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2024年6月9日のスイス国民投票

6月9日に行われたスイス国民投票の目玉は医療費抑制だ。再生可能エネルギーを促進する法律、ワクチン接種の義務化禁止を求める提案についても是非が問われた。

電力法以外の提案はすべて否決された。

上がり続ける基礎医療保険料はスイス国民の大きな関心事の1つだ。今回、中道・中央党(Die Mitte/Le Centre)と社会民主党(SP/PS)がそれぞれ出した2件の医療費抑制案が国民投票にかけられた。

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社会民主党が提案した「保険料軽減イニシアチブ(国民発議)」は、基礎医療保険料が世帯収入の10%を超えた場合に補助金を給付して減免する案だ。財源の少なくとも3分の2は連邦が、残りは州が負担する。

いかなるスイス市民も、イニシアチブ(国民発議)を起こして憲法改正案を提案できる。それには、10万人の署名を18カ月以内に集める必要がある。その後、提案の是非が国民に問われる。イニシアチブが可決されるには、憲法の改正という重大な決定であるが故に、国民と州の過半数の賛成が必要だ。

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担当: Katy Romy

6月9日の国民投票:医療費の上昇を抑えるには?

保険料上昇のスパイラルを止めるにはどういった措置が効果的だと思いますか?

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イニシアチブの目的は医療費の支払いが困難な人を救済することだ。現在も連邦政府・州による減免措置はあるが、補助金額などは州の裁量に委ねられ、地域によって大きな格差がある。そうした州間の不平等を是正しようというのもこの提案の狙いだった。

だがこの提案を支持する主要政党は緑の党(GPS/Les Verts)だけ。投票結果も、賛成は44%にとどまった。

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一方、中央党の提案は、基礎医療保険の給付額の増え方に対して経済・賃金上昇に連動した「コスト・ブレーキ」制度を導入するという内容だ。

具体的には、基礎医療保険における加入者1人当たり保険給付額の年間伸び率が賃金上昇を2割上回った場合、連邦政府は是正措置を講じなければならない。ただ公的部門が具体的にどのような措置を講じるべきかには触れていない。

中央党は、医療に携わる全ての関係者が、以前から議論の俎上に上がっていたコスト削減策を実行に移すことになるだろうと訴えていた。しかし、連邦内閣(政府)、そして主要政党はいずれもこの案に反対した。

投票結果は、賛成が37%と伸び悩み否決された。

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スイスでは、医療費の高騰が特に低所得世帯を直撃している。スイスでは、医療費の約4分の1超(25.3%)が窓口負担だからだ。

この割合は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均を上回る。フランスは9.3%、ドイツは12.7%、日本は13%、イタリアは23.3%だ。

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公的・民間部門が混在するスイスの医療制度は世界で最も高額、かつおそらく最も複雑だ。民間の医療保険市場は厳格な規制が敷かれている。ヘルスケアは各州の管轄だが、連邦レベルで規制されている部分もある。

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6月9日の国民投票で是非が問われたもう1つの争点は電力法だ。昨年9月に連邦議会で可決されたこの包括的な立法パッケージは、国内における再生可能エネルギー開発を促進し、特に冬季の電力供給確保を目的としている。

この法律には具体的な目標が含まれており、2035年までに少なくとも35テラワット時(TWh)の電力を再生可能エネルギーから、37.9テラワット時を水力から生産すると定める。この目標を達成するため、指定区域における大規模な水力、太陽光、風力発電所の認可プロセスを容易にする。発電所建設に伴う国益が自然保護よりも優先されることになる。

問題はまさにこの最後の点にある。環境保護団体フランツ・ウェーバー財団は、他の小規模な自然・景観保護団体とともに、法律の施行に反対するレファレンダム(国民表決)を立ち上げ国民投票に持ち込んだ。反対派は法律の施行が自然や景観を脅かすと訴えていた。

しかし投票では69%の有権者が法の施行に賛成した。

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気候変動とエネルギー危機を受け、原子力発電への回帰が起こる可能性もある。日本は原発を再稼働させ、フランス、ベルギー、フィンランドは原発の運転延長に踏み切った。

スイスが段階的な脱原発を決めたのは、2011年3月の福島第1原発事故直後だ。しかしその6年後、原発回帰への議論が再燃した。主に右派が太陽光発電や風力発電だけではエネルギー転換は達成できないと主張する。

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4つ目のイニシアチブは、本人の意志に反するワクチン接種を禁止する「自由と身体的完全性のために」(通称「ワクチン接種義務の禁止」)だ。市民団体の自由運動スイス(FBS)が新型コロナウイルス感染症のパンデミック時に提出した提案で、ワクチン接種など人の「身体的・精神的不可侵性」に介入する際は本人の同意を必要とする、という文言を憲法に盛り込む。同意を拒否しても罰則を受けたり社会的・職業的不利益を被ったりしないことも明記する。

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政界では保守・国民党(SVP/UDC)会派だけが支持している。スイスではそもそも、いかなる人も自分の意思に反してワクチン接種を強制されることはない。

投票では反対が75%と大差で否決された。

独語からの翻訳:宇田薫、校正:大野瑠衣子

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