スイスが中国とのFTAアップグレードに合意、対中ビジネス拡大狙う
スイスは8月、中国との自由貿易協定(FTA)をアップグレードすることで合意した。米国と欧州連合(EU)との不安定な貿易条件に直面しているスイス企業にとっては重要な分岐点となる。
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米国は7月、一部のスイス製品に対し、他の欧州諸国に対する水準よりも高い、最大12.5%の追加関税を発動した。欧州連合(EU)もスイス産鉄鋼への関税を引き上げた。スイスのEU電力市場へのアクセスは新たな二国間協定の枠組み条件に左右される。
こうした状況下で他の地域市場への事業多角化を模索するスイス企業にとって、スイス・中国FTA拡充への合意は絶妙なタイミングで訪れた。
経済連合エコノミースイス(economiesuisse)は「スイス経済にはすべての主要輸出市場との幅広い貿易関係が必要だ。輸出先を多様化することで、特定地域への依存を減らせる」とする。
過去12カ月にわたる対米交渉でスイス外交が「失敗した」という印象を与えたのとは対照的に、中国との交渉は成功裏に終わり、スイスメディアはこれを高く評価している。
独語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、米国による直近の報復関税措置について、「
中国との関係をこれ以上深めるな、という警告とスイス連邦政府は解釈している」と報じた。「しかしスイス連邦内閣(政府)は、貿易相手について他国からの指図は受けないという姿勢を崩していない」
現行のスイス・中国のFTAは2014年に発効した。当初は年間2億9000万フランの関税削減効果があると楽観視されていたが、2017年の実際の節約額は1億フランにとどまった。
非関税障壁
今回のFTAアップグレード交渉では両国が免税対象品目の拡大に積極的で、なかでもスイスの時計や医薬品が新たな対象として注目を集めた。改定FTAが承認されれば、発効後10年以内にスイスの輸出品の99.8%が無関税になる見込み(現在は53.6%)だ。スイス連邦経済省の試算では年間約2億4400万フランの関税削減効果がある。
一方で、貿易協定の真価は、技術的障壁のみならず、煩雑な許認可手続きや各種規制といった非関税障壁をどこまで取り除けるかにもかかっている。
北京の中国スイス商工会議所(Swisscham)事務局長、ギヨーム・ジョイエ氏によれば、こうした非関税障壁で最もよく見られるのは、複雑な製品登録と認証手続き、規格や試験要件の違い、税関や許認可手続き、そして規制の実施方法の地域差などだ。
産業団体は、こうした分野における進展を評価するのは、アップグレードの詳細がわからない限り難しいと言う。
スイスの時計産業は、改定FTAから最大の恩恵を受ける分野の一つとなりそうだ。現在、免税対象のスイス製時計はわずか1%だが、改定後は全ての製品が無関税になる。スイス時計工業連盟によれば、時計メーカーは現行FTAのもと、年間約1億フランの関税コスト負担を強いられてきた。
ただ、いくつかの懸念材料が残る。
スイスの中国向け時計輸出は、2024年初めから2025年末にかけて3分の1減少した。
スイス時計協会のチーフエコノミスト、フィリップ・ペゴラロ氏は「中国経済は今、GDP(国内総生産)の大きな割合を占める不動産セクターの低迷の影響を強く受けている」と指摘する。
今年上半期、中国国内の時計販売は前年同期比で7.1%減少した。ペゴラロ氏は「金融環境の悪化が主な要因だが、目下、富裕層を直撃している財政引き締めの影響もある」と言う。
米国による最先端技術の対中輸出制限
中国を含め世界全体で経済環境が不安定化するなか、スイスと中国の貿易総額は、2022年の363億フランから昨年は335億フランへ減少した。
さらに、中国経済の成長を抑えようとする米国の対中強硬政策が、中国との貿易拡大を脅かしている。米国は最先端技術の対中輸出を繰り返し制限し、他の同盟諸国にも同様の対応を求めている。
こうした状況について、政府系機関であるスイス貿易振興会(Switzerland Global Enterprise)の広報担当者は、「米中の貿易摩擦が続くなか、企業は各市場の規制環境を正確に把握し、輸出管理やコンプライアンス要件を確実に守る必要がある」と語る。
さらに、両国で合意に至ったとはいえ、FTA改定案が連邦議会の審議課程で骨抜きにされたり、国民投票にかけられた場合は有権者に否決されたりする可能性もある。左派政党は、米国やEUとの貿易摩擦を理由に、スイスが中国に過度に接近する必要はないと主張している。
国民投票になる可能性
左派・緑の党(GPS/Les Verts)は対抗手段としてレファレンダム(国民表決)をちらつかせる。同党のリサ・マッツォーネ党首は、「中国は、スイス国内でチベット人やウイグル人を監視し、迫害している。中国国内での強制労働も深刻な問題になっている」と批判する。
同じく左派の社会民主党(SP/PS)も対中FTAに懐疑的で、中国が労働者の権利や環境を保護するという確約の証拠を示すよう求めている。
また、欧州自由貿易連合 ( EFTA)―― スイス、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー――と南米関税同盟(メルコスール、アルゼンチン・ブラジル・パラグアイ・ウルグアイ)とのFTA交渉は目下、その批准プロセスが停滞しており、経済と政治が深く絡むことを示唆している。今年6月、8年にわたる交渉を経て2025年9月に署名されたEFTA・メルコスールFTA案は、スイス国民議会(下院)に否決された。議会を通過しても、国民投票にかけられる可能性がある。
編集:Reto Gysi von Wartburg/si、英語からの翻訳:竹原ベナルディス真紀子、校正:宇田薫
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