てだんだんと言うことを聞かせる方法を自ら実演で見せてくれた。

 「マネージメントの世界では、脅かして何かをさせようとしてもだめです。また、プレッシャーは段階に合わせて少しずつ強めていきます」。馬の世界でどうするかと言うと、彼は手綱を馬のすぐ近くでぴしっと鳴らせた。この音だけで、馬は驚いて飛び上がった。

 馬の身体に鞭打ったわけではなかったが、フリシュクネヒト氏はこれで馬の気を逸らせずに、手綱で自由に馬を操った。

 さて筆者も同じく成功したかどうか?愛情たっぷりに話しかけ、真似して一打ち、ぴしっとやってみると、シラノは無理なく歩き出した。ところがやっぱり8つのバケツとなると難しい。今度はヘッドハンターの女性が試してみた。彼女はすぐに手綱を取ると、躊躇なく打ち鳴らした。結果は明らかだった。馬は指示に従うことをボディ・ランゲージではっきり拒否したのだ。

 参加者は口をそろえて「このセミナーから得ることは多かった」と語った。銀行のディレクターが「ここで学んだことを職場ですぐに使ってみるつもりだ」と言うと、さっき馬の扱いに失敗したヘッドハンターも「もし本当に言うことを聞かせたかったら、自分の有り余るエネルギーをちょっと調節する必要があることを知った」とうなずいた。

 私を含めた他の参加者にとっては、この4本で歩く動物に対する恐怖がたった数時間で消え、しかも今度は2本足で歩く動物の行動についても更なる興味が湧いたことが喜ばしい驚きだった。

swissinfo、ファイヤル・ミルツァ 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

実際のセミナーは3日間。1日目は「リーダーシップとは何か」というテーマでの講習、2日目は馬との実習、3日目は経験で学んだことを実際のビジネス・シーンにあてはめる応用。

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